序章 「”孤独”な私」
「独り」には2つの種類がある。
1つが「孤独」本人の意思とは関係なく孤立してしまった状態。
もう1つが「孤高」本人が望んでなった状態。
私は「孤独」だけれど。すでにその心構えは「孤高」のそれと同じだった。
・・・否、そう思い続けていなければ立っていられなかったのかもしれない。
私は「孤独」、でもそれでも構わないと思うことが私にとっての「支え」だったのかもしれない。
私の名前は秋村美月、17歳で、ついこの間高校2年生になった。
学校にも慣れて、勉強や部活を初めとする学校生活がさらに楽しくなる時期・・・なのだが。
「・・・」
通学路、周りを歩く生徒達の顔は、皆楽しそうだ。
そんな中、私の顔は暗く沈んでいた。
周りの生徒達は、そんな私に気付くことなく、・・・いや、気付かないフリをしているのだろう。
私の方をわざと見ないようにしているし。私に対してヒソヒソと小声で話をしている生徒もいる。
・・・居心地が悪い。そう思って私は足早で学校へと向かった。
靴を履き替え、教室へ、扉を開けて中へ入ると、それまで騒がしかった教室が一瞬静かになった。
私に集まる視線、視線、視線・・・。
しかしそのどれもが私に対しての敵意や差別的なものだった。
だが、それも一瞬で、すぐにまた何事も無かったかのように教室は喧騒に包まれていた。
私は、それを気にすることなく自分の席へと向かう。
・・・周りの生徒は、もう私の存在を認識すらしていなかった。
昼休み、私は弁当箱の包みを鞄から出すと、教室から出ようとした。
「秋村」
私を呼ぶ声と、それに続いて現れる数人の女子生徒。
またか・・・。
「悪いんだけどさ、購買でパンと飲み物買ってきてくれない?」
そう言って、こちらの了解も聞かずに次々と希望のものを言ってくる女子生徒たち。
私はそんな彼女たちにうんざりしつつも仕方ないと思って、必要なものを記憶して
「わかり・・・ました・・・」
ただそれだけを口にした。
これが私の「日常」。私は内気で、あまり人と接するのが得意ではない。なのでクラスではいつも孤立していた。
そして、いつからかそんな私はああいった「イジメ」の標的にされていたのだ。
1年生の時から始まり、根も葉もない噂も流されて、今ではこの学校に私の味方はいないと思う。
・・・でも、それもこんなに内気なのが原因なのだと割り切ってしまっていた。
ただ黙って耐えていれば、それ以上トラブルになることもない。
これが私のせめてもの抵抗だった。
「美月~」
帰り道、私を呼ぶ声がして振り返る。
「あ、真梨ちゃん」
自分とは違う制服を着た女子生徒。名前は木下真梨。高校こそ違うが、小・中学校と一緒に遊んだりしていた親友だ。
内気な私にも積極的に話しかけてくれて、いつも引っ張ってくれていた「最初の友達」、それが真梨ちゃんだった。
中学校を卒業して別々の高校に通うことになったが、家が近所で帰り道もほとんど同じなため、ときどきこうして会っている。
「どう美月?新しいクラスには馴染めそう?」
そう笑顔で聞いてくる真梨ちゃん。私は少し気分が沈んだが、それを隠すように笑顔で
「う…うん。なんとか頑張ってみるよ」
と言った。
私は今の自分の状態を真梨ちゃんには話していない。中学校を卒業しても真梨ちゃんは内気な私のことを心配してくれていた。
だからこそ、そんな彼女を不安にさせるようなことはしたくなかった。
「そっか、私は違う学校になったけど、でも何かあったら相談してね?」
そう言ってくれる真梨ちゃんの笑顔に、少しだけ胸が締め付けられたが。それを表情には出さずに私は
「うん、ありがと」
それだけを口にした。
新学期になって早速、実力テストが近づいてきた。
相変わらずクラスの嫌がらせは止まなかったが。テスト目前というだけあって、流石に控えめだった。
「えっと・・・」
今は放課後、私は学校に残り、図書室で勉強してから帰ることにした。
さきほどまではちらほらとほかの生徒も見かけたが、今ではもう図書室には私しかいない。
図書委員は「鍵かけといてね」とだけ言うとさっさと帰ってしまった。
いつもの嫌がらせだと思うが、実際そのつもりだったから今回は特に気にならなかった。
「どこだったかな・・・」
この図書室はなかなか広い。なので目的の本どころか本棚を探すのにも苦労する。
私がうろうろと目的の本棚を探していたときだった。
ガタッ・・・
「え・・・」
不意に物音が聞こえて、そっちの方向に振り返る。
もちろん変化はない。ただ、あの方向には・・・。
「あ・・・!」
それがわかった途端、私は背筋が凍ったように冷たくなるのを感じた。
七不思議というものはどの学校にも存在するものだが、この学校にももちろん存在する。
そのひとつに「開かずの図書倉庫」というものがある。
この図書室には、奥に誰も読まなくなった本や古くなってしまった本を置く「図書倉庫」というものがある。
普段は扉に鍵がかかっていて、鍵は図書委員が持っているので当然普段は開かないのだが、こうして誰もいない放課後に図書倉庫の中から物音を聞いたという生徒が大勢いる。それは昔図書倉庫に閉じ込められた生徒の幽霊だという話だ。
「・・・!」
私は今まで信じてはいなかったのだが、さっきのあまりにも不自然な物音を聞いて、途端に怖くなってしまった。
・・・結局、この日はそのまますぐに逃げるようにして帰宅したのだった。
「秋村~」
この日も私は昼休みに女子生徒に呼び止めらた。
「今日は・・・」
もう遠慮もしない、私の返事も聞かずに次々と目的のものを口にしていく。
「じゃ、頼むね」
「・・・はい・・・。」
それでも、私は何も言わずに購買へと向かったのだった。
「ハァ・・・」
放課後、図書室でもう何度目になるかもわからないため息をつく。
「何で私なんだろう・・・」
いや、なぜなのかは自分でもわかっていた。「私が内気で言うことを聞きそうだから」に他ならない。
わかっていて、でも口に出さずにはいられなかったのだ。
「私だって・・・」
私だって、本当はあんなことしたくない。みんなと同じように笑って、友達と話をしたり遊んだりして、あくまで「普通の学校生活がしたい」だけなのに私にはそんな些細なことすら許してはもらえないのだろうか・・・?
「自分を・・・変えられたらいいのに・・・」
簡単に自分を変えることができたらどんなに楽だろう。そうすれば、こんな理不尽な嫌がらせもなくなるはずだ。
私の望む「普通」も簡単に手に入るだろう。
「変わりたいよ・・・私・・・」
そんな、近くて遠い望みをぽつりと呟いた時だった。
「なら変わればいいんじゃないのか?」
そんな言葉が聞こえた。
「!?」
はっとなって声のほうを向く、すると・・・。
「変わりたいと望んでいるのに変わらないなんて俺には理解できない思考だな」
───そこには一人の男子生徒がいた。
2作目です。
女性視点ですこし変なところがあるかもしれませんがご了承下さい。