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2.帝国武術大会 中編

「ロミア様。どうやら本選の試合が予定より早く進んでおり、間も無く決勝戦が始まるようです」

「ええっ、もうですか!?」


 予選大会では他の観客に混ざって応援していた私は、お昼休憩の最中にある事を思い付いた。

 無事に本選に進出したレオールさんや、他の騎士さん達。

 それにエキシビジョンマッチに出るというジュリウス陛下の為に、温室で育ったレモンを使ったドリンクを用意しようと決めたのだ。

 

 いくら帝国が年中寒い冬幻郷だとしても、運動をすれば汗をかく。

 おまけに疲れた時には甘い物が欲しくなるので、男性でもさっぱり飲みやすいハニーレモンを作る事にした。

 本選が始まる頃には厨房も落ち着いていたので、ちょっと場所をお借りしていたのだけれど……。


「陛下に魔道具で会場の様子を伺ったのですが、決勝戦にはレオール様が無事に進まれたそうです」

「やだぁ、決勝までには余裕で間に合うはずだったのに……!」


 これじゃあ後でレオールさんに謝らないといけなくなる!

 でも、丁度ハニーレモンの下準備は終わった所だし……。


「後片付けは陛下の試合が終わってからするんで、会場に戻りましょう! 今ならレオールさんの試合もギリギリ間に合うかもしれないですし!」

「それでは、厨房から訓練場までの最短ルートでお連れ致します。……ロミア様、少々無礼かもしれませんが、どうかお許しを」

「へっ……!?」


 そう言うと、フェルさんはいきなり私を横抱きにした。


「最速で向かいますので、舌を噛まないようお気を付けを。わたくしにしっかりと掴まって下さいませ」

「えっ、ええっ!? まさかこれで行くんですか!?」

「ええ、本気です」


 そうして私が戸惑うのも構わずに走り出したものだから、大慌てでフェルさんの身体にしがみつく。

 自分で走るよりも遥かに速い。

 ひょっとしたら、この人の前世は馬か何かだったりする? と疑いながらも、そんな疑問を口に出そうものなら、確実に舌を噛むので沈黙する。

 

 もうじき訓練場の扉が見えてくるという所で、フェルさんが私を降ろしてくれた。

 すると、そのタイミングで会場の方から割れんばかりの歓声が上がる。


「……おや、もう決着がついてしまったのでしょうか?」

「いくら何でも、終わるの早すぎませんか!?」


 急いで扉を潜ってみると、どうやら本当に決勝戦が終わったばかりだったようで……。


「勝ったのは……?」


 中央に目を向けると、人混みの中から苦虫を噛み潰したような顔のレオールさんが現れた。

 彼はどうやら負傷してしまったのか、他の騎士さんに肩を借りながら歩いている。

 すると、医務室に向かうところだったらしいレオールさんは、出入り口付近に立っていた私達に気が付いた。


「……よぉ、お嬢さん。結果はご覧の有り様だ。たった一発……あのデカブツの大剣に叩き付けられただけで、まともに身体が動かねえと来たもんだ」

「そ、そんな一撃で……?」


 確か、レオールさんは去年も決勝戦まで勝ち上がっていたと聞いた。

 今年も最後は彼と、前年度のチャンピオンがぶつかるのではないかと言われていたけれど……。


「……レオール様ほどの騎士が、たった一年でそこまでの大差で敗れるのは不自然ですね。今年も決勝にはワール殿が勝ち上がったのでしょう?」

「ああ……。アイツは去年も力押しの戦い方をしてきたが、今年のヤツは“何か”がおかしい」

「“何か”って……?」


 私の問いに、レオールさんが真剣な表情で小さく呟くように言う。


「確証があるワケじゃねえが……あのオッサン、本選が始まってから、何か様子が妙なんだよ」

「ドーピング関連の魔法薬の類は持ち込みが禁止されているはずですから、それ以外の要因でワール殿に何らかの変化があったのでしょうか」


 静かに考え込むフェルさん。

 その言葉に何かを思い出したのか、レオールさんに肩を貸している騎士さんが、ハッとした様子で口を開く。


「そういえばあの人、本選が始まってからは別の大剣を使い始めてました!」

「ああ、そういやアイツ控え室で何か言ってたな。『鍛冶屋にメンテさせてた大剣がようやく届いた』とか何とかって……」

「強いて言えば、それぐらいの事しか思い当たらないんですが……」


 大剣……か。

 使い慣れた武器が届いたお陰で、本選からは本来の実力を発揮出来るようになったのだろうか。


「でもよ、それだけであんな目ぇギラつかせて大暴れするモンなのかねえ? ドラゴン殺しのワールも、これまでに屠ってきた竜にとうとう呪われでもしちまったんじゃねえだろうな」


 そうして彼らは医務室へと向かい、私とフェルさんは陛下の応援の為に貴賓席へ。

 事前にフェルさんに仕込まれた淑女らしい微笑を貼り付けて、私は最前列で陛下の活躍を待つのだった。

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