5、五月四日②天后廟と飲茶
そうこう話を訊いているうちに、バスはそのままレパルス・ベイ(淺水灣)へ到着した。レパルス・ベイ・ビーチと呼ばれる、青い海と白い砂浜が広がる香港を代表するビーチリゾートがあるのだが、そこへは出なかった。
我々ツアー客の目的地は、ビーチ沿いに建てられたパワースポットである〈天后廟〉であった。極彩色の、いかにも中国風な楽しい神様の像がたくさんあり、まさに一見の価値ありであった。
まず嫌でも目を引くのが、本堂に向かって右手の天后像と、左手の観音像。このどでかい二体の像が、どーんとみんなの代表のようにそびえ立っている。
周りにも多種多様の神様の像がたくさんあり、縁起の良いもの大集合といった雰囲気だが、ふと私が一番目を引いたものがあった。観音像の放つ異彩に負けて、しおれてくたびれているじいさんの像だ。見事に一人も近寄っていない。なんだか曰くありげだが、とにかく触ると貧乏になりそうなので、写真だけおさめておいた。
長寿橋も渡る。
また、良い人と巡り合えるとされている〈婚縁石〉の像と勘違いし、わけの分からん魚の像を笑顔で触りながら写真を撮る、アホな藤井と木田。そして、間違いを教えられて、アホの仲間入りをする私。間違いを指摘され、慌てて〈婚縁石〉を撫でているところを撮ってもらう。もう少しで変な奴と結婚して、長生きするところであった。危ないところであった。
また、ある像の口にコインが入ったら金持ちになれるということで、皆でその像の口に向かってコインを投げまくる。像の口が高い位置にあるのでなかなか入らなかったが、なんとか入れることに成功した。これで一安心だ。
しかしながら、ふと思う。ここは香港だ。騙されているのかもしれない。ここもレパルス・ベイなんかじゃなく、アニエスベーなのかもしれない。もしくは、笑福亭鶴瓶なのかもしれない。半信半疑で信じてみることにした。
途中、〈DFS GALLERIA〉へ行き、更に翡翠専門店へ行く。セールの四万八千円の品を三万円に値切ったが、得なのか騙されたのか、ちょっとばかし疑わしい。
また、この店は客より店員の数が多いのも困る。買い終わってただ見ているだけでも、「これなんかね」とその商品をケースから取り出し、いきなり説明を始めるのだ。無視すると、慌ててケースにしまって、じっと後ろから一定の距離を保ってついてくる。ストーカー被害者の気持ちが良く分かる店であった。
昼になり、バスはそのまま昼食をとるため、あるレストランへ向かった。
そこは飯茶の店であった。
まず、普洱茶(中国語でプーアルチャーと発音する)が出てきたので飲んでみた。寺のお坊さんの味がした。お坊さんを食べたことはないが、席についているみんなが「分かる分かる」と言っていた。みんな、お坊さんを食べたのか。
次にお待ちかねの点心である。食べてみた。めっちゃめっちゃうまかった……。香港では点心にラードなどは使わず、さっぱりとした味に仕上げるのが特徴だ。
鮮蝦餃(海老蒸し餃子)は海老がぷりぷりで、叉焼包(チャーシュー入り饅頭)は甘いみそがからめてあり、これまたうまい。蜂巣芋角(タロイモ揚げ)も外はサクッ、中はトロッとしており、なんともたまらないタロ芋コロッケに仕上げてある。
肉だんごもジューシー。チャーハンも細長いご飯が適度にパラパラでバター味がきいている。スープもうまい。焼きそばもうまい。うまいもんづくしの飯茶である。デザートはタピオカ。私はタピオカが苦手なのだが、まあまあの味であった。(タピオカミルクティーは好きである)。
テーブルはやはり汚れていた。「汚いな」と藤井が言い、「でも、この焼きそばとたまごスープとタピオカはここのウエイトレスやで」と言うと、みんな笑った。ほんと、ここの人って大雑把だ。
トイレへ行く。ここはトイレのおばさんにチップをやらなければならなかった。初のチップを渡す。
はてさて、料理は終了した。とにかく、飯茶はマジでうまかった。
帰るために扉を出てビックリ。絨毯が敷かれた通路に出て、すぐそばにはエスカレーターがある。どう考えても、ここは廊下である。しかし、エスカレーターのすぐ横にテーブルが設置されており、そこで章さんが飯茶を食べていた。
「……ここ、廊下やんな……」
エスカレーターを登りながらぽそりと呟いた私の言葉に、石場と藤井が爆笑。ほんと、ここの人っておおらかですね。
更にバスはひた走る。
車窓からは、ランドセルを背負う小学生が見えた。
(これから帰るんか)
と、思っていたら、章さんが説明した。
「これは登校中です。学校は昼からなのです」
ええっ! マジかっ!
ちなみに、授業は四時間程度。後は宿題である。
土地が高いため学校は狭いが子供の人数は多いので、教室が足りない分、前半後半に分かれて授業をしなければならないからだ。
運動会が大変ですね。一人一回百m走をさせただけで、午前の部は終わりそうやな。父兄の方々なんか、場所取りに命掛けやな。
例の赤,黄,緑の三原色で闘うのだろうか? 赤は福(幸福)、黄は徳(財産)、緑は寿(長寿)が正しいならば、優勝トロフィーに付いている歴代のリボンは赤色が多いはず。ぜひとも確認したいところだ。
読んでくださって、ありがとうございました。
次回に続きます。