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 DEF空間内で姿を消したサイダーを探すため、私とチーポはその深層を目指して進んでいた。

 途中、なにやら奇妙な敵と戦闘をしている、私たちのTRAX-Mk2に似たライドを助けた私たちは、そこで思わぬ人物との再会を果たした。

「それにしても、キミも大した胆力っシュよね。よほど、そのサイダーという子のことが気になるっシュね?」

「そうですね。サイダーは私にとって数少ない、親友と呼べる一人ですから。なんとしても探し出して、いなくなった理由を聞き出したいんです」

 以前私たちがDEF空間内を捜索していた時に、そのセキュリティーシステムの攻撃から私たちを助けてくれたのが、今私と交信をしているシギという女性だった。

 そのシギも、今はACFGという組織に入り、私たちと似た目的でDEF空間の真相を突き止めようとしているらしい。

「さて、ここから先はDEFの機密エリアに入るっシュよ。十分注意するっシュ」

「分かりました。……そういえば、機密エリアの中枢に入るには、カギを集める必要があるって言っていましたけど、それはどうなんでしょうか?」

「最後のカギは、この機密エリアの周辺にあるっシュ。敵の攻撃も激しくなるっシュよ。気を引き締めていくっシュ!」

 シギが忠告した通り、敵の攻撃が今まで以上に激しさを増していくのが、その敵影の多さからも分かった。

 私はTRAX-Mk2を操作し、ホルンがくれたメガロファズを駆使しながら、敵の攻撃を切り抜けていく。

 シギと、そのパートナーであるジンという男性が操縦するFlawというライドは、接近戦に強い威力を発揮するタイプのようだった。ならば、なおさら私たちのメガロファズが活躍する場面、ということになる。

「……それにしても、相変わらず、このメガロファズっていうのはスゴイ威力ね。これがなかったら、私たち、今頃もうやられてしまっていたかも……」

「フフン、どうだヨ? ちっとはアタシのことも見直したかヨ?」

「……自分でもよく分からないって言っていたポに、調子いいポね……」

 ホルンが自慢気にメガロファズの威力を語る。チーポが静かにそうじゃないだろうと指摘するが、そこは今の私たちにはあまり問題ではなかった。

「……よし、見つけたぞ。最後のカギだ。これで、機密エリアの中枢に入れるぞ」

 そこへ、ジンからの通信が入った。どうやら、最後のカギを見つけることができたらしい。

 DEF空間のセキュリティーシステムを停止させるためのカギ。それを全て集めた瞬間、あれほど激しかった敵の攻撃が、嘘のように停止した。

「敵の攻撃が止まった。ということは……」

「そうっシュよ。いよいよ、DEF空間の中枢に侵入するっシュ。なにがあるか分からないっシュ。注意して進むっシュよ!」

 セキュリティーシステムが停止した。しかし、それは私たちをおびき出すための罠かも知れない。

 しかし、ここまできて、今さら引き返すことなど許されるわけもない。私は意を決し、シギたちと共にDEF空間の中枢へと向かっていった。


「ようこそ、みなさま。お待ちしておりましたよ」

 私たちがDEF空間の中枢に入ると、そこに待っていたのはDEF空間のマスコットキャラクターである「イルベアマン」だった。

 イルベアマンはマスコットキャラクターらしく、黄緑色の着ぐるみ姿に顔だけを露出した姿を取っている。その着ぐるみも、カエルなのかウサギなのかよく分からない、不思議な生物の印象を映し出していた。

「んっ? 誰だヨ、あんた?」

「私はここのゲームマスターをやらせていただいている者です。みなさんがここまで来ることは、私もすでに予感しておりました」

 ホルンが正体を問い質すと、そのイルベアマンは、自らを「ゲームマスター」と名乗った。

 恐らく、DEF空間内で展開されている「JUSTA」のことを言っているのだろう。しかし、一見紳士風にも聞こえるその口ぶりとは裏腹に、このゲームマスターは私たちのことを全て知っている、そう匂わせる態度を見せていた。

「なるほど。俺たちの動きは、すでにそちらに筒抜けというわけか。スパイは誰だ、などと問い詰めるつもりはない。サイダーとやらに会わせてもらおうか」

 ゲームマスターに全て見抜かれていたことが明らかになっても、ジンは大して動揺する素振りを見せなかった。むしろ、それぐらいでなければ面白くないと、そう返そうとしているかのようにさえ思われた。

