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私の恵 by 草別羽純

 前回までで書き手は一巡したわけで、みんながどんな日記を書いたのか、一通り目を通してみた。

 すると、みんなそれぞれ好きな相手のことをたくさん書いていて、それはまるで惚気話のようだった。

 ……ずるい。それなら、私だって。

 みんなの日記を読めば、関係を隠す気がないことはよく分かった。だからここであえて明記するなら、私と(めぐみ)絵莉叶(えりか)真波(まなみ)、そして(しおり)唯愛(ゆあ)は恋人同士。

 思い出の記録として始まったこの日記に、よくもまぁ惚気話を書いてくれたなと思ったけれど、そもそもこれは私たちの日常の記録なんだから、恋人とのことを書きつづるのはむしろ当然かと思い至った。

 どうせ、この日記を読むのなんて、私たち6人しかいないんだし、今更何も恥ずかしがることなんてない。

 だから私は、大義名分を掲げて、私と恵のことについて、みんなに盛大に惚気てやろうと思う。


 きっとみんなに「恵のどんなところが好き?」と聞けば、「明るくて元気なところ」「人当たりが良く、誰とでも仲良くできるところ」「思いやりがあって優しいところ」なんて答えが返ってくるだろう。

 かく言う私も、大っぴらには似たようなことを答えると思う。

 けれど、私の一番好きな恵は、そんな「良い子」な恵とは少し違う。

 

 これからするのは、今朝の散歩の話。

 恵や栞の日記にもある通り、朝の散歩は私の日課。

 まぁ、日課とは言いにくいくらいにサボりがちなのは否定できないけど。

 ただ、今朝はちゃんと出かけた。いつも通り、恵と二人きりで。

 大体いつも恵がたくさん話してくれるから、二人の間に沈黙は少ない。

 けれど今朝は、たまにぽつりと会話を交わす程度で、ただ二人並んで静寂の街を歩いていた。

 時にはそんな静かな朝を過ごすことだってある。けれど、そこに気まずさはなく、むしろ私はそんな朝も好きだった。

 散歩のコースは特に決めていない。けど、なんだかんだいつも大体似たようなところを通っている。

 その中でも、人通りの少ない路地裏は、ほぼ毎日通っている。

 理由は、明白。

 路地裏に入るその瞬間、私の手は恵の手に捕まった。

羽純(はずみ)ちゃんの手、冷た〜いっ」

 不満そうに言うけれど、恵の顔は綻んでいて。

「逆に恵は温かいね」

 手のひらに伝わる熱を失うのがもったいなくて、より強く握った。

「そう? 今日もたくさん走ったからかなぁ?」

 先にランニングを済ませていた恵は、それでも汗ひとつかいていない様子で。

 恵からは汗のにおいがしないどころか、なぜかむしろいい匂いがするくらい。

 散歩をしている間、人通りの少ない路地裏でだけ、私たちは手を繋ぐ。

 人目につくところで繋がない理由は、単に私が恥ずかしいから。

 だって、そういうの、キャラじゃないっていうか。

 恵みたいに友達が多い子なら、親しい友人と手を繋ぐことなんてしょっちゅうあるんだろうけど、私には恵だけだから。

 だから、名残惜しいけれど、路地裏を抜けたら、私は手を離す。

 けれど、今朝は恵が離してくれなくて。

「……恵?」

 景色は住宅街に変わっている。

 街は少しずつ活発になり始め、ちらほらと人が往くようになっている。

 それなのに、今日はなぜか恵が手を離してくれなくて。

「……この辺は人もいるし、恥ずかしいんだけど?」

 私が思わずそう言うと、恵は意地悪そうに、けれどどこか甘えた声で笑った。

「もうちょっとだけ、繋いでいよう?」

 それは、提案じゃなくて決定事項。

 繋がれた手は、少し乱暴に振り回せばきっと簡単に解けるはずだけど、私にそんなことできるわけないし、私が振り解くことはしないと、恵にはきっとバレている。

 恵は、私が恵を大事にしていることをよく知っている。

「……もうちょっとだけだからね」

 恵には敵わなくて、私は結局言いなりになってしまう。

「ありがと、羽純ちゃんっ」

 恵は楽しそうに、繋がれた手を大きく振った。二人の手で作られた振り子は、やがて勢いを増して、離れてしまいそうになったから、私は恵の手を一層強く握った。

「……ふふっ」

 恵が笑ったから、私は「何かおかしいことでもあった?」って聞いた。すると恵は、繋いだ手を私たちの顔の高さまで寄せてから言った。

「羽純ちゃん、手を離したいんじゃなかったの?」

「まぁ、人前だとやっぱりちょっと恥ずかしいし」

「じゃあ、なんで今、手が解けそうになった時に、ぎゅ〜って握ってくれたの?」

 そう言った恵は、まるでイタズラがうまくいった時の子どもみたいに、無邪気に笑っていて。

 確かに私は手を解いてしまいたかったはずだ。

 それでも、離れてしまいそうになった時に強く握ったのは、他ならぬ私で。

「本当は羽純ちゃんだって満更じゃないんでしょ〜?」

 からかうように言う恵に、私は「そんなんじゃないから!」と焦って否定した。けれどそれが強がりであることなんて、恵にはお見通しなわけで。

 顔の熱さを自覚できるほどに、私は恥ずかしい思いをしていると言うのに、恵は横で、くひひ、と笑っていた。

 それは、みんなに見せる天真爛漫な笑顔とは違って、少しだけ意地悪で、けれどとびっきり楽しそうな、無邪気な笑顔。

 私は、そんな恵の笑顔が、一番好き。

 からかわれて喜ぶなんて、私もどうかしていると思うけれど、それでも私にだけ見せてくれるその笑顔はあまりにも魅力的で。

 きっと、これが惚れた弱みなんだろうね。


 さて、とりあえず今日はこの辺にしておくよ。

 私の好きな、私しか知らない恵の魅力を、ほんの少しだけでもみんなに自慢できて、今はすごく気分がいい。

 じゃあ、私の愛しの恵。次もまたお願いね。

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