14、五月六日④香港国際空港―→関西国際空港
搭乗ゲートへと向かっていると、長い通路の途中に動く歩道があった。
そのまま流れるように歩いて乗り、ハワイ帰国の芸能人みたくなっていると、隣では芸能レポーターさながらに、木田がヒィヒィ言いながら荷物を持って歩いていた。動く歩道に気付かなかったらしく、悔しそうに我々に負けまいと早足で歩く木田であった。
天井まで届く大きなガラス窓の向こうには、暮れ始めた空をバックに飛行機が待機している。
時間が来て、ボーディングブリッジを渡り、我々は機内へと乗り込んだ。帰りは、CXの五〇二便である。ちなみに席はエコノミーの69Aのシートであった。
これにはほとほと参った。それというのも、ゴールデンウィークのラッシュ時のためか、我々五人の席は見事にバラバラだったのだ。四時間の空の旅を、強制的に一人で味わわされることになってしまった。ちなみに、離陸は十六時二十分であった。
(誰が隣なんだろう……)
ドキドキしながら席へ向かうと、隣の席には、微かに髭を生やしたおじさんが、すでに雑誌を読みながら我が家のリビングのようにくつろいでいた――
しかし、意外と優しいおじさんであることが分かった。邪魔な荷物はないか気遣ってくれるなど、香港女性にはなかった久々の対応に、天使のようにキラキラと輝いて見えた。ちなみに、香港へは仕事でやってきたらしい。
しかしながら、そこまでは良かったのだが、ビールを飲み始めた頃から、高感度は暴落。ちょっと酒臭かったのだ。
藤井の隣は優しそうな年配の女性だった。しかし、その頃、石場はというと、おじいさん、おじいさん、石場、おじいさんという、まさにおじいさんと見なされている座席にだいぶへこんでいた。
パーソナルTVでは、将来、小説家を夢見る黒人少年が、人との交流を絶って一人暮らしをしている有名な小説家のショーン・コネリーと出会い、お互いを友として認め、ショーン・コネリーは心を開いて旅に出て等いろいろあってからのラストにじんわりする映画をやっていた。こっちも小説家を夢見とるよ。底辺の日々が何年続くことやらって感じやけども。
はてさて、そんなこんなで夕食の時間と相成った。機内食はチキンと魚の二種類あり、私は魚を頂いた。
夕食後はハーゲンダッツのアイスクリームが配られる。行きは種類を訊かれてお目当てのストロベリーを食べられたが、帰りは有無を言わさずいきなり手渡され、種類を選ぶことができなかった。いちいち訊くのが面倒臭かったようだ。
(頼む。ストロベリーだけはやめてくれ)
祈る気持ちで、震えながらにふたを開けると、
(よっしゃ━━っ!)
食べたかったクッキー&クリームではないかっ!
私はにこにこしながら食べていた。しかし、藤井は機内に乗る前から、クッキー&クリームにしようと勇んでいたが、今は泣く泣くバニラをつついている様子。ちょっと可哀そうであった。
フライトを始めてから、すでに四時間が経過しようとしていた。なのに飛行機は、一向に着陸体勢へ移る様子がない。
もしかして、十度ぐらいいがんで飛んでいたのではないだろうか……。
関空が見当たらず、
「おっかしいなぁ? ここらへんやと思ってんけどなぁ?」
などと言いながら、実際はマリアナ列島付近の上空をうろついているのではないだろうか……。素人的な発想で、一人で顔面蒼白になる私。
その時、機体は激しく横揺れした。
「ただいま乱気流に突入いたしました。お席に着き、シートベルトの着用をお願います」
同じような内容が英語でも流された後、シートベルト着用のランプがカッ!ときつく光った。
その間も、絶えず機体は激しく揺れている。なんだか、本格的にやばそうな雰囲気だ。
ガタガタガタッ!と、棚などが大きな音を立てて揺れるたび、乗客は不安そうな目でスチュワーデスを見た。しかし、彼女達はわざとらしいまでの微笑みを浮かべて、優雅な物腰で座席一人一人を確認している。
どう考えても、
「お前ら、絶対に笑顔を絶やすなよ!」
と、機長に言い付けられたからに違いない。
気分転換のため、窓の外を見た。暗闇の中だが、荒れ狂う風が、赤子の手をひねるように我々の翼をもぎとろうとしているのが手に取るように分かる。
(やばい……。プーである今の私、香典なんか貰えない……。下手したらゴールデンウィーク明けのクソ忙しい繁忙期、お焼香もしてくんないかも……)
ポジティブな性格の私がここまでマイナス思考なのだから、相当の揺れ具合であったことは想像に難くないだろう。
しばらくすると、一人のスチュワーデスがやってきた。激しく横揺れする機内で、座席の背もたれに必死につかまりながら、作り笑いで機内販売の注文を承っていた。もちろん、誰も注文などしていない。
どう考えても、
