51話 カラオケと…
「こじま~いつもの宜しくぅ!」
「た・か・な・しだ!」
前回と同じようにカラオケルームで美奈と小鳥遊が戯れ合う。このやり取りあと何回見せられるんだ?と思いながら、タンバリンを手に取る悠斗。
アップテンポな曲が始まり、美奈がノリノリで踊り出す。マラカスを振る小鳥遊とタンバリンを叩く悠斗。
翔子は備え付けの電話でサイドメニューの注文をしている。
やはり前回と変わらぬ光景。ただ一つ違う事といえば、翔子が美奈の歌を笑って聴いている事だ。
そして、積極的に合いの手や手拍子を取っている。
「ありがと~~!」
肩で息をしながら勢いよく椅子に座る美奈。持参のタオルで顔を拭いている。毎度の事ではあるが、一曲目から全力だ。
「次は僕だな!」
小鳥遊が気合いを入れて立ち上がる。画面流れるアニメ映像。そして、相変わらず音域が合っていない。
美奈は構わずマラカスを振っているが、翔子は露骨に嫌そうな顔をする。だが、それでも小鳥遊に合わせて手を叩いていた。
「おまたせー!」
そんな中、カレンが部屋へと入って来る。そして、小鳥遊の裏声を聴いてすぐにリモコンの演奏中止ボタンを押した。
「なぬっ!?」
「あっごめーん、手が滑っちゃった♪」
「うむ、それなら仕方ないが……」
「次行こ、次!」
小鳥遊はカレンが意図的に消したことに気づいてないようだ。テーブルに置かれたマイクを手に取る翔子。
マイナーなロックバンドの曲が流れる。
激しめの曲ではあるが、外すことなく歌いこなす翔子。悠斗達はタンバリンとマラカスをテーブルに置き、ロックに合わせ、リズムを取って身体を揺らす。
やがて歌い終わると、ポテトフライをまた摘み始めた。
「良い曲だなこれ」
「でしょ?バンドのリンク送っとくね」
そう言って、スマホをタップする。
「次は私の歌だね」
悠斗が曲を入れてなかった為、カレンの恋愛ソングが流れる。好きと愛してるが何回も歌詞に出てくる曲を熱心に歌うカレン。アイドルグループのセンター候補だっただけあって、その歌声は美しい。
「そろそろヤンキーソング歌わない?」
「歌わねぇよ!」
カレンが歌い終わり、マイクを手渡された悠斗は美奈に鋭くツッコミを入れた。そして、有名な男性ユニットのバラード曲が流れる。無難に歌い上げる悠斗。
「1周目終わりっと!それじゃあ2周目に行き……」
美奈がそう言いかけた時だった。部屋の扉が勢いよく開かれる。ドアの前に立っていたのは息を切らしたりっちゃんだ。
走って来たのだろう、額から汗を流しながら呼吸を整えている。
「ぜぇ……ぜぇ……約束通り早く来ましたよ!」
「りっちゃん!?」
「ふふっ、本気出せばこんなもんです!先生結構やるでしょ?ゲホゲホッ」
肩で息をしながら部屋へと入るりっちゃん。そんな汗だくでカラオケをやりたいか?と思わずには居られないほどの必死さである。
そして、一息つくと曲を入れ始めた。
「先生が高校生の時からずっと、十八番にしてる曲です!」
りっちゃんが立ち上がったのと同時に曲が流れる。テレビの懐かしソング特集でよく流れている有名な曲だ。
当時の女子高生達を虜にしたほど流行ったらしいが、悠斗達の世代にはあまり馴染みがないアーティストである。そんな懐メロを気持ち良さそうに歌い上げるりっちゃん。
「ふぅ……歌い切りました」
マイクを置き、大満足といった笑顔を浮かべている。
「この歌手、今じゃ見かけないよね」
「もう活動休止してるんじゃ無かったか?」
「良かったんじゃない?……知らない曲だけど」
「僕も知らないな。有名なのか?」
「サビだけ知ってる!ママがよく口ずさんでた」
生徒達の感想を聞き、血の気が引くりっちゃん。
「ジェネレーションギャップ!!」
「あはは、それじゃあ2周目いっきまーす」
美奈が再度、アップテンポなアイドルの曲を歌い始める。りっちゃんとカレンが加わったので、先ほどよりも賑やかな合いの手が入る。
そして、あっという間に時間は流れ、21時半まで歌い続けた6人だった。
***
「あ~、楽しかった!」
カラオケを出た美奈が背伸びをしながら、満足そうな表情を浮かべる。
「歌い足りないところもあるが、人数が人数だ。これで良しとしよう」
「もっと曲のレパートリー増やしたいね」
「先生、これからは流行りの曲も沢山聴くことにします!」
街中の繁華街の一画で和気あいあいと話しながら歩いている。
「じゃあ、こっちだから」
街中に住む翔子はそう言って別れる。日は沈み、空は暗く染まっている。この付近は飲み屋が多い為、喧騒で賑わっていた。
「僕もこっちだな」
「あ、小鳥遊君一緒の方向ですね」
小鳥遊とりっちゃんが駅とは反対方向へと歩いていく。そして、悠斗と美奈とカレンが残った。
「柊もバス?」
「ああ、そうだな」
「カレンはタクシーよね?」
「うん」
「じゃあ、タクシー探してあげるよ」
美奈は繁華街を抜けるように歩き出す。この先は中心街の公園に続くシンボルロードだ。何台かタクシーが停まっているだろう。
「あ、帰る前に公園に寄りたいな。もうすぐ噴水のイルミネーションの時間だよね?」
カレンはふと思い出したそんな提案をしてくる。
「あ〜……ウチは先に帰るね」
「じゃあ、ゆうちゃん行こ」
「良いけどさ」
露骨に気を遣った美奈は手を振りながら離れていく。そして、悠斗達は中心街の公園へと向かうのだった。




