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9.私のやりたい事

 ええと……今、ジュリウス陛下は「俺と結婚してくれないか」って言ってた?

 

 わ、私が……?

 この特に何の取り柄もない……いや、一応聖属性の魔力持ちではありはするけど。

 ほぼほぼ平民育ちの凡人の私が、陛下と……結婚?


 あまりにも現実味の無い、そしてあまりにも急な、とんでもないサプライズすぎるプロポーズ。

 ていうか、そもそも交際0日で皇帝からのプロポーズって、前例があるんでしょうか……!?


 だってプロポーズされるだなんて生まれて初めての事だし、これで冷静でいろという方がおかしい。

 更に言うなら、いきなりこんな今後の人生に直結するプロポーズをぶちかましてくる陛下もちょっとおかしいと思うんですがね……!


「……返事は、その、今した方が良いですか?」

「で、出来ればで構わない。……本来なら、もっと状況を整えてから話すべき内容だったと反省はしている」


 そう返したジュリウス陛下の頬は、ほんのりと赤く。

 急にこんなプロポーズをされてしまった私も、いくら生活改善と魔術師団への所属が目的とはいえ、こんな綺麗な人に真剣に求婚されたら照れてしまうのは仕方がない。


「……それに、国籍の問題だけではない。君が何らかの形で聖属性持ちだと世の中に知られれば、その力を利用しようと画策する勢力も現れるだろう。虫除けの意味でも、皇帝という立場は大いに役立つはずだ」 


 ……確かに彼の言う通りだ。

 私がこれからやろうとしていた事は、きっと世の中を変えるビジネスになる。

 その過程で私の魔力の情報が悪意ある他者に伝わった場合、私を聖女として保護しようと強硬手段に出て来る場合も考えられる。

 ……相手によっては、邪魔だからと消される可能性だってゼロじゃない。


「……それなら確かに、魔術師団で魔法を勉強しながら働く方が遥かに安全ですね」


 拉致監禁からの殺人事件も、拉致監禁からの聖女様生活も絶対嫌だもんね!


「とはいえ、ずっと君を宮殿の敷地内に閉じ込めておくつもりはない。警護は必須になるが、レオールがしてくれたように、息抜きに帝都を見て回るのも可能だ。予定を立てれば、もっと遠くへ出掛ける事も出来るようになる」

「お話は理解しました。でも……国籍の為に私なんかと結婚してしまっても良いんですか?」

「……“なんか”じゃない。俺は……」

「え……?」


 私が聞き返すと、彼は「いや、気にするな」と首を振る。

 

「……最悪、婚約だけで構わない。帝国人と婚約関係にあれば、最大で一年間の在留資格が得られる。それでも機密保持の為に、研究内容等の口外禁止の魔法契約を結ぶ必要があるがな」

「婚約関係……。それでも最長で一年間、ですか……」


 声が届く手鏡や、高純度の判定石……そして飛空艇。

 王国には無い様々な魔道具が開発されてきた帝国でなら、今までの人生よりももっと質の高い経験が得られるはずだ。

 

 私の持つ聖属性の魔力であれば、高品質の魔法薬を作る事も可能となる。

 それに、私が作りたい“あの商品”も。

 

 それらを安定供給出来る方法を模索して、販売経路を確保すれば、帝国に滞在出来るタイムリミットである一年間だけでもかなりの金額を稼ぐ事が出来るかもしれない。


 ……それが上手くいけば、ジュリウス陛下に出来るだけ迷惑を掛けずに済むかもしれない。

 結婚なら難しいだろうけれど、婚約関係なら破棄するだけで関係は解消される。

 流石に形だけとはいえ、陛下の未来のお妃様になんてなれる自信が無いもの。


「……どうする、ロミア?」


 ──これからの一年間で、彼に迷惑を掛けるのは終わりにする。


「……そうですね。陛下がそれで納得して下さるのでしたら、是非婚約をお願いしたいです」





 *


 

 その日の内に、私達は婚約を交わした。

 そう。ジュリウス陛下と一年間という期限付きで、新たな生活が始まったのだ。


 私に与えられた部屋からは、丁度窓の向こうにある陛下の部屋が見える。


「陛下にだって、相手を選ぶ自由があるはずなのにな……」

 

 陛下の部屋の窓から見える部屋の明かりを眺めながら、思わずそんな本音を呟いてしまう。

 すると、部屋で紅茶を淹れてくれていたフェルさんがこう言った。


「……陛下にはこれまで、数々の縁談が舞い込んでおりました。貴族のご令嬢はもちろん、他国の王女との婚約の話があがった事もございましたね」

「それならやっぱり、陛下は私よりも相応しい女性と婚約するべきだったんじゃ……?」


 けれどもフェルさんは、私の前にティーカップを差し出しながら言う。


「ですが陛下は、どのような立場の女性との縁談であっても全て断っておられます。ただの一つも例外は無く、一対一での茶会の誘いにすらも応じておられません」

「……そうなんですか?」

「ええ。ですがそんな陛下が、ロミア様との婚約にだけは応じられた。その意味……あなた様はお分かりですか?」


 彼女が淹れてくれた紅茶は、ほんのりと赤みを帯びた透き通る茶色。

 それが注がれたカップを持った私は、その中身を覗き込む。

 水面に反射した自身の不安げな顔を見て、フェルさんの放った言葉の意味を考えた。


「それは……私が陛下にとって……






 


 昔からの大切なお友達だから……ですよね?」


 そう言って私が顔を上げると、フェルさんは無言で笑みを浮かべるばかりだった。

 ……えっ、私、何か間違った事言っちゃった!?

 何で何も言わずに微笑んでるの!? 怖いんですが!

 理由の分からない美女の笑顔、怖い!!


「え、ええと……。そ、そうだフェルさん! 私、明日ゲラートさんに提出しなくちゃいけない書類があるんですけど、紙が足りなくなっちゃったので持って来てもらう事って出来ますか!?」

「かしこまりました。すぐにご用意致しますので、少々お待ち下さい」


 怖すぎて彼女を追い出すような形になってしまったけれど、紙が無いのは事実だったので、心の平穏を取り戻す時間を作らせてもらった。

 けれどもそれからすぐに部屋に戻って来たのは……フェルさんではなく、侍女見習いのエリザだった。


「お待たせしました、ロミア様! ご所望のペンとインク壺、それから便箋をお持ちしましたー!」

「あれ、エリザが持って来てくれたんだね。フェルさんは一緒じゃなかったの?」

「何だか師匠は急用を思い出したとかで、あたしにロミア様のお世話を引き継ぐようにと言って、どこかに行っちゃいましたよ?」


 急にエリザがやって来て驚いたけれど、フェルさんは何かといつも忙しそうにしているみたいだもんね……。

 私や伯爵家の事だってフェルさんが色々と調査をしていたそうだし、普通のメイドさんではやらないような重要な仕事も任されているようだから、そんな事もあるのだろう。

 ひとまず私はエリザが持って来てくれた品を借りて、これから必要になるであろう昔のツテを頼りに、手紙を書く事にした。

 

「……これでよし、と。それじゃあエリザ、この手紙をシルリス王国のルーシア商会で働いている、エベルっていう人に届けてもらえるように手配してもらえるかな?」

「はいっ、お安い御用ですっ!」


 それにしても、フェルさんの急用って何だったんだろう?

 もう夜だし、遅い時間なのに……。

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