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なろうぜ!幸せ

「え?あ、悪魔…?」 

「えと…ごめん、なんて?」


「ん?あぁ」

「昨日の夜、ベットで横になってたら悪魔来たんだよ」


「あ、悪魔が…?」


「うん」

「俺も即席でバリケード作って抵抗してはいたんだけど、ドア蹴破られちゃって」


「ドアを蹴破って…」

「・・・」

「それはまぁ…」

「大変だったねぇ…」


 セリフの割に、彼女の表情は険しくなる一方だった。そういえば…。二人で遠出していた時、電車の吊り革でコウモリごっこをしている男性を見たことがあった。その時も、丁度今みたいな顔をしていたと思い出す。・・・心外すぎる。


 朝食を終えた後、皿洗いを済ませてから昨日の出来事(いや、あれは夢か)について彼女に話していた。まだ悪魔が来たという情報しか話していない、回想の段階はまだまだ序盤と言える。したがってそこまで振り返る必要もないのだ。彼女から苦々しい表情を向けられながら、ふぅと息を吐く。


「でもさ、そうは言っても…」

「ドア、壊れてないじゃん」


「・・・」


「土橋君さぁ…」


 そりゃそうなる。初めから破綻上等な話だった。まだ幼き子供の方が矛盾なく空想を語れるだろう。幼き子供の空想ならまだしも、俺はもうアラサー一歩手前の成人男性だ。そんな奴の空想話なんて、キモいを通り越して、一種の哀れみを感じざるを得ないだろう。最も、そんな奴っていうのが、今の俺であること。そこが問題なのだ。


「まぁ待て待て、話は最後まで聞くもんだぞ」


「ん〜まぁ...はい」


「ドアが壊れていないのは、悪魔が直してったんだよ」

「指パッチンを拍子に、瞬きしたらなんか元通りになってたんだ」

「文字通り木っ端微塵…は流石に言い過ぎかもしれないけど、あんなに細切れに吹き飛んだドアが」

「まるで、元々ドアなんて壊れてなかったみたいに」


「ほー…」


「そしてアイツは俺にこう言ったんだよ」


 オレは、お前の不幸を頂きに来た。


「って」


 セリフだけ聞くと、俺はとんでもない目に遭わされてしまうのではないかと思ったりもしたが、現実はそうではなかった。俺がアイツからされたことと言えばドアを吹っ飛ばされただけであって、直接害を与えられるような事はされなかった。まぁドアを吹っ飛ばされるのは、十分害ではあるのだが。

 でもアイツは「それでもいい」とだけ言った。漆黒のポニーテールを揺らしながら。


「はぁ…」


「後は…」

「なんか、暫く棲みつくらしい」


「えぇ…」


「えぇと、普通悪魔は人間には見えないはずなんだけど」

「なんか俺には見えちゃったみたいで」

「その場合、不幸を蒐集した後に一連の記憶を消去しなきゃダメらしいんだよ」

「悪魔の存在が、人間に知られないように」

「そうマニュアルに書いてあるらしい」


「・・・」


「でも、流石に記憶操作って中々神経使うみたいで」

「面倒臭いから、やらないって」


「・・・」

「でもそれって、土橋を通じて人間が悪魔の存在を知ってしまうんじゃないの?」


「あぁ、だからここに棲みついて、俺のことを監視するんだってさ」

「話したら殺すって」


「土橋君さぁッ!?」


 そりゃそうなる。誰だってそうする。俺もそうする。身を乗り出すのもわかる。

これぞ「本当のオブザーバーってね」って言いたかったけど、タイミングを逃したから言わなかった。


「本当だったとしたら私殺されるじゃん!?」

「本当じゃなかったとしても、土橋が頭おかしくなったっていう事実だけが残るじゃん!」

「最悪だ!」


 そう言って彼女は、両の手を頭に抱えたまま、この世の終わりみたいな表情で背に倒れる。リアクションの大きいお方だ。

 所々ツッコミどころはあるけれども、今は不問にしておこう。


「冗談なんだよね?」

「もしも本当に言ってるんだったら、あたしゃ心配だよ!」


「悪かったって、それぐらい鮮明な夢だったって言いたかったんだよ」

「それに、悪魔もお前には言ってもいいって言ってたから大丈夫だよ」


「あん?私には言ってもいい?」

「それってどういう事?」


 先ほどまでのこの世の終わりみたいな表情とは一変、彼女は眉を顰めて訝しむ。もたれていた背中を浮かし、こちら少し詰め寄る姿勢になった。


「ん?いや、どういう事っていわれても」

「俺も悪魔からそう言われただけだから分からんよ」

「よくある話として、家族間だけみたいな区分なんじゃないの?」

「来週あのゲームの発表があるんだって〜」

「でも、まだ未発表だから絶対に漏らさないでね〜」

「みたいな」


「はぇ〜そういうもんかねぇ」


 乗り込んでいた体を収め、再び背にもたれかかる。もたれたり浮かしたり、忙しいやつだ。未だ曇ったままの表情は、右手にある頬杖により支えられている。


「もしかして、信じてるのか?」


「ん?いや信じてないけど」

「私はそんなもの見ていないし、突然悪魔って言われてもね」

「っていうか、そんな存在信じたくないよ」

「怖いし」


「まぁ、そりゃそうだよな…」


 結局はこういう形で収まるだろうとは思っていた。俺が昨夜見たものは全て幻で。お先真っ暗な拗らせニートによる気狂いだったのだと。そう考えると、一気に凹んでしまう自分がいた。自分はここまでおかしくなってしまったのだと。

