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入校式

 今をさかのぼること一年前。

 全国から将来の幹部候補生がやってくる自衛隊富士高等学校にて。

 彬は全国から選抜された約二百名の生徒とともに、学校の敷地内の大講堂で行われる入校式に出席していた。


(なんで僕が……)


 自分は決して優秀ではない、ごく平凡な高校生であることを彬は誰より自覚していた。

 しかし選ばれた以上、よほどのことがない限りこの学校への入学を拒否することはできない。

 なぜなら、ここは高校とはいえ軍隊だから。

 未成年ゆえ罰則はないものの、入学を辞退すればそれはすなわち兵役拒否と同じであり、今後の進路や人生に大きく影響するに違いないのだ。


 彬は周囲のエリート然とした同期生たちを見て、早くも気おくれを感じ始めた時――

 白い制服をきりりと着こなした美しい自衛官、北条ユリ一尉が颯爽と現れ、壇上に上がった。

 生徒たちは全員、パッと起立し、彬も慌てて立ち上がる。

 ユリは生徒たちを一通り見まわしてから、よく通る凛とした声で言った。


「みなさん、まずは入校おめでとう」


 ユリは一瞬薄い笑みを浮かべ、続けた。


「と、言うべきでしょうか――?」


 疑問符付きのユリのセリフを聞き、ざわつく生徒たち。

 だがユリはかまわず話を続けた。


「知っての通り、現在世界各地では大きな紛争が幾つも起き、国際情勢は非常に緊迫しています。長らく平和だった我が国もその例外ではなく、ロシアと中国という二つの大国を隣国との関係を考慮すると、安全保障的にも非常に不利な立場に置かれているのと言ってよいでしょう。アメリカとの安保条約が解消されたいま、いつ他国の侵略を受けてもおかしくはありません」


 ユリはそこで一息入れ、壇上から鋭い視線で生徒たちを見た。


「つまり国民一人一人が国防意識を持ち皆兵(かいへい)となって敵と戦う覚悟をしないと、この国に未来はないと断言できます。これもまた周知の事実ですが、すでに五年前から高等教育課程において各種軍事教練が必修化されています。――さて、その中でもみなさんは、全国三十万人の高等学校の学生の中からこの自衛隊富士高等学校第五三期生として特別に選抜されたわけですが、エリート意識を持つなどという勘違いは厳禁です」


 ユリの言葉を神妙な面持ちで聞き入る生徒たち。

 しかし彬は違和感しかない。


「すなわち、あなた方を始めとする若者三十万人は能力に差こそあれ、すべて国民のため、ひいては国のために己を犠牲にして奉仕するという理念を実践することにはなんらに変わりはないのですから。分かりますね?」


 ユリはおごそかな口調で続ける。


「とはいえ、みなさんは何の理由もなくここに呼ばれたわけではもちろんありません。本学では一般の軍事教練とはまったく異なるプログラムが用意されているのです。すなわち――」


 と、ユリは壇上の奥に設置された巨大なモニターの方を向いた。


「このD50――二足歩行型機甲兵器ディバニオンにパイロット候補生として搭乗してもらいます!」


 ユリの言葉と同時に、モニターに灰色のロボット――ディバニオンの全形が大きく映し出された。

 講堂内が一瞬、静まり返る。


 そしてそれが、地獄の日々の始まりだったのだ。


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