「承知しております。みなさまの意思に敬意を表し、サイダー様の元にご案内いたしましょう」

 ゲームマスターは、私たちを中枢のさらに奥へと案内した。本当に、この先にサイダーがいるのだろうか。

 しかし、私はこのゲームマスターが、サイダーをサイダー「様」と呼んだことが気になっていた。

 カオスフィールド移住計画。その実験体としてサイダーを利用しようとしているのであれば、わざわざ敬称を使う必要などないはずなのに。この違和感は、一体なんなのだろう。

「こちらでございます」

 すると、ゲームマスターは私たちの前に光の塊を出現させた。

「この先にサイダー様がいらっしゃいます。どうぞ、お入りください」

 この先にサイダーがいる。私はゲームマスターのその言葉に、奇妙なほど頭が揺さぶられる感覚を抱いていた。

 そして、まるでその光に引っ張られるかのように、私の足はその光に向かって歩を進めていた。

 これで、サイダーに会える。真相を聞き出すこともできる。私の意識は、すでにその部分に固定され始めていた。

「待って、るー! その先に行っちゃダメポ! それは罠だポ! その先にサイダーはいないポッ!」

 背後から、チーポの悲鳴にも似た声が聞こえてきた。これが罠だというその悲鳴。しかし、その悲鳴も、この時の私には全く認識することができなかった。

 その直後、残ったチーポたちを大勢のイルベアマンたちが包囲した。だけど、私はそれすらも気が付かないまま、光に向かって進んでいった。

「むっ、これは! 他のイルベアマン共か!」

「チックショウ! ふざけたことしやがるヤツらだヨ!」

 ジンとホルンが反撃を試みようとしていたが、多勢に無勢。あっという間に取り押さえられてしまった。

「残念ですが、ここから先は『選ばれし者』しか入ることはできません。あなた方は、それに選ばれなかった。にも関わらず知り過ぎてしまった」

「それで、知り過ぎた俺たちを、ここで排除しようというわけか。いかにも小賢しい悪党がやりそうなことだな」

「なんとでもおっしゃってください。あなた方は、新しい秩序のための尊い犠牲になるのですから。では、さようなら」

 イルベアマンたちが三人を拘束し、どこかへ連れ去ろうとしている。思わぬ形で訪れようとしている別れの時。だけど、それさえもこの時の私にはサイダーのこと以外、全く考えられなかった。

「待ってよ、るー……。みんなでお寿司パーティーをやる約束じゃなかったポ……?」

 そこに聞こえてきた、あまりにも弱々しいチーポの声。だけど、何故だかその声だけは、私の頭にしっかりと届いていた。

「……チーポ、チーポ……?」

 私はそこで足を止め、背後を振り返った。すると、そこには私を必死で止めようとするチーポの姿があった。

 トレードマークであるお団子ツインの髪型が解けて、瓶底眼鏡が外れ露わになったチーポ。そのブルーの瞳に、涙が溢れている。

「……チーポが、な、泣いている……」

 そこで、私は本来の使命を思い出した。私はサイダーにただ会いたいのではない。サイダーを連れ戻す。このDEF空間からサイダーを連れ戻し、また一緒に現実世界で暮らしたい。

 なにより、私にとって「もう一人の」親友であるチーポを泣かせるような行為を、到底許せるはずもなかった。

「……じ、冗談じゃないわよ! こんなところで、あなたの思い通りになってたまるものですか!」

「おやおや、まだ抵抗する力が残っていたとは。これは意外でしたね。ですが、もう手遅れです。さぁ、あなたも『こちら側』の人間になるのです」

 そこで我に返った私は、チーポたちを助けなければならないと思った。しかし、私の意思に反して身体が勝手に光の中に向かっていく。

 このままでは、このゲームマスターの思い通りになってしまう。と、その時だった。

「……むっ? なんですか、これは……? ヌグッ! な、何者です……?」

 この中枢空間に、正体不明のライドが現れた。TRAX-Mk2ともFlawとも異なる形状を持つそのライドがゲームマスターを攻撃したことで、私は身体の自由を取り戻すことができた。

