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9、五月五日③ATMとペニンシュラと中国茶

ホテルで十五分ほどの休憩を済ませ、またもや出発。ようやく五時からは自由行動となった。この分刻みのスケジュールは、ちいかわをも凌ぐ。


 さて、自由行動と言えば、当然ショッピングである。という事で金がいる。

そろそろ香港ドルも底がつくという事で、まずATMを探し、キャッシュカードで香港ドルを引き出すことになった。


 しかし、問題が発生した。お金を下ろすなんて簡単だと思っていたが、言葉の壁は厚かった。


なんやかんやで日本語ではないため引き出せず、お金を下ろしにやってきた中年男性に助けを求めたが、わけ分からん言葉で戸惑われて逃げられ、次にお金を下ろしにやってきた若いカップルに泣き付くと、おもむろに男性がケータイでなにやら話を始めた。そしてケータイを差し出してくる。

なんと、ケータイの向こうに日本人の友達がいるので、そいつに教われと言っているようだ。ありがとう!


 しかし、ケータイの向こうの日本人も、実際、機械の前にいないため、瓢箪鯰ひょうたんなまずな会話が続くだけであった。


ここで学んだことといえば、困ったことはカップルの男に泣き付くと、男はカノジョがいる手前、無下にできないので、なんとか手を差し伸べてくれるということだけであった。






 取り敢えず、時間もないので、有名なペニンシュラへ向かうことになった。ホテル日航香港付近まで続く広々とした遊歩道を、ひたすら導かれるままに歩く。


 この歩道は尖沙咀東部海濱公園チムサアチョイ・イースト・プロムナードと呼ばれるもので、ヴィクトリア港の潮風を受けながら、そぞろ歩きできるロマンチックな遊歩道だ。時折、吹いてくる潮風は爽やかで、好天である今日の散策は特に気分爽快になる。


歩きながら、青く輝くハーバーを航行する船や、対岸の香港島のビル群、その後ろに控えるヴィクトリア・ピークの緑といった美しい眺望が楽しめ、飽きることなくそのまま遊歩道は終わった。後は、梳士巴利道ソールズベリー・ロードを挟んだ向かいが、もうペニンシュラである。


 長年、英国統治下にあった香港の歴史を今に伝える、コロニアル・スタイルの本館と三十階建てのタワーを持つ優美なホテルは、香港を代表する老舗の風格を全身で放っていた。北大路きたおおじ欣也きんや並みの凄い威厳だ。


 さて、早速、中へ入ってみる。ショッピングアーケードの店舗はH型の通路に並んでおり、地下から中二階の三つのフロアに分かれていた。グッチ,シャネル,プラダなど約百店もの有名ブランドショップが勢ぞろいだ。


 ブランドではないが、地下の〈ペニンシュラ・ブティック〉にも目を付けたい。ペニンシュラホテルのロゴ入りグッズや、香港土産にうってつけのオリジナルチョコレートが店内に設けられており、大勢のツアー客が訪れる午後であることも手伝ってか、店内はこころなしか窮屈であった。


ちなみに、じっくりと落ち着いてショッピングを楽しむなら、比較的空いている午前中をお勧めする。


 また、ペニンシュラのロビーが素晴らしい。コロニアル風の内装に吹き抜けの天井、マホガニーのテーブルや布張りの椅子など、家具調度の一つ一つが歴史と伝統を感じさせてくれる高級カフェとなっているのだ。


中二階のテラスでは定期的にクラシックの管弦楽が演奏され、それをBGMに統一されたティファニーの食器でおいしいハーブティーやコーヒーが味わえる。贅を尽くしたインテリアに囲まれ、優雅なティー・タイムと洒落込めば、誰もが認める有閑マダムのできあがりだ。


 しかしながら時計を見ると、すでに時は六時過ぎ……。ハイティーなるものも楽しんでみたかったが、あいにくそのようなおしゃまな時間は持ち合わせておらず、我々五名はすぐさま次の目的地、お茶専門店へと繰り出したのであった。






 半島中央部を縦に走るメインストリート、彌敦道ネイザン・ロードから枝葉のように伸びる街路沿い一帯は、非常に賑わっていた。右を向いても左を向いても、極彩色の看板と人の洪水で溢れ返っている。


 歩きつつ、途中のさまざまな店を覗き見つつ、気に入ったものがあったら買いつつ、ようやく素朴な中国茶専門店へ辿り着いた。


本店は香港島にあるようで、我々が見付けたのは支店の方であった。しかし、ガイドブックに載るだけあってお茶の種類は豊富で、可愛らしい茶器なんかも所狭しと並べられている。


