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第13話「”努力”と結果」

小山さんと仲良くなったことをきっかけにして

美月の日常は大きく変化していきます…。

 その日から私と小山さんは普通に話すようになった。

朝は挨拶だってするし、休み時間はちょっとした話で盛り上がって、お昼休みには一緒にお弁当を食べる。

そんな、高校ではあたりまえの日常が、ようやく私にも訪れたのだった…。

周囲には相変わらず無視されていたけど、私はそれでも諦めるつもりはなかったし、小山さんも戸惑いがちにも私と一緒にいた。


「今日もダメだったね…」

「はい…」

そんな日々が続いて数日。私たちは中庭でお弁当を食べていた。

「やっぱり…なにか手を考えないとダメなんでしょうか…」

小山さんは俯きがちに言う。

「うん…私もそんな気がしてきたよ…」

正直、私もなにか手はないのかと考えた。でも私は今まで受けてきた嫌がらせをただ”耐える”ことしかしなかった以上、かなり状況は悪い。

「あの…ごめんなさい…秋村さん。私…何もできなくて…」

小山さんが本当に申し訳なさそうに頭を下げた。私はそんな小山さんに微笑んで

「ううん。小山さんがこうして私と話してくれるだけで嬉しいから」

そう言ったのだった…。




「私の小学校からの友達の木下真梨ちゃん。それでこっちが…」

「小山です…よろしくお願いします…」

そう言って小山さんは真梨ちゃんに頭を下げた。放課後、私が小山さんと一緒に帰っていてそこに真梨ちゃんが合流、そして今に至る。

「よかったじゃん美月。ちゃんとこうして話しかけてくれる子ができてさ」

そう言って私の肩をポンポンと叩く真梨ちゃん。そんな真梨ちゃんに私は笑顔で

「うん」

と、頷いたのだった。


「そういやさ…美月。あれから先輩とは会ったの…?」

不意に真梨ちゃんにそう言われて、私は俯いてしまう。

「うん…実は何度かすれ違ったこともあったんだけど…無視されちゃって」

「そっか…」

それを聞いた真梨ちゃんも悲しそうな表情を浮かべた。

あれからも先輩とは何度かすれ違ったが、先輩は私を気にすることもなく行ってしまった。

仕方ないことだとわかっていても…やっぱり辛かった。

「あの…先輩って?」

1人事情がわかっていない小山さんが首を傾げる。

「桐野先輩だよ。小山さんの学校にいる」

そう真梨ちゃんが説明する。小山さんは一瞬わからないような表情を浮かべたが、すぐに誰のことか思い当たり

「えええっ!? あの桐野先輩ですか!? どうして秋村さんが!?」

と声を上げた。そんな様子を見た真梨ちゃんは笑って

「小山さんって、なんだか美月に似てるよね~」

そんなことを言った。

「いや、その…教えてくださいよ~」

必死に頼んでくる様子を見て、真梨ちゃんはまた笑った

「わかってるよ~」

そう言って私を見る。

結局この日は小山さんの質問攻めに遭ったのだった…。




「「ハァ…」」

2人同時にため息をつく。

翌日の昼休み、またも私たちはふたりでお弁当を食べていた。

最近はもう近づくだけで避けられてしまうようになっていて、状況は悪くなる一方だった。

「どんどん悪化していってるなぁ…」

それも無理ないか…ただひたすら話しかけるだけじゃあまるでストーカーだし…。

「なにかいい手はないんでしょうか…?」

小山さんが呟いた。

「それが思いつけば早いんだけどなぁ…」

2人で悩んでいた。



   〈Another Side〉



 時を同じくして、中庭に2人の男子生徒がやってきていた。

「うぅ…今日あんまいいの取れなかったぁ…」

「だから今日は諦めて学食にしようって言ったのに…」

彼らは昼休み、昼食に購買のパンを買おうと決めたのだが、片方が出遅れてしまった為に結局どちらも残り物しか買えなかった。「今日は出遅れたから学食にしよう」という友人の提案もあったが、一度決めたからという理由で購買に突入。の結果がこれである。