「誰でもええから、機内販売とかで客の不満を紛らわせろ! あっ、絶対に笑うんやで! ええかっ、絶対にやでっ!」
と、機長が焦り口調で命令したからに違いない。
更に機体は、激しく横揺れ。コックピットでは、パイロットたちが管制塔にエマージェンシーコールを叫びながら、頬に冷汗と共に涙が伝っている光景が見えた。
と思ったら、関空の色鮮やかな滑走路のライトとビルの夜景が見え始めた。思わず安堵の胸を撫で下ろす。
きっとコクピットでは、「イエースッ!」と言って機長と副機長が手を打ち鳴らし、スチュワーデスは泣きながら抱き合い、管制塔では多くの航空管制官が瞳にたまっている涙をこらえているのだろう。まったく、とんだ茶番劇に巻き込まれたものである。
アテンションプリーズということで、なんとか関空に無事、生還することができた。
人々の流れるままに、シャトルに乗って到着フロアに着く。広々とした通路を歩き、入国審査ブースに並んで、係官にパスポート(日本出国時にホッチキスで止められた入国カードも一緒に)を提出。すると、入国カードに記入漏れがなければ、入国スタンプを押して返してくれる。あっけなくも、これで入国審査は終わりである。
そのままエスカレーターで、一階の国際線到着フロアへ出た。ターンテーブルで回って出てくる荷物を受け取る。
この時点で、すでに時刻は午後九時四十五分を過ぎていた。
(やばい! リムジンバスが出てしまう!)
慌てて税関を走り抜け、私と藤井は、他の三人に走りながら、
「じゃあ、またなっ!」
と叫び、関空から外に出た。
見ると、目当てのリムジンバスは今まさに出発しようとしている。慌てて走って追い付いた。思わず、「僕は死にません!」と叫んでしまいそうになるほど、あの名シーンと酷似していた。
「切符を買ってきなさい。このトランクは乗せておくから」
怒ることなく優しく言った係員のおじさんの言葉に、私は、
「サンキュー」
と返した。なんで英語やねん。どうやら、まだ外国気分が抜けていなかったようだ。
おじさんの言葉に甘え、私と藤井は切符を買いに走った。すると、券売機の横に立っている案内係のお姉さんが、
「千三百円になります」
と金額を言い、お金を入れた途端、ボタンを押してくれた。どこまで優しいねん。香港女性の後だったため、いい意味でいささかカルチャー・ショックに陥った私たちである。
そして、リムジンバスで高速を走っている帰路の途中、私はしみじみと思ったのであった。
(ああ、日本に生まれて本当に良かった……)
なにわともあれ、波瀾万丈だったが、とても楽しい香港旅行であった。
そして、時差があるため、私は時計を一時間、早く進めたのだった。
読んでくださって、本当にありがとうございました。遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
恋愛小説もコメディ小説も難しかったですが、エッセイも難しかったです。
難しいというか……話の内容と結末を知っているだけに、書いている本人が楽しめず、なかなか筆が進まないといった感じでした。
私は連載短編問わず、書きたい場面とプロットの六~七割くらいを作成すると、あとは結末がまったく分からない状態で適当に書いていきます。(私の評価は低いので、このやり方は真似しない方がいいです。……こんな恐ろしいやり方、誰が真似すんねん)
しかし、エッセイは勝手が違い、そうもいかず、なかなか筆が進みませんでした。
去年の十二月から書き始めてたんですね。そして、書き終わったのが八ヶ月後……書くの遅! 根性のない自分に、ほとほと呆れてしまいます。「鳴かぬなら ほとほとトホホ ほととぎす」です。
辛い連載でしたが、唯一の救いは、ブックマークと評価ポイントと面白いと書いて下さる感想があることでした。
未来屋環様、コロン様には本当にお世話になりました。あの感想がなければ、私は根性なしなので、平気で未完のまま放置していました。ダメ人間を優しく誘導してくださり、本当にありがとうございました。ゴールの見えない私の伴走者のような存在でした。
評価をしてくださった方、本当にありがとうございます。
ブックマークを付けてくださった五人の皆さん、本当にありがとうございます。
この作品は、この五人の方と私の六人で完成させた作品だと勝手に思っています。叶うなら、六人で打ち上げパーティを開きたいくらいです。もちろん私がおごります。
書き始める時は、いつも脳内で六人と円陣を組んでから書き始めておりました。本当にありがとうございました。
また、無名の自分のために、時間を割いて読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
心より感謝申し上げます。




