静かな令嬢と揺らぐ色
新しく描きました٩( 'ω' )و
よろしくお願いします٩( 'ω' )و
ローレンス家の朝はいつも静かだ。
その静けさの中心にいるのは——私、クララだと言われている。
「クララはおしゃべりが苦手なのよね、今日も静かだけれど、顔色はとっても良さそうだわ」
母のセリーヌが、微笑ましそうに言う。
私が喋らないのは、単に喋ると疲れるからだ。
頭も口も忙しく動くから、お腹もすくし。
しかも、人の言葉より、本音の“色”が見えすぎる。
「…………」
私は返事をしないがこくりと小さく頷く。
母セリーヌの揺らぎは明るい桃色で、純粋な愛情だけがふわふわ漂っている。
だから安心だ。返事しなくても怒らないよ、色がそう言っている。
そんな私の背後に、黒い影のように静かな気配が立った。
「クララ様。お水を」
従者のイーサンだ。
振り返らずともわかる。足音がしないのに、気配だけがすっと空気に混じる。
「……ん」
私は手だけ伸ばしてグラスを受け取る。
イーサンはそれに当たり前のように手を添えた。
私が言葉を使うのが苦手なのを、何年も前から当然のこととして理解している。
「イーサン、クララは少し内気すぎるかしら…もっと話すようにした方がいいわよね?」
母が可愛らしく首をかしげる。
その言葉に、イーサンは微かに瞬きをした。
わかる。あれは“呆れている”色だ。くすんだ灰青。
「…奥様。クララ様は内気ではございませんよ」
「え?」
「話すと…お疲れになるだけです」
「え、クララちゃんが喋らないのはそんな理由だったの!?」
母の驚きは、ぱっと明るい黄色に弾けた。
私は少しだけ視線を落とす。
なんとなく恥ずかしい。
(イーサン…言わなくても良くない?)
でも、心の奥では少しだけ楽になる。
この家で、私の本質を理解しているのはイーサンだけだ。
その時——廊下の空気が、ふわりと揺れた。
「奥様、来客がおいでです」
別の使用人が告げた声は淡い青。緊張の色だ。
母が扉の方を見る。
私は自然とそちらに目を向けた。
そして——見えた揺らぎに、心臓がひやりと冷えた。
笑顔で立つ青年。
明るい金髪、整った見た目に柔らかな物腰。
言葉は丁寧で、声は優しい。
なのに。
彼の周囲には、言葉とはまるで噛み合わない、
黒く濁った紫の揺らぎがゆらゆらと滞留していた。
「初めまして、エリオットと申します。本日はローレンス家にご挨拶に参りました」
母の揺らぎが喜色で弾ける。
私の兄・エレンの揺らぎも、爽やかな青に波立つ。
家族は誰も、彼の“色”に気づかない。
私だけが見ている。
(…この人、言ってることと色が違う)
会話をする気が、一気に失せた。
頭が重い。
空気がざわざわする。
喋る余裕なんてどこにもない。
そんな私の小さな変化を、イーサンは見逃さなかった。
「クララ様、こちらに」
音もなく私の前に立ち、エリオットから自然な形で視線を遮る。
その背中は、静かで鋭い灰色の揺らぎ。
冷静で、揺らがない。
(イーサン…助かる)
まだ何も始まっていない。
けれど私はすでに理解していた。
この人は、“家族を騙す”。
そんな色をしている。