「あー、テステス……。こほん、拙者は『この世界を見る者』でごじゃるもじゃる」

「せ、世界を見る者……? な、なんですか、それは……?」

「ここは拙者に任せるでおじゃる! おぬしたちは一刻も早く、ここから逃げるでごじゃるよ!」

 そのライドのパイロットは、自らを『この世界を見る者』と名乗った。ゲームマスターが困惑しているところを見ると、どうやらゲームマスターも知らない存在であるらしい。

「あ、ありがとうございます! よし、今のうちに!」

 私はこれをチャンスと見抜き、その場から逃げ出した。謎のライドのパイロットはチーポたちを拘束しているイルベアマンたちも同時に攻撃し、その動きを止めてくれていた。

「だ、大丈夫ポか? るー」

「うん、私は大丈夫。それよりも、ありがとう、チーポ」

「べ、別にボクはなにも……。そ、それより、ボクたちも戦うポよ!」

 すでに、ジンは戦闘の予感を察知し、Flawに乗り込んでいた。私たちもTRAX-Mk2に乗り込み、計器類に異常がないことを確認しながら、ジンと共に戦闘態勢に入った。

「お、おのれぇ……! 何人たりとも、この偉大な計画を邪魔することは、絶対に許しません!」

 謎のライドの攻撃を受けていたゲームマスターは、このままでは自分の計画が崩れてしまうと思ったのだろう、着ぐるみを脱ぎ捨て、イルベアマンから本来の姿に変わった。

「覚悟しておくのですね! 私のこの姿を見て、生きて帰った者は誰もいません!」

 その姿は、いわゆるスキンヘッドにグレーのジャケット、そして黄色のスラックスという、実にアンバランスな色使いの服装だった。ただ、それがこのゲームマスターの不気味さをより強く印象付けているように、私の柄には映った。

「ようやく本性を現したでごじゃるね! ならば、拙者も容赦しないでごじゃるよ!」

「言ってくれますねぇ! どこの誰かは知りませんが、この偉大な計画を邪魔したこと、その愚か者たちと一緒に後悔させてあげましょう!」

 私たちがライドを起動させ、謎のライドと合流すると、ゲームマスターは怒りに震える口調で攻撃を開始した。

「ジン! なにがあったっシュか? この敵の反応はどういうことっシュか?」

「シギ、説明は後だ! まずは、あの小憎らしいゲームマスターとやらを倒す! サポートを頼むぞ!」

 ジンとシギが通信をしている中、ゲームマスターの攻撃はそれまでのどの敵をも上回る強力なものだった。命中精度こそ必ずしも高いものではなかったが、圧倒的な弾幕が生み出す面的圧力で、私たちを押し潰そうとする意図が見え隠れしていた。

「シギ! ここは私たちに任せてください! ホルン、メガロファズ、最大パワーよ!」

「分かっているヨ! あのクソジジィ、ガチ頭にくるヨな!」

 私はジンと謎のライドの前に立ち、メガロファズを何度も発動した。立て続けに発動したメガロファズの影響は、発動が終わった後もそのエネルギーが周囲に残留し、ゲームマスターの攻撃を消すとまではいかないものの、かなりの割合で弱体化させることに成功していた。

「ぬ、ヌゥッ! な、なんだ! こ、この信じられないほどのエネルギー密度は……!」

「な、なんでおじゃるか、あの攻撃は……?」

「よし、シルヴィたちが隙を作ってくれた! 今だ!」

 メガロファズのことを知らないであろう、ゲームマスターと謎のライドは、その炎の結界に驚くばかりだった。しかし、すでにメガロファズのことを知っているジンは、その炎の結界の中に突入し、ゲームマスターとの間合いを詰めていった。

「な、なんですと!」

「ここだ! 喰らえっ!」

 ジンの乗っているFlawには、強力なソードが装備されている。接近間合いにならないと役に立たない代わりに、相手を攻撃射程に捉えた時の攻撃速度と威力は凄まじいものがあった。

「グワッ! こ、この私の身体に、だ、ダメージを……!」

「るー、ヤツが怯んだポ! チャンスだポ! ありったけの攻撃、お見舞いしてやるポ!」

「当たり前でしょう! 全砲台、解放! TRAX-Mk2、フルショット!」

 Flawのソードは、確実にゲームマスターの身体にダメージを与えていた。強力なソードの一撃を受けても、まだ倒れないというのは、さすがにゲームマスターを名乗っているのは伊達ではないというところだろう。

