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無口令嬢、今日も色で嘘を看破します。  作者: ちょこだいふく


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14/20

金色が示すもの

エリオットが去った応接室には、

甘い残滓だけが薄く漂っていた。


扉が閉まる音を合図に、

アルフォンスが静かに息を吐く。


「……金、か」


イーサンの灰色は深い青を揺らし、私の肩をそっと支えた。


「クララ様。ご無事で何よりです」


(……怖かった……)


私は胸を押さえながら、かすかに頷く。


「…ねぇ、あの金色って……何なんですか?」


アルフォンスは杖の先で床をコツ、と叩いた。


「“術を定着させる覚悟の色”だ」


(……覚悟……?)


老人は続ける。


「誘導術を使う側が、標的を“完全に手に入れる”と決めた時にだけ現れる。甘い誘導は前座……金色は、その後に続く“本番の術”の予兆だ」


ゾッとした。


(……つまり……私を……)


イーサンの青が鋭く震える。


「クララ様に危害を加える……あるいは、精神そのものを掌握したいという意思……?」


アルフォンスは短く頷いた。


「そのどちらでもおかしくないな。いずれにせよ、今のローレンス家では防ぎきれぬ」


応接室の空気がぱき、と緊張した。



私は震えながら聞いた。


「……じゃあ……なんで今、エリオットを捕まえられないんですか……?」


老人は、重いまなざしで私を見た。


「魔術犯罪は“直接証拠”か“現行犯”以外では拘束できん。誘導臭も贈り物も状況証拠に過ぎんのだ。…つまり、奴自身の魔力痕跡を、決定的な形で押さえねばならぬ」


(……そんな……)


アルフォンスの声は、厳しいが説明は丁寧だった。


「金色が出たということは、やつは近く“本番の術”を使うというサインだ。その時こそ、確実に魔力の残滓が残る。……捕らえるなら、その瞬間だ」


私は無意識に手を握りしめていた。


(……つまり……私を狙う瞬間……)



アルフォンスは低く宣言する。


「……“対抗術式の結界”を張る必要がある。クララ嬢を守るための盾だ」


(……結界……)


「ただし、家族には悟られぬようにな。エリオットは家族が“誘導済み”だと信じている。今やつが最も警戒しているのは……君だけだ」


(……私が…狙われてる……)


怖い。

逃げたい。


でも――


(……逃げたら、家族が危ない)


私は唇を噛んだ。




「どうすれば……?」


イーサンが迷いなく答える。


「次は、クララ様を“直接”動かそうとするはずです」


(直接……)


アルフォンスが鋭く頷く。


「家族の目の届かぬ“場所”へ誘うだろうな。それが“本番”の合図だ」


その瞬間、エリオットが帰り際に見せた笑顔が脳裏をかすめた。


(……“また近いうちに”……)


アルフォンスが静かに言う。


「クララ嬢。次の誘い……受けるのだ」


(……っ)


イーサンも声を潜める。


「危険ですが…“罠として逆に利用”できます」


胸が高鳴り、手が震える。


「で、でも……私……色がにじんで……また読み誤ったら……」


イーサンが、そっと私の震えた手を包む。


「クララ様は今日、完璧でした」


(……っ……)


「読み違えは、すべて私が補います。揺らぎの速度は、アルフォンス様が読む」


老人も即座に言った。


「そして何かあれば、私が“直接割って入る”。術者ごと叩き伏せる覚悟はある」


二人の声は違う色なのに、なぜだか同じ温度で響いた。


(……大丈夫……怖いけど……大丈夫……)


私は深呼吸し、ゆっくり言葉を絞った。


「……分かったわ。次の誘い……受ける」


アルフォンスが満足げに笑う。


「よく言った。それが——“標的”ではなく“狩る側”の構えだ」


(……狩る……側……)


老人の瞳が獣のように細まる。


「狩られるふりをして、喉元に噛みつく。それが反撃の基本だ」


(……!)


イーサンも拳を握る。


私の胸の奥で、青が静かに震えた。


(……私は逃げない)


その時――


コン……


使用人の控えめなノック。


「……クララ様。エリオット様より、お手紙が届いております」


部屋の空気が、瞬時に凍りついた。


イーサンの青が鋭く光り、アルフォンスの瞳が細くなる。


老人は封筒に漂う甘い匂いを嗅ぎ、呟く。


「……これは“誘いの術式”の匂いだ。クララ嬢……奴は、もう次へ動いておる」


イーサンが私の手を握りしめる。


「ここから先は……一歩も離れません」


胸の奥の色が震えた。


——ついに、動き出した。


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