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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

絶望の淵に座り込む

作者: 今宮僕

 私の記憶にある一番古い失敗はレモンとメロンを言い分けられない事だった。


 それは保育園にいた頃、レモンとメロンのどちらも知らなくて保育士の先生、他の園児達全員に嘲笑された。


 それからなし崩し的に今日に至るまで私は周囲から無下に扱っても良い存在となった。


 じゆう時間は喧嘩ごっこのやられ役、お食事の時間は嫌いな食べ物とのにらめっこ、お昼寝の時間に自分がいずれ死んで骨になるどうでも良い存在だと自覚し泣いた。


 小学校に上がってもいじめは続いた。

 私は物覚えが悪く、運動能力も低く、喋り方も聞き取りにくく回りくどく、衛生観念が低かった。


 児童、教師、保護者達は皆私の事をあからさまに嫌悪した。


 しかし、私にはその嫌悪感を感じ取る鋭敏さに欠如していた。


 周囲の皆と同じように振る舞おうとするがうまくいかない。


 毎日がつまらなかった。


 中学に上がり私はクラスで完全に孤立した。


 勉強や部活、体育や合唱、応援練習、委員会活動等どれも興味がなくどの分野においても劣等感を抱き、実際に一番劣っていた。


 毎日のように暴言を浴びせられ、休み時間には人気のない場所に呼び出され集団暴行を受けた。


 それでも私は学校に通い続けて公立高校に進学した。


 私の家庭は貧しかった。公立高校に通うのがやっとだった。


 高校でも当然のごとくいじめを受けた。それでも私は耐えた。

 暗い物語や音楽が好きだった。私に寄り添ってくれる気がした。


 気怠く怠慢な高校生活は呆気なく終わった。


 なんの思い出もない。


 私はコミュニケーション能力と社会性が著しく欠如しており就職も大学進学もできずなし崩し的に専門学校に進学した。


 そこである男と出会った。


 男の名は田畑。


 古着と音楽と文学と映画と酒と大麻、そしてセックスが何よりも好きな下卑た男。


 私と同じような趣味嗜好だった。


 田畑と私は学校をよくサボタージュして木造ボロアパートで夕方頃に起き繁華街を飲み歩いた。


 私は遊ぶ金を稼ぐためコンビニでアルバイトをした。


 田畑は何もしていなかった。


 たまに親や周囲の人間に金を無心するくらいだった。


 私と田畑は悦楽と放蕩三昧の日々を過ごしていたためすぐ専門学校を中退した。


 学生の身分がなくなった途端に奨学金の返済と国民健康保険と年金やクレジットカードの支払い等諸々の請求が来た。


 全て親に肩代わりしてもらった。


 祖父母の遺産があったからだ。


「あんた、将来なりたいものとかやりたい事とかないの?」


 母が私を問いただした。


「楽して幸せに生きていきたい。好きな人に愛を捧げたい」


「じゃあ頑張らなきゃだめよ」


「たしかに」


 しかし私はどこにも就職できなかった。


 田畑周辺のゴタつきに巻き込まれて逮捕された。


 警察には何も話さなかった。


 結局、不起訴で終わり刑務所に入る事なく拘置所から釈放された。


 部屋中がゴミ屋敷になり、行政の人に精神科の受診を勧められて何個かの病名を疑われたくさんの精神薬が処方された。


 市販薬、処方薬、違法薬物、酒、タバコ。


 それらの乱用、自傷行為に過食嘔吐。


 鬱屈とした倦怠感を常に抱えながら惰性の日々を過ごし続ける。


 希望の見えない明日。終わりの見えない絶望。


 田畑が親の金で車を買った。


 首都高をひたすら周回し、深夜のファミレスでひたすら駄弁りながら夜を明かした。


「田畑は将来何になりたいの?」


「大金持ちかな。一生遊んで暮らせるくらいの」


「じゃあ頑張らなきゃね」


「なんだかんだ親が遺産を遺してくれそうだから頑張んなくても叶いそう」


「そうなんだ」


「お前はこの先どうするの?」


「うーん死のうかな」


「なんだかんだ死なないじゃん」


「だから辛いのよ」


「本当にお前はどうしようもねぇな」


「うるせぇよ。人生なんてどうでもいいじゃん」


「分かる〜」


「いぇい」


「家、帰るか」


「うん」


 帰ってから、私達は何度も観た二人のお気に入りの映画を垂れ流しながら寝た。


 このまま目覚めませんように。


 明日、世界が滅びますように。

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