「ハァ…とにかく早く食べようぜ。ただでさえ出遅れてるのに…ん?」

「どうした?」

突然の友人の声に振り替える。

「あれ、秋村と小山じゃね?」

彼が指差した先には、確かに自分たちと同じクラスの秋村と小山がいた。

「ホントだ…昼休みいつもいないと思ったらあんなとこにいたのか…」

「…なぁ、前から思ってたけどさ、俺たちが何で秋村のこと避けなきゃいけないんだろうな?」

「さあ…? 周りがそうしてるからじゃね?」

友人の問いに、彼は答えた。

「別にさ、俺らが避ける必要ないんじゃねーか? 最近、秋村なんか頑張ってるし」

「あーそれは言えてるな。なのにアイツらが”無視しろ”って言うんだよな」

彼は自分たちに彼女を無視するように言ってきた女子生徒達を思い出す。

「なあ、せっかくだしさ。一緒に昼飯誘ってみようか」

「えぇ…でもナンパみたいに思われるかもしれないし…」

手を差し伸べようとする彼に対し、もう1人は弱気だった。

「無理なら諦めたらいいじゃん。第一、俺集団で無視とか嫌いだし。そういうことしてたアイツらも嫌いだったし」

そう言って、友人の返答も聞かずに彼は歩き出したのだった…。



   〈Another Side Out〉



「よっ! 秋村、小山」

「え…?」

急に声をかけられて、私たちは顔を上げる。するとそこには2人の男子生徒がいた。確か同じクラスの…

西崎にしざき君と…多田ただ君?」

「そうそう。昼一緒に食べていいか?」

そう言って西崎君は購買で買ったであろうパンを取り出した。

私はなぜ急に2人が話しかけてきたのかわからず、混乱していたが

「うん、いいよ」

話しかけてくれた2人に笑顔で、そう言っていた。


「…でさ、そんときコイツ思いっきり滑って転びやがったんだよ」

「おい! あれはそもそもお前が…」

私と小山さん、西崎君、多田君の4人での昼食。

基本的には2人が喋って、私と小山さんは相槌をうつだけだが、それでもすごく楽しかった。

「…なんだ、秋村って別に普通だよな?」

「うん、やっぱ周りが適当なこと言ってただけか」

不意に2人がそんなことを言った。

「普通…?」

私が聞き返すと、2人は申し訳なさそうな顔をした。

「ホラ、秋村って一年の頃からやたらと変な噂流されてただろ? ほとんどガセ丸出しなんだけどさ…妙にリアルなのもあったし…秋村あんま周りと仲良くしないからなんか近寄りにくくてさ…」

「あ…」

やっぱり私は周囲に溶け込めてなかったんだと実感する。

「でもまあ、話してみたら別に普通だよな?」

そう言う西崎君に多田君も頷く。

「無視してごめん。秋村、小山」

そう言って、2人は頭を下げた。

「そんなっ…いいよ別に! こうして話してくれただけで十分だって!」

私はそう言ったが、2人は納得してないようだった。すると西崎君は何かを思いついたらしく

「決めた。俺、知り合いにも声かけて秋村の誤解解くわ」

そう言った。

「え…?」

思わず聞き返してしまう私。すると「なら俺も」と多田君が声をあげた。

「でも…」

「大丈夫だって。ちゃんと秋村を無視しないように言っとくからさ」

多田君もそれに頷いた。

そんな2人の厚意に私は笑顔で

「ありがとう」

そう返事をしたのだった…。


「へぇ~じゃあ大分マシになるんじゃない?」

「そうだといいんだけどね」

放課後の帰り道。私と小山さん、それに真梨ちゃんが合流してのいつものメンバー。

私は今日のことを真梨ちゃんに話した。それを聞いた真梨ちゃんも嬉しそうだ。

「小山さんもありがとう。最初に話しかけてくれたとき、すごく嬉しかったよ」

「そんな…私はなにも…」

小山さんは照れたような表情になる。

「でもさ~案外美月か小山さんを狙ってるのかもよ?」

「「ええっ!?」」

そんな真梨ちゃんの言葉に2人同時に声をあげる。

慌てる私たちに真梨ちゃんは笑って

「ごめんごめん。小山さんはともかく、美月は先輩一筋だもんね~?」

「そんなんじゃないってばぁっ!」

そんなやりとりをしていたのだった…。




 西崎君と多田君は言葉通り呼びかけてくれたらしい。日に日に私たちに話しかけてくれる人は増えていった。朝はちゃんと挨拶してくれるし、休み時間だって話しかけてくれる。お昼は私、小山さん、西崎君、多田君の4人で食べるのが普通になったし、放課後は私と小山さんに真梨ちゃんが加わった3人で帰るのが当たり前だった。

あの日、”変わりたい”と思って、でも絶対に手が届かないと思っていた日々に、私がいた。

あの日から”諦めない”と思って頑張ってきた。それの努力が報われた瞬間だった…。


 数日後には私を無視する生徒も敵視する生徒もいなくなっていた。ただ数人を除いては…。

「…」

無言でこちらを睨んでくる女子生徒たち、今度は彼女たちが今回の事件の犯人ということで無視されていた。

今となっては彼女たちは私に手出しができなくなった。だからああやって睨んでくるのだろう。

でも私はそれに怯むことなく彼女たちに近づいていった。

「…何?」

彼女達は敵意を隠すことなく睨んでくる。私はそんな彼女たちに

「私はあなたたちとも仲良くしたいんです」

そう言った。彼女達はそんな私に驚いている。それは遠巻きに見ていた周りの生徒も同じだった。

「…なに言ってんの? 私たちのこと心の中じゃ笑ってるくせに」

「確かにあなたたちのやったことを許したわけじゃありません。でもここであなたたちを無視していたらあなたたちと同じになってしまいます」

彼女たちのやったことは私にとってとても許せるものじゃない。だからと言って仕返しをする気は私にはなかった。私は振り返り、教室に聞こえる声で言った。

「みなさん。彼女たちを無視せずに、普通に接してあげてください。お願いします」

そう言って頭を下げる。しばしの沈黙。そして

「…なんで…私たちなんかを…」

そう言って、彼女達は教室を出て行った。

───でも、その日から彼女たちの敵意のある視線も無くなったのだった。

…この日、私の”日常”は確かに”変化”した…。

こうして”孤独”だった美月は”変わる”ことができました。

そんな彼女を見つめる桐野は…?

次回もお楽しみに。

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