 だけど、ダメージを受けて身体が怯んでしまえば、いかにゲームマスターといえども隙が生まれないはずはない。私はTRAX-Mk2をフルショットモードに切り替え、全ての照準をゲームマスターにセットした。

「し、しまった! ギャアアアァァァッ!」

 Flawソードによるダメージが予想以上に大きかったのか、ゲームマスターはすでに身体の自由が利かない状態だった。そこに浴びせられたTRAX-Mk2の全弾攻撃は、まさに勝負を決める勝ちどきとなった。

「や、やった……。た、倒した、の……?」

「……クッ。ま、まさか、人間どもが、ここまでやるとは……!」

 すでに、ゲームマスターは戦闘不能の状態だった。このまま放っておいても、このDEF空間から消えるのは時間の問題だった。

「サイダーはどこなの? 言いなさい!」

「……フフフ、残念ながら、サイダー様は、すでに『こちら側』の人間になられていますからねぇ……。私がここで倒れたことも、あなたに倒されたことも、全て承知しているでしょう……」

 私は改めてサイダーの居場所を聞き出そうとしたが、ゲームマスターは答えてくれなかった。それどころは、不吉な予感を残す言葉さえ私に向けていた。

「……それはどういうことよ……?」

「……いずれ、あなたにも分かりますよ。このまま、計画を邪魔し続けるのであれば、ね……。まぁ、その時は、あなたも私たちに刃向かったことを、今度こそ後悔するでしょうけどねぇ……」

 不気味な言葉を最後に、ゲームマスターは姿を消した。これで本当に倒したのかどうかは分からないが、ひとまずピンチを切り抜けることができたのは事実だろう。


「あの、ありがとうございました。ところで、あなたは、一体、何者なんですか?」

「うむ。『この世界を見る者』、と名乗っていたようだが、それはどういう意味だね?」

 ゲームマスターを倒した私たちは、その後DEF空間の中枢から脱出した。そこで、私たちを助けてくれた謎のライドのパイロットに、その正体を尋ねた。

「いやいや、お礼をもらえるほどの者ではないでごじゃる。では、拙者はこの事態を然るべきお方に報告しなければならぬ故、これにてさらばでごじゃる」

 そう言い残すと、謎のライドのパイロットはどこかへと飛び去っていってしまった。詳しい事情は分からないが、どうやらこのDEF空間の秘密を知ろうとしている、というのは私たちと共通する部分のようだった。

「……行ってしまったか。とりあえず、敵は倒したが、まだ全ては終わっていない」

「そうですね、ジンさん。私も、今回の事件で、このDEF空間になにが起こっているか、全て分かりましたから」

 ジンが指摘した通り、まだ私の戦いは終わったわけではない。「カオスフィールド移住計画」は本当に存在するのだ。そして、間違いなくサイダーはその実験体に利用されている。

 あのゲームマスターがサイダー「様」と表現したのは、なんらかの理由で彼女を祭り上げる必要があったからだろう。

「あの、シギさん。私たちを、シギさんたちのACFGに入れてくれませんか?」

「もちろんっシュよ! シルヴィなら、むしろ大歓迎するっシュよ!」

 私は決意した。必ずこの「カオスフィールド移住計画」を阻止してみせる。そして、サイダーを助け出し、また二人で現実世界を生きていく。

 もう迷いはなかった。現実世界の黒い部分に辟易し、一時は引きこもり生活までしていた私が、今ようやく、明確な形で人生の目標を見出した。

「るー、ボクたちのこと、忘れちゃダメポよ」

「そうだヨ。こうなったら「乗り掛かった舟」ってヤツだからヨ」

「えぇ。チーポ、ホルン。これからも、よろしくね」

 チーポとホルンも、私と一緒にACFGに入ってくれるようだった。もっとも、ライムというAI人格である彼女らにとっては、私がいなくなることは存在意義を失うことでもある。

 私は一人じゃない。こんなにも心強い同志たちがいる。私は必ず、サイダーを助け出し、このDEF空間の真相を突き止める決意を、今一度自分の胸に宿していった。

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