表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/53

28話 夏休み前日

 夏の日差しが容赦なく降り注ぐ14時30分。

 午後はホームルームだけという事もあり、いつもより早い下校となった悠斗は国道沿いのファミレスに訪れていた。


 目の前にはスマホを横向きにし、羅神に熱中する翔子。二人は冷房の効いた店内で、ドリンクバーで注いだコーラを片手にゲームをしていた。


「よしクリア」

「休憩しようぜ」

「いいよ」


 フライドポテトを摘みながら翔子は攻略サイトを眺める。


「夏休みって感じだよな」

「そう?」

「いつもならこの時間、授業だろ?」

「確かにね」


 窓際に視線を移せば、足早に家路につく生徒達が目に入る。部活動に励む生徒達は、汗水垂らして青春を謳歌している頃だろう。


 それに比べて、悠斗達は冷房の効いた店内でジュースを片手にゲーム三昧である。周囲を見れば男女のカップルが、同じようにドリンクを片手に談笑していた。


……デートみたいだな


「……」

「……何?食べるの?」


物欲しそうな視線と勘違いされたのか翔子は呆れ顔で、ポテトの皿を差し出してくる。

 悠斗は「ありがと」と言って、ポテトを摘もうとするが、


「もしかして、デートみたいとか思った?」

「なっ!?」


 図星を突かれた悠斗は思わず固まってしまう。


「バーカ、やっぱあげない」

「おい、なんでだよ?」

「そういうのがしたいなら、カレンとすれば?」


 そう言うと意地悪そうに笑う。


「……なんでそこでカレンが出てくるんだよ?」

「ああいう女の子っぽい方が、悠斗は好きだろ?」

「いや、別にそういう訳じゃ……」


 否定しようとするが、翔子はそれを遮る様に口を開く。


「私、ああいうのには成れないから」


 彼女は横を向きながら、フライドポテトを口に運んだ。ボーイッシュな翔子と女の子らしいカレン。髪型から仕草まで対照的な二人だ。


「いや、おまえがカレンみたいになっても、なんか気持ち悪い」

「は?喧嘩売ってる?」

「いやいや……」


 翔子は不貞腐れた様にコーラをストローで吸い込む。


「覚えてろよ、馬鹿悠斗……」


 そして、不穏な事を呟きながらポテトを摘んでいた。


「……はは」


 なんだかわからないが余計な事を言わない方が良いと判断した悠斗は、メニューのタブレットに視線を逸らした。


「あ、パフェ頼んで。季節限定のやつ」

「ああ、これか」


 真夏のパフェフェアと書かれたポップには、桃やマンゴーやメロンなど旬の果物を使ったパフェが紹介されている。悠斗はそれとチキンナゲットを注文した。


「悠斗、明日は何すんの?」

「なんも。翔は?」

「朝からゲーセン。悠斗も来る?」

「暇だから行くかなぁ」


 そう答えると、翔子は嬉しそうに微笑んだ。


 ……この笑顔は反則だろ

 

 その笑顔に思わずドキッとするが、それを悟られないように視線をスマホに移す。

 やがて注文した品が運ばれてくると、夕暮れまで二人でだらだらと羅神をしたのだった。


***


「ただいま」

「おかえり〜」


 玄関のドアを開けると、リビングからあいりが小走りでやって来た。


「遅かったね?ゆうちゃん」

「明日から夏休みだから、ちょっとな」


 そう答えると靴を脱ぎリビングに向かう。あいりは当たり前のように隣を歩いていた。


「夏休みおめでとー!パチパチパチ!」

「これで夜更かしし放題だ」


 冷蔵庫からコーラを取り出すと、ソファで寛ぐ。


「ダメだよ、ゆうちゃん。規則正しい生活しなきゃ」

「ったく、母ちゃんかよ……」

「違うもん!ゆうちゃんが心配なだけだもん!」


 あいりはぷくっと頰を膨らませて、悠斗の横にちょこんと座った。


「夜更かしは、じりつしんけいの乱れの元だって」

「……どこで覚えたんだ?そんな難しい言葉」

「えへへ」


 嬉しそうに微笑むと、悠斗の腕に抱きつく。


「朝日を浴びなきゃね?一緒に朝のお散歩しようよ」

「……勘弁してくれ」


 何が悲しくて夏休みに早起きしなきゃいけないのか。だが、あいりはそんな事など気にも止めていない。

 むしろ、その表情はどこか嬉しそうだった。


「いつもよりずっと一緒にいられるね」

「あ、ああ」


 まるで新婚生活を始めた夫婦のように、頰を赤らめながら腕に顔を埋める。


「おでかけもしよ?」

「どこに行きたいんだ?」

「うーんとね、映画館に水族館に動物園に……」

「……人混みに揉まれそうだな」


 あいりの挙げた候補に溜息交じりに呟いた。だが、彼女は気にする素振りも見せずに嬉しそうに続ける。


「でもね、ゆうちゃんとこうしてるのが一番好き」

「そっか」


 悠斗は頭を優しく撫でてやる。すると、気持ち良さそうに目を細めた。その仕草は猫のようで愛らしく、思わず笑みが溢れる。


 いつからだろうか。あいりがいる生活が当たり前になったのは。

 いつかからだろうか。孤独を感じなくなくなったのは。


 今では友人も増えた。これまでとは別世界のように、悠斗の周りは賑やかになったのだ。


「……悪くないな」


 今までと違う夏を過ごせそうだと思う悠斗であった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