 最早、昨夜の出来事が現実だったら、まだ救われていただろう。それか、今、この現状こそが、長い長い悪夢なのだと。そうだったら、どれだけ良かっただろうか。どれだけ、救われていただろうか...。


「─でもさ」

「もしもその話が本当だったとしたらさ」

「その悪魔に帰ってもらうなら、不幸の収集なんてできないぐらい”幸せ”になるしかないんじゃない?」

「なろうぜ!幸せ」


 ・・・返球の言葉を決めあぐねている俺に対して、彼女は微笑を投げかける。

 印象は今でこそ薄いものの、コイツは感情に関して人一倍敏感な奴だった。どうしてそんな絶妙なセリフを吐けるのだろうか。そういうところは本当に敵わないなと思う。終いにはウインクを交えながら、彼女は口を開く。


「まぁ、そんな悪魔について見つめる前に、見つめるべきは現実なんだけどね」


「・・・」


 それは。そうだけどさ…。タイミングってものが、あるじゃない…。

 いつの日か手に入れたその素直さ。素直さというか、不謹慎か。そうだよ。お前はそうだったよ。・・・なんというか。本当にマッチポンプが得意な奴だ。逆の意味でだけど。


「だからさ、まずは外に出てみようよ」

「公園で散歩とかして、綺麗だなぁとか言うだけでもいいし」

「美味しいラーメン屋を見つけて、ご馳走様って言うだけでもいい」

「どこでもいいんだよ」

「そうしている内に、幸せの糸口が掴めるかもしれないよ」

「まっ、私という存在が居れば、家に居たくもなる気持ちもわかる気もするけど」

「まったく罪な女だよ、アタシは」


 はっはーと、手の甲を口元に添えながら大袈裟に戯ける(所謂、お嬢様スマイル)様を眺めながら、ぼんやりとした言葉をぼんやりと考える。

 幸せの糸口、ねぇ…。幸せ。俺にとっての。幸せ...。


「おっ、早速どこか出かけるの?」


 卓上に出ていたカトラリーを食洗機に突っ込み、廊下へ歩を進めている所で声がかかる。

密かに上がる口角は安堵の雰囲気を漂わせていた。しかし─。


「二度寝に興じるとするよ」


「コイツーッ!!」


 やはり現実とは、思ったようにいかないものだ。


「じゃあ、今までの下りなんだったんだよ!」

「なんかこう、物語が展開されそうだったじゃんか!」

「お前!」


「馬鹿お前」

「数多の選択肢の中から、あえて惰眠を選択できる幸福と言ったらないんだぞ」


「いや!まぁ、そうだけれども…」

「でも、その内お金とか無くなっちゃうし」


「悪魔がいるんじゃ就活もままならないだろ」

「お金どころか、普通に命の危機だし」

「だからこれは、早いこと俺が幸せであることをアピールするためなんだ」

「確固たる目的を遂行するための睡眠、これは遂眠と言ったところか」


「上手くないよ」

「それに字面じゃないと伝わらないよ、それ」


 滅茶苦茶と思うかもしれないが、この論理は破綻していない。この際、本質なんてものはどうでも良いのだ。そんなもの、コロコロと変化し続ける、頼りない指標に過ぎないから。

 最も重要なことは、本人がどう思っているか、だ。認識一つで世界は180度ひっくり返る。

だから、何一つ問題なんてないのだ。


「したがって、不幸なんていう言葉は俺から最も遠い言葉だ」

「どんなにひっくり返ったって、俺の幸せは覆らない」

「だって、幸って文字はひっくり返ったって「幸」なんだからな!」

「ははは、きっと悪魔は義務教育を修了していないんだろう」

「藤宮もそう思うだろ?」


「・・・」

「お前が思うなら、そうなんだろうな」


 「お前の中ではな」とは言わなかった。そして、その理由は長年の相棒である俺でなくても一目瞭然だった。

 茶化すように肩をすくめる所作を行いはしたが、その凍てつく視線に若干の恐怖を覚えたことは秘密である。


「まったくお前という奴は…」

「夜、寝れなくなるんじゃない?」


「大丈夫だ」

「いつも通り、0時きっかりには寝る」


「へぇ〜」

「確かに、お前は寝る天才だからなぁ」



 その言葉を背に、俺はリビングを後にする。目的は二度寝を謳歌することだ。もちろん、悪魔に対抗するためではない。だって、あれは夢に決まってるからだ。悪魔なんているわけがない。普通に考えれば当然のことである。そんな摩訶不思議、現実では起こり得ない。現実は物語ではないのだから。

 だから、これは逃避に過ぎない。いつも通りの。廊下を歩いてすぐ、寝室のドアに向き合う。再び始まる今日の日を憂いながら、ドアの取っ手に手を伸ばす。そして─。


「お前ここに来るまでに原稿用紙35枚以上も使いやがったな」

「遅すぎんだよ」

「馬鹿」


 悪魔がいた。

一章はこれにて終了です。蛇足感が否めませんが、執筆どころか活字さえまともに読んでこなかったので仕方ないです。このまま突き進んで行きましょう。ここまで読んでくれたあなた。ありがとうございます。

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