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朝の挨拶 by 雪ノ浦栞

 ご紹介に預かりました雪ノ浦栞(ゆきのうら・しおり)と申します。

 これまでに既に4人の方に日記を書いていただいているので、それらを参考にさせていただきたいと思います。

 そうですね……私も、(めぐみ)さんに習って朝の過ごし方について、今朝のことを例に記録してみることにしましょう。


 朝、最も早く起きるのは、きっと私であると自負しています。私は目覚めると、自室で過ごすのではなく、文庫本を片手にリビングへと向かいます。ですが、読書をすることが一番の目的ではありません。リビングは、起きてきたルームメイトの皆さんが立ち寄りますから、朝の挨拶を交わしたくてここに居るのです。

 今朝も初めにやってきたのはいつもどおり恵さんでした。「栞ちゃん、おはよー!」と、爽やかな朝にぴったりな明るい声で挨拶をしてくださいました。

「おはようございます、恵さん」

「今日も天気が良いねぇ〜!」

 そう言って、嬉しそうに玄関に向かっていく恵さん。

「じゃあ、行ってきまーすっ!」

「はい、お気をつけて」

 恵さんは今朝も元気にランニングに出かけられました。

 お見送りが終わりリビングに戻ると、数分後には真波(まなみ)さんがやってきました。

「おはよう、栞」

「真波さん、おはようございます」

 真波さんはとてもしっかりした方です。背筋が伸びるような、それでいて温かみも感じる、素敵な声色で挨拶をしてくださいました。

「今朝はどうしようかしらねぇ」

 そう言いながら、朝食の献立を考える真波さん。私たちは家事を出来るだけ分担して行っていますが、どんな家事もこなせる真波さんには甘えっぱなしで、特に料理についてはほとんど毎日真波さんがしてくれています。ですから、私は出来るだけお手伝いさせていただくようにしています。

「手伝わせていただけることがあれば何なりと言ってくださいね」

「ん。いつもありがとうね、栞」

 真波さんがメニューを決めるまでの間、私にはやることがあります。恵さんがランニングに出かけてからまもなく30分になるというタイミングで、羽純(はずみ)さんを起こしにお部屋まで伺うのです。

 各自の部屋は鍵をかけることが可能ですが、羽純さんは基本的に施錠しません。朝が弱いので、誰かに起こしてもらう必要があるからです。

 羽純さんのことは私が起こしに行きます。恵さんの日記にあるとおり、恵さんがランニングから帰ってきたタイミングでお散歩に出かけるのが羽純さんの日課です。

 ですが、これもまた恵さんの日記にあるとおり、羽純さんは日によっては気分が乗らず、特に平日は朝のお散歩に出掛けないことが多々あります。

 そして、今朝がまさにそれでした。

「羽純さん? 入りますね?」

 部屋はカーテンが閉められており、ベッドの上で布団に包まり丸くなる姿がありました。

「朝ですよ、起きてください。恵さん、帰ってきてしまいますよ」

「うー……」

「今日はお散歩お休みですか?」

「……ん」

 起き上がる様子がなかったので、今朝は時間いっぱい寝ていたい日なのだと判断しました。

 羽純さんを起こすのを諦めてリビングに戻ると、玄関から明るい声が聞こえてきました。

「ただいまーっ!」

「お帰りなさい、恵さん」

「ただいま、栞ちゃん! 羽純ちゃん、今日はサボり?」

「ご察しのとおりです……」

「そっかぁ……じゃあ、ギリギリまで寝かせてあげよっか! 私、シャワー浴びてくる!」

 こうなった日は、後は恵さんが羽純さんを起こしてくれます。

 私は再び真波さんの元に戻り、朝食の準備を手伝います。と言っても、今朝はもうほとんど用意が終わっているところでした。

「あ、栞っ! 良いところに来たわね!」

「はい、何か手伝わせていただくことはありますか?」

「ちょっとグリル見といてくれる? 鮭焼いてるから。私はその間に絵莉叶(えりか)を起こしてくる」

 絵莉叶さんも羽純さんと同じく朝に弱いので、誰かに起こしてもらう必要があるのですが、羽純さんと違って絵莉叶さんは自室の鍵をかけています。合鍵を持っているのが真波さんだけですので、どんなに忙しくても真波さんが起こしにいくのです。

「入るわよ、絵莉叶」

 そう言って部屋の中へと消えていった真波さん。真波さんが部屋に入ると、中から鍵をかける音がしました。それから5分少々が過ぎた頃、真波さんが絵莉叶さんを連れて部屋から出てきました。心なしか、お二人とも少しお顔が赤いようにも見えました。

「うりゃ〜! 起きろ〜!!」

「ぐへぇっ!?」

 別の方向から賑やかな声が聞こえてきて、恵さんが羽純さんを起こしたのだと分かりました。

「……魚、大丈夫?」

 二組の仲良しさんたちを眺めていて、グリルのことを放っておいてしまった私は、いつの間にかすぐ傍に立っていた唯愛(ゆあ)の声で我に返りました。

「へ? ……わぁ!? 大変っ!」

 急いで見てみると、なんとかギリギリ焦げてはいないようで、ほっと胸を撫で下ろしました。

「ふぅ、危なかったよ。教えてくれてありがとね、唯愛」

 感謝を伝えると、唯愛は得意げに「ふふん。どういたしまして」と鼻を鳴らしました。

 そして、大切なことを、忘れないうちに。

「遅くなったけど、おはよう、唯愛」

「うん。おはよ、栞」

 小さくて可愛らしい唯愛との挨拶は、私にとって凄く幸せを感じる瞬間です。だから、どんな時も欠かしません。

 ……ところで、もし皆さんがここまで読んでくださっているのなら、少し違和感を覚える箇所があったことかと思います。

『育ちが良すぎてタメ口使えなさそう。』

 最初の羽純さんの日記から、私のことを紹介してくださった一文を引用しました。ですが、私だって、タメ口くらい使えるんですよ?

 けれど、それは唯愛にだけ。唯愛が「特別って感じがして好き」と言ってくれた日から、その話し方は唯愛にだけしているのです。唯愛と二人きりの時しか敬語を崩さないので、図らずしも皆さんには今まで内緒になっていました。けれど、良い機会でしたので、この日記に書かせていただいた次第です。

 グリルから焼けた鮭を取り出して、結局ほとんど真波さんが用意してくださった料理を食卓に運べば、6人全員揃って朝食のお時間です。

「ふぁ〜……」

「やぁ、みんな揃っているようで!」

 まだ眠そうな羽純さんと、真波さんに起こしてもらってご満悦な様子の絵莉叶さんに、「おはようございます、羽純さん、絵莉叶さん」と投げ掛ければ、羽純さんは「おはよぉ、栞」とふにゃりと言い、絵莉叶さんは「おはよう、栞!」とビシッと決めて、挨拶を返してくれました。


 こうして、今日も皆さんと朝の挨拶を交わすことができました。毎朝皆さんと挨拶を交わすのが私の大切な習慣なのです。

 気づけば、今までの皆さんの日記よりも少し文章量が多くなってしまっていました。申し訳ございません。

 次は、唯愛の番ですよ。お願いしますね。

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