47話 夏の終わり
リビングのカーテンが静かに揺れている。重い空気を払うように開け放たれた窓からは、夏の終わりを告げる風が吹き込み、悠斗の前髪を揺らしていた。
そんな夏休み最終日。彼女の消えた部屋で、今日も思い出に浸っている。
——ゆうちゃん
あれから一週間しか経っていないが、その声はもう遠い記憶のように感じた。あの胸の痛みも、記憶の海にまた沈んでしまうのだろうか。
「はは、もっと優しくしてやれば良かったな……」
悠自嘲気味に笑うとスマホの写真フォルダを開いた。そこには美奈から送ってもらったあいりの写真が何枚も保存されている。それを見ながら、その笑顔を懐かしんだ。
「……探しに行くか」
この部屋にあいりが帰ってくる事はもうないのだろう。悠斗は立ち上がり、Tシャツとジーンズに着替える。そして、部屋を出た。
夏の日差しはまだまだ強い。スマホをポケットに入れ、ゆっくりと歩く。向かう先は城下公園。
彼女との思い出の場所の一つだ。期待と不安が心を揺する。そして、バス停に向かう途中、コンビニが目に入る。
——あっ、ゆうちゃんの好きなやつだ!
窓ガラスに貼られたポスターはもうない。あの時と同じように悠斗の横にあいりの姿が映る事はない。
そんな現実を確認しつつ、バスに乗った。
やがて、バスは城下公園前の停留所で止まる。ゆっくりとバスを降りた悠斗は、公園に向かって歩き出した。
緑が生い茂る木々。運動場は家族連れで賑わっている。
「あの時は夕方だったな」
ベンチに座り空を見上げる。まだ陽は高い。
——この思い出は忘れないでね?
「……忘れてないさ」
悠斗はそう呟くと立ち上がった。そして、公園を後にすると長い道を歩き出す。この先にはあの神社があるのだ。
幼い頃、あいりや花蓮と歩いた道。懐かしみながら、神社を目指す。やがて境内の入口が見えてくる。赤鳥居とは反対側にあるその入口に足を進めると、百段階段が視界に入ってきた。
——とうちゃーく!ゆうちゃん、早く早く!
頂上であいりが手を振っている。悠斗はそんな思い出に苦笑いを浮かべると、階段を上り始めた。一段一段、踏みしめる。そして、百段目。
そこに彼女の姿はない。
「はは、何やってんだろうな」
わかっていた。
わかっていたんだ。
ただそれでも彼女の幻に期待した。悠斗はベンチに座ると、静かに目を瞑る。
弱い自分に諦めをつけさせたかっただけだ。あいりはもういない。……いや、最初からいなかったのだ。
「だけどさ、こんな終わり方はないだろ」
悠斗はあの時と同じように、自分の影をただ見つめ続けるのだった。




