結果と過程
月明かりのさす無機質な部屋に1つの人影があった。
「 人生において『結果と過程』……どっちが大事だと思う?」
そう笑いながら語りかけてくるのは、真っ白な髪に、継ぎ目のない純白の服に身を包んだ、名も知らぬ全てが白い少女だった。
俺はその質問に、怒りに満ちた声で返す。
「ははっ…お前……喧嘩売ってんのか?」
「ここが何処だと思ってんだ?」
人には誰しも触れてはいけない部分がある。
地雷と言うやつだ。
俺にとって…と言うよりはここにいる人間全員に取ってそうだろう。
ここはとある閉鎖病棟・・・
U.K病棟と言われ、山奥にあるとされる世の中から隔離された病院の一室。
最も病院とは名ばかりで、理由は様々だがここに送られてくる人間に未来は無い。
ただ死を待つだけの施設。
当然そんな施設が整備される訳もなくボロボロの施設。
そしてこの場所に残る人間は俺だけだ。
と言ってもここに来てからこいつが来るまで、人を見ていない気もする。
「あはは…それもそうだね。」
「ここにいるという事は、全てを諦めたから…だろうからね。」
「でも…だからこそ気になるのは当然だとは思わない?」
無邪気な笑顔を浮かべる彼女…
無神経な言い様に腹が立ってしまう。
「知らんな…俺は出来もしない事を考える程暇じゃない。」
「お前もさっさと自室に帰れ。」
その言葉を聞いて、少女の顔が軽蔑の色に変わる。
「そうやって諦めたからじゃない?」
「逃げて、諦めて、嘆いて…」
顔が熱くなる。
頭に血が上っていく。
「うるさい……」
その少女を睨む。
でも返ってきたのは全てを見透かしたような目。
「そうやって聞きたくない事から耳を背けて何も……」
ガタッ…!
ベットが揺れる。
「もう…黙れよ…」
気がつけば俺はその少女の胸ぐらを掴んでいた。
それに留まらず掴んだ拳が震える。
「お前に何が分かる…お前に……!」
「何も知らない奴が口出すんじゃねぇよ!」
彼女は見下したまま答える。
「知ってるよ…全部。」
「君自身ですら知らない事もね。」
思わず動きが止まり力が抜けてしまう。
動揺、疑問、懐疑……
様々な感情が駆け巡る。
「どう言う…事だ……」
「お前は…俺の過去を知っているのか?」
俺は自分自身の事を何も知らない。
記憶喪失と言うやつだ。
ここに来る前の記憶が抜け落ちていて、何をしていたのか、何故ここに来ることになったのかどころか、親の顔や自分の名前すら覚えていない。
「…過去どころか君の全部を知ってる。」
「でも…知りたく無いんでしょう?」
「そのまま何も知らずに死んでいけばいい。」
少女は挑発するように話す。
相変わらず冷たく見下した様な視線だけが返ってくる。
(こいつの言っている事は本当か?
もし本当ならどうして俺の事を知っている?
知り合い?
ならどうしてこのタイミングで?)
色々な疑問が頭に思い浮かぶが決定的な答えは見つからない。
「……」
「どうすれば教えてくれる…?」
出てきたのは祈る様な一言だった。
その言葉を聞いた彼女に優しい笑顔が浮かぶ。
「そうだね……」
「最初の質問…結果と過程どちらが重要か教えてくれたらまずは名前を教えてあげる。」
結果と過程か……
それなら俺の中で答えは決まっている。
でもその前に…
「それが本当だと言う根拠は?」
「俺は俺にすら、その答えが合っているか分からない。」
「お前はどうやってそれを証明する?」
「それなら心配しなくてもいい。」
「今すぐ説明するのは難しいけど必ず証明すると約束しよう。」
彼女の目は真剣だった。
嘘をついている様には見えない。
「ハァ…分かった……」
「お前を信じよう。」
「『結果と過程』で重要なのは…」
「結果だ!」
彼女は意外そうに、満足そうに微笑む。
「うんうん…それでその理由は?」
「結果がダメであればその過程に意味は無い。」
「他の奴なら『過程は次の経験に活かせる』とかほざくだろう。」
大きく息を吸ってその考えを口にする。
「じゃあ、もしも次が無ければ?」
「次があるのは、『どうしようも無い失敗』をした事が無いやつだけだ。」
「そして『どうしよう無い失敗』をしたやつは等しく表に出てこない。」
「人生に2回目はあるか?」
「命は2つあるか?」
「答えはNOだ!」
彼女は何も言わず優しい目で見つめながら、うんうんと頷いている。
「結局…過程と答えるヤツは失敗し切っていない、次がある奴だけだ。」
「だから重要なのは結果だ。」
「なるほど。」
「一理あるね。」
「何も間違っていないと思う。」
「フンッ…」
「満足した答えは聞けたか?」
「満足?」
「それは違うよ。」
「この質問に答えは存在しない。」
「強いて言うなら、君の答えが…君の見える世界での答えだ。」
彼女は力強く答える。
「それで…俺の名前は何だ?」
「教えてくれるんだろう?」
まくし立てる様に質問する。
「あぁ心配せずともそのつもりだよ。」
「…少し…目を閉じてくれる?」
「…分かった。」
渋々目を閉じる。
「……ッ?!」
ヒンヤリとした感触が頭に伝わり、1つの単語が頭の中に思い浮かんでくる。
『柊 澪』
それに呼応して、とあるシーンが想起される。
目の前に玄関があった。
ガチャ…
勢い良く扉を開ける。
『ただいまぁ!』
自然に挨拶をして靴を脱ぎ捨てる。
『レイ…おかえり。』
『先に手ぇ洗って来なさーい。』
部屋に入ると見知らぬ女の人がたっていて…
そこでシーンが途切れた。
「ハァハァ……何だ…これ?」
気がつけば震える両手が目の前にあった。
冷や汗が滴り落ちる。
「思い出した?」
「『柊 澪』?」
そこにはニヤリと笑う黒い瞳の…少女の顔があった。
物語の進行について
主人公のこれが知りたいと言う物があれば気軽にコメントください