家族への告白と祖母の目
応接室には、まだ少しだけ先刻の余韻が残っていた。
拘束されたエリオットはギルドの係員に引き渡され、室内に残ったのはクララとイーサン、そしてアルフォンス。
ほどなくして、父ローレンス、母セリーヌ、兄エレンも部屋へと入ってきた。
空気は張りつめているが、誰も声を荒げてはいない。
「……状況を説明していただけますか」
父が静かに問いかけた。
アルフォンスはゆっくり頷き、机に記録石を置いた。
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まず、なぜクララが狙われたのか、アルフォンスは淡々と告げる。
「エリオット・ファルネストの供述は、記録石に収めてある。エリオットは、はっきりとこう言った」
「“クララ様は、誘導が効きそうだった。従順で、押しに弱く、扱いやすい。結婚すればローレンス家の財産・地位ごと手に入る”」
クララは胸がきゅっと痛んだ。
家族の色の揺れが広がる。怒り、悔しさ、しかし誰一人クララを責める気配はない。
エレンがゆっくりと息を吐く。
「……つまり、クララを……“駒”にする気だったと」
「その通りだ」
アルフォンスは静かに頷いた。
「クララ嬢が特別だからではない。“利用しやすい”と思われたからだ」
その言葉は残酷だけれど、真実を淡々と置くような言い方だった。
クララは視線を落とす。
イーサンがそっと隣に立ち、言葉にはしないが、その灰色に“支える”力があった。
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少し不思議そうな顔で父が問う。
「……しかし、なぜクララはその異常に気づけたのです?」
アルフォンスは、ここで初めてクララを見る。
「…クララ嬢には、“揺らぎの眼”があるからだ」
家族が息を呑む。
母が静かに言う。
「その……揺らぎの眼というのは……?」
アルフォンスは穏やかな声で続ける。
「魔力の感情流を“色で捉える”能力だ。非常に希少で、危険も伴う」
エレンが小声で呟く。
「……そうだったのか」
クララは小さくうなずいた。
「…ずっと……隠していました。お祖母様に“言わないように”って言われてて……」
母がはっと目を見開く。
アルフォンスは静かに頷いた。
「クララ嬢の祖母マルグリットは、その能力を熟知していた。“この力は狙われる”“まだ若いクララには荷が重い”そう言って、それとなく見守るよう存在を私だけに知らせたのだ。…もっとも、イーサン君は“色が見える”とまでは知らぬが、クララ嬢の“反応の癖”から何か特別な感受性があると察してはいたようだがな」
父ローレンスの揺らぎが、深い青に変わる。
怒りではない。誰よりクララを理解しようとしている色だ。
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母はクララの手にそっと触れた。
「……言えなかったのね。怖かったのでしょう?」
クララは目を伏せる。
「……はい」
エレンは真剣な声で言う。
「クララ、俺たちに黙っていたからって、責めるつもりなんてないよ。むしろ……一人で抱えていたんだなって思う」
父も頷いた。
「どう説明して良いかも難しかっただろう、1人で抱えてつらかったな。」
家族全員、驚いているのに落ち着いていて、クララを責める色はひとつもない。
クララの胸がじわっと温かくなる。
(……受け入れられた…いや、初めからそうだったんだ…)
静かに、緩やかに、孤独が溶けていく。
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アルフォンスは立ち上がり、まとめるように言った。
「クララ嬢の眼がなければ、ローレンス家はエリオットに呑まれていただろう」
家族が息を呑む。
「危険を見抜き、耐え、通報し、最後には自ら罠に足を踏み入れ、証拠を引き出した。この家を守ったのは…クララ嬢だ」
クララは、返事をする前に胸が熱くなった。
イーサンが小さく囁く。
「クララ様……誇ってください」
アルフォンスが満足げに頷いた。
「ローレンス家は、良い娘を持った。
そして……“揺らぎの眼”を持つに足る心もな」
クララは、小さく、小さく息を吐いた。
家族の色が穏やかに澄んでいく。
揺らぎは、もうほとんどにじんでいなかった。




