プロローグ
今の話をしよう。開幕ポエムで感傷に浸る暇はないし、昨今降下の一途を辿るその需要に答えるつもりもない。それに、この緊迫下に詩を綴るほど、シェイクスピアに魂は売っていない。ちょっと無理だ。仮に綴られたとしても、それは詩なんかではなく「死」なんだろう。つまり俺は結構好きってことだ。
ドンドンドンッ!
サイドテーブルと椅子、本棚による即席バリケードが軋む。「入ってます」という冗談を言える雰囲気でもなさそうだった。
助けを呼ぶ携帯機器も何故か電源が付かず、雰囲気はシリアス一色に染まりきる。
分からない。俺は実家暮らしではないし、誰かを招いているわけでもない。もちろん、ペットの来訪という微笑ましい線もない。そもそもこのマンションはペット飼育が禁止されている。
つまり、あり得ないことなのだ。誰かが自室の扉を叩くことなんて。そんなことは。
異常事態ですごい怖い…。衝撃は今にも扉を破る勢いで増していき、普通に命の危機だ。
しかしながら、あり得ないことは実際に起きてしまっている訳で、この問題を対処する他ないことも確かな現実なのである。
・・・しかし、何もわからないというわけでは、ない。一応収穫はあった。本当に少なく、最早知らない方が良かったと思える情報が。
扉の先の存在はご丁寧にも名乗りをあげたのだ。「空き巣強盗です」と名乗ってくれた方がまだ冷静になれたかもしれないけど。でもあれは、あまりにも…。
・・・
あれだけ響いていた騒音がピタリと鳴り止んだ。突如として訪れた平穏に対して、俺は混乱することしかできない。だからと言って安堵感がやってくることもなく、部屋には嵐の前の静けさのような冷たい緊張感が走っていた。
静まり返った部屋とは対照的に、鼓動の五月蠅さは勢いを増す。名誉のために言うと、将来が不明瞭なニートによる気狂いという訳ではない。ニートに名誉とか、そういうセンシティブな話題を抜きにして、だ。そうであってたまるー
「ッ!?」
これが第六感とでも言うのだろうか。突如として脳内に顕現した「危」という文字を見て、とっさに身構えた。すっかり人類は野生味を失ってしまったと思い込んでいても、数千年経ったぐらいじゃその本能は失わないらしい。おかげで、飛び散る木の破片から体を守ることができた。
一言で言うと、普通に蹴破られたのだ。即席とはいえ、バリケードを張り巡らした木製のドアを。一撃で、あたかもダンボールみたいに。唯一の境界線をものの簡単に。即席バリケードごと吹き飛び、轟音と共に部屋を大きく揺らす。
・・・
絶句してしまった。嘘じゃん…。人間こういう時、案外どうでもいいことを考えてしまうらしい。最も、それは現実逃避に他ならないのだが。
お隣さんが結構怖い人で、過去に聞いた彼女の怒号を思い出す。あれはもう…凄かった。どうして人間ここまで十人十色なんだろうって思ったっけ。まぁだからこそ、人類はここまで発展することができたんだろうなぁ。って。はぁ…。正直もう関わりたくないのに、こんな騒ぎでは時間の問題だろう。これでは敵が増えてしまうじゃないか…。それともコイツが擁護してくれるのだろうか。あはは…。
大学のガクチカとして小説を執筆し始めました。執筆中は嫌なことを考えずに済んで良いです。つまりはそういうことです。奇跡的な確率でこの文章を目にしたあなた。その巡り合いに感謝を。