中国茶は茶葉の発酵度合いによって六種類に分けられる。全く発酵していない緑茶から始まって、発酵度合いの強くなる順に白茶、黄茶、青茶、黒茶と続き、完全に発酵しているのが紅茶である。


 店内に入って、まず最初に茶髪の四十代ほどの女性店員(ガイドブックに彼女がさりげなく載っていた)が小さな茶器で、テイスティングさせてくれた。これは無料。


烏龍茶ウーロンチャーだったのだが、これがうまいっ! 日本でお馴染みの焦げ茶色ではなく、うす黄緑で香りも良い。今まで飲んできたのは一体何茶だったんだ……?と思わず首を傾げたくなるほどだ。


思いのほかおいしかったので、これを一パック買ってみた。

しかし、普洱茶ポウレイチャーも昨日のショッピングで買っており、これと言ってお茶にさほど興味がなかった私は、何もすることがなくなったので、店にあった椅子に腰をかけ、藤井の買い物を待っていた。


藤井は家族に花茶はなちゃなるものを頼まれており、それを必死に探していた。

花茶とは、茶葉に花で香りを付けたものや乾燥させた花そのものを利用したもの、花と茶葉をブレンドさせたものがある。


ちなみに、緑茶に花の香りを移したものが茉莉花茶モーリーファーチャ(ジャスミン茶)である。(一般的には緑茶が用いられるが、白茶や烏龍茶、プーアル茶が用いられているものもある。)

ジャスミン茶は、もともと品質の落ちた茶葉をおいしく飲むために花の香りをつけたのが始まりらしい。


それにしても、ガイドブックにも多様性が中国茶の大きな魅力だと書かれていたが、如何せん、多様すぎる。その種類は二千とも三千とも言われており、店内にも、四方の壁一面に茶葉の入った缶がびっしりと並べられていた。


話を訊き、片っ端からテイスティングをしていく藤井。かなり迷惑なお客様だ。


 取り敢えず、藤井以外は店の外で待つことになった。他の客も増えだし、身動き一つ取れない状態になってきたため、クーラーのきいた店を出ざるを得なかったのだ。


しばらくして、ようやく品物の入った袋を抱えて藤井が出てきた。と思ったら、おや? 藤井は珍しく怒っているようだ。

出会ってこのかた、藤井の真摯なる怒りはついぞ拝んだことはなく、巷では第二のタモリ、もしくは平成の仏陀と謳われたあの藤井が怒るとは、まさに寝耳に水の出来事である。


「腹立つ! 三千円、だましとられるとこやってんっ!」


 なんとっ!


 話はこうだ。花茶と茶器のセットを注文し、自分で計算してお金を差し出したが、お釣りの三千円が返ってこないのだ。何度も計算をするが、しかしあっている。ここでこのまま引き下がれば、腰抜け日本人のレッテルを貼られることになるではないか。藤井危うし。


激闘数刻の結果、何度も電卓を叩く藤井に、ようやく女性店員はやれやれ……と三千円を返してくれたのだという。


 ガイドブックに載っていたあいつ、こんな若造から三千円をちょろまかそうとするとは……。やはり、香港はどこに落し穴が待ち受けているか分からない。本当に空恐ろしい国である。


 さて、いつの間にか、街はすでにネオンで彩られていた。

当初、香港ではユニークな占いも有名なので、運勢をみてもらう計画もあったのだが、時間も時間なだけに夕食へと繰り出すことになった。


個人的には、あまり占いも信じていないほうなのでなくなったところでなんてことはないのだが、唯一興味深かったのは、小鳥占いというものだ。

内容的には運勢が書かれた赤いおみくじを文鳥がくちばしでつまんで持ってくるというもので、意外に当たると評判らしい。インチキでない証拠に、何度引かせても同じおみくじを引いてくるのだ。興味がある方は是非どうぞ。


それにしても、根性が座っているかと思えば、占いに頼ってみたりと乙女チックな部分も垣間見せる香港人……。理解し合うのはハードそうだ。


他にも、黄大仙ウォンタイシン(香港を代表する寺院)のおみくじ占いのような娯楽的なユニーク占いから、中国占星術のような伝統的な占い、一般的な風水や手相や顔相などもやっている。


ちなみに、オーラ占いという、いかにも怪しい占いもあり、さすがにそこらへんは香港という事で上手くお茶を濁しておきたいところだ。

読んでくださって、ありがとうございました。

遅くなって、すいませんでした。

次回に続きます。

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― 新着の感想 ―
ここまで読みました。 香港の方々のたくましい商魂……すごいですね。 お釣りちょろまかすのはダメですけど(´・ω・`) ジャスミン茶って以前はあまり日本人に馴染みがなかったと思いますが、今はコンビニにも…
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