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23話 不協和音

 今日も瞬く間に午前が終わり、昼食を知らせる鐘が鳴る。悠斗達はいつものように机をくっ付けながら、弁当箱を広げていた。


「……私も良いかな?」


 そこに現れたのは如月カレンだ。現役のモデル、それも一学年下の下級生が教室内に入って来たのだが、見慣れた光景なのか、誰も気に留める様子もない。


「しょうがないなぁ、ほらよ」


 演技がかった素振りで、美奈は隣に一つ席を追加すると、椅子をポンポンと叩く。


「……誰あれ?」

「如月花蓮、美奈の親友でモデルしてる子」

「ふぅ〜ん」


 翔子は隣の女子に説明を受けると、興味なさげにスマホで検索を始めた。


「私、今日はここが良いな」


 そんなカレンは悠斗の右隣の席の前に立つと、先に座っている小鳥遊に向かって、


「ねぇ?ちょっと、どいてくれる?」


 と、冷たい言葉を投げかけた。


「ん?別に構わんが……」


 だが、小鳥遊は気にする様子もなく美奈の横へと移動する。その様子を見た教室内の男子達が、ざわついた。


「ねぇ、美奈どういう事?」

「幼馴染らしいよ、それだけじゃなさそうだけど……」


 小声で耳打ちする女子に、美奈は苦笑いをしながら答える。


「ゆうちゃん、あーん」

「お、おい……」


 悠斗のコンビニ弁当から、唐揚げをひょいとつまみ上げ、カレンは口元へと運ぶ。そのやり取りに、教室内が更にざわついた。


「カレンちゃんって、男嫌いだったよね?」

「いじめられてたから、そのはずだったんだけどねぇ……」


 二人の様子を横目で見ながら、美奈は疑問を口にした。


「自分で食うからいいって」

「ゆうちゃんってば、照れ屋さんなんだから」


 カレンは、悠斗の言葉を無視して唐揚げを口へと運ぶ。


……こいつ、人の話を聞いちゃいねぇ。


 悠斗は呆れながらも、仕方なくその唐揚げを頬張った。


「……うざ」


 それを見た翔子から放たれる嫌悪の言葉。明らかに機嫌が悪く、足を揺らしながら、おにぎりを口へと運んでいる。


「カレン空気読んで?そんなキャラじゃなかったよね?」


 翔子の遠慮ない言葉に当てられたのか、美奈が珍しく低いトーンでたしなめる。


「……ごめんなさい。でも、やっと会えたの。応援して欲しいな」

「応援?」

「あ、ほら、幼馴染だから昔みたいに仲良くなりたいなって」


 美奈の疑問に、カレンは慌てて取り繕う。


「幼馴染の応援か……尚更できるわけないじゃん」

「……みーちゃん?」


 今まで見せた事がないような悲しみの表情を浮かべる美奈に、カレンは戸惑いを見せる。悠斗達も普段と違う美奈の様子に顔を見合わせた。


「ごめん、あたしちょっと頭冷やしてくる」


 美奈は弁当を持って立ち上がると、教室の外へと歩き出す。そして、カレンに向かって振り向くと明らかな作り笑いを浮かべ、


「あたしが応援する必要ないっしょ?顔面最強のモデル様じゃん」

「みーちゃん!」


 カレンは呼び止めようと手を伸ばしたが、既に教室から姿を消していた。その空気に悠斗は居たたまれない気持ちになり、視線を泳がせる。


「……外で食べるわ」


 視線の先の翔子は、おにぎりを持って教室から出て行ってしまった。


「ふむ。新規ヒロイン登場により、桜井ルートが消滅してしまったか……」


 空気を読まない小鳥遊は、一人納得するように弁当を食べている。気まずい空気の中、悠斗も黙って箸を進めるしかなかった。

 さすがのカレンも反省しているのか、悠斗にちょっかいを出す様子は見られない。


……静かだ。


 ムードメーカーの美奈がいないと、こんなにも会話がないのかと困惑を隠せない。


「ゴホン。では私が美奈の代理で言いますね……おかず交換ターイム!」


 沈黙に堪えかねた女子の一人が、気まずい空気から脱するように口を開く。だが、その重い空気を変えるには至らず、昼休みは終わるのだった。



 

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