50話 二学期が始まり…
夏休みも終わり一週間。二学期が始まり、今日も昼休みを知らせる午後の鐘が鳴る。
「地形確認!陣地よし!戦闘糧食を展開せよ!」
美奈の一声で素早く机の配置を整える女子達。
「こばと~!早く来い~!」
教室の最前列に座る小鳥遊に大きく手を振る。見慣れたいつもの光景。
だが、小鳥遊は思い出しかのようにメガネをクイっと上げて立ち上がった。
「いいか佐々木、もう一度説明するぞ」
おもむろな口調で黒板に向かう小鳥遊。
「鷹がいないと小鳥が遊ぶで、たかなし!小鳩でも小島でもないぞ!さぁ、復唱しろ!」
ダンダン!と黒板を叩き、メガネをキラリと光らせる。
「仕方ないなぁもう……こばと!こばと!こばと!」
美奈はやれやれと肩をすくめると、からかうように小鳥遊を指差した。その姿が火に油を注いだのだろう。小鳥遊のこめかみがヒクヒクと動くのがわかる。
「間違いを連呼するな!黒板の字を読め!」
「細かいことは気にしなーい!」
「細かくない!」
「皆さんもご一緒に!せーの……こばと~!」
美奈はクラスメイトを扇動し、小鳥遊の神経を逆撫でしていく。そのやり合いに悠斗は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「仲間を増やすな~~~~!!」
小鳥遊の悲痛な叫びが教室に木霊する。そんな変わらない日常に悠斗は心を和ませるのだった。
「はいはい、茶番はそこまで。休憩時間が勿体ないって。早く食べましょ」
美奈の隣に座る女子が手をパンパンと叩いて諫める。
「早く来いってさ、こばと」
「小鳥遊だ!まったく……佐々木のせいで他のクラスのヤツにまで『こばと』と呼ばれてるんだぞ。どうしてくれるんだ」
「良かったじゃん!」
「良くない!」
小鳥遊は黒板の文字を消し、ぶつくさと文句を言いながら、構築された陣地に座る。
「……小学生みたい」
「……だな」
呆れている翔子に賛同する悠斗。それぞれいつもの席に座り、弁当を広げる。
「おかず交換ターイム!」
先程までの事が嘘のように美奈は元気良く手を挙げた。そんな輪の中に遅れて加わるカレンとりっちゃん。
これも見慣れた光景となっていた。
「ゆうちゃんの唐揚げゲット♪」
「おいっ」
「……りっちゃんの卵焼き貰うね」
「どうぞどうぞー」
カレンは悠斗の唐揚げを美味しそうに頬張り、翔子はりっちゃんの卵焼きを口に放り込む。
「美奈は夏休み何してたのー?」
「ん~、バイト三昧だったよ?夏祭りの手伝いとかね」
「ほんとバイト戦士よねぇ」
「まぁね。おかげで足腰が鍛えられたぜ!」
「あはは、そうみたいだね」
「あ、今日はオフなんだよね。一緒にカラオケ行ける人~?」
美奈は元気よく手を挙げるが、女子達は苦笑いを浮べて首を横に振る。
「部活忙しいんだよね……」
「私も家の手伝いが……」
「そっか。じゃあやっぱ……」
悠斗達に視線を送る美奈。
「うむ。僕は参加出来るぞ」
「私は補講終わってからなら行けるよ」
「……悠斗のおごりね」
「……別に良いけどよ」
必然的にいつものメンバーが揃う。
「先生も行きたいでーす!」
そして、りっちゃんも手を挙げた。
「りっちゃん、仕事ないの?」
「今日は定時で終わるんですよー」
「この前みたいに撤収する頃に来ちゃダメだよ?」
「もちろんです!今日はもっと早く行けますよー!」
りっちゃんは嬉しそうに小さな胸を張る。
「じゃあ、放課後に集合ね!」
美奈の一声で放課後の予定が決まったのであった。




