1・それは、小麦袋を落とされたような
ベシッ!…………ベシッ!……ベシッ!…………ドスッ!
聴いてすぐに擬音化してしまう耳はお年寄りの耳よりも若く聞こえた。
それは、そうか。
ワシは転生したのだからな。
荒々しく落とされた小麦袋同士を積み重ねる時と同音ともいえる振動と音の波長の高さの振動が耳飾りのように耳に沿う。
大人の持ち上げた腕の高さより倍の高さはある位置。
落とされた身体は、一度、二度、三度と数回跳ねる。
ベッドに落下させられて横たわるように収まる。
落下した先は、黒い布張りのベッド。
横幅は80㎝にも満たないシングルベッドだとおもわれるスペース。
コンクリートで造られたベッドの方がまだ柔らかいのではと思う堅めの感触だ。
数分前に産声をあげたてのはずの我が身のツキの周りはあまり良さそうではなさそうだ。
ピンチはチャンス!
ピンチとなる絶対絶命の時ほど、チャンスのターニングポイントができる。
それを、そうそう実行できるものは少ない。
我が身のコトながらよく対応できたと思う。
大人一人横たわるのにも狭さを感じる柵無しのサイズのベッド。
落とされたからには加護次第では跳ねた拍子に床落ち待ったなしコースもあり得ただろ。
落下の気配に、慌てて加護を発動して助かった。
産まれ落ちた瞬間に、命の灯火は消すことになったかと考えるだけでも恐ろしい。
(まったく、運がいいのか、悪いのか)
ここは日本ではないらしい。
生まれたての自身の目は、まだ開ききっておらず、乱視目のようなぼんやりと輪郭だけがかろうじてわかる。
今いる場所、自身を囲っている人の人数、せめて大まかにわかれば。
音による把握は、限度がある。
経験していない音は、区別がつかない。
(二個目の加護を使うか)
神様はいくつもの加護を与えてくれた。
努力のみで生き抜くつもりで、遠慮しつつも授かった念のための加護。
貴重な加護を生まれたてから酷使するとはおもわなかった。
神様が押し売りのように押しつけるのも理由があったのだろう。
加護を発動すると、グネリと世界が歪むような感覚を受け、声がきちんと言語として聞こえてくる。
孫の読んでいた本の世界では、言語チートモノが流行るわけだ。
すごくわかりやすいシステムだ。
非常に助かる。
理解がはかどる。
言語問題は大切だ。
まずは神様に二つのお礼が言えそうだ。
冷静さのかけらも、親切心も身受けら得ない荒々しさの落下音した理由
と、その現況をつくりだした自分を見下ろすオトナ達の会話。
自分の孫ならば、その扱いに怒りを感じるか、混乱にするに違いない乱雑ぶりだ。
とにもかくも扱いがひどいのではないか!
『神も仏も金次第!』
現世も、死後の世界も、お金は大切だろう。
前世の自分のいた世界では一般的な考えで間違いないだろう。
親から道徳的な一環としてその思想と金銭の価値を教わりつつも、当時の自分はお金よりも名誉よりも趣味に走った。
幼少期見た硝子工房の赤くなっていた鉄球の先が、徐々に膨らみ、透明の造形品に変化していく様に憧れたからだ。
自分は、ガラス細工ならなんでも造った。
透明度の高い強化硝子も、美しい切り子細工の硝子も、色付き硝子も、ワシの手にかかれば最高峰のができあがった。
今時機械で造るような建築素材から伝統工芸品の美術品まで!
ストイックなガラス職人と噂されるは嘘ではない。
毎日毎日コツコツと依頼された作品を作り続けたことの評価の一つだ。
義務教育を卒業後、弟子入りして、早60年。
気づいたときには、国から名誉賞を与えられガラス細工職人として、伝統工芸品の職人に認められていた。
ダイヤモンドのような頑固者の意味で、甥っ子につけられた【ぎやまん】の字。
今は本名よりも自分をその名で呼ぶモノが多い。
ガラス細工職人として60年は年季が入りすぎだ。
自分はガラス細工なら、なんでもつくれたかわりに、常に孤独だった。
気づいたときには、周りに同期はいなくなっていた。
ストイックなガラス職人、ぎやまんとして、毎日毎日コツコツと依頼された作品を作り続けた。
名誉を得れば得るほど、一人仕事が孤独仕事になった。
かと言って、後悔などはしてはいない。
自分が亡くなったのは、仕事時の不慮の事故だと神様は教えてくれた。
自分にはガラス職人を隠居後に第二の人生として叶えたい夢があった。
神様がいるのならば、自分の願いを叶えてほしい!
神様に夢を願った。
願い事を叶えるために加護をいただく。
自分は、○○をしてみたかった。
○○を叶えるための第二の人生。
なのに、このスタートはいささか悲惨ではないか?
不幸はコレが上限値になるといいのですが……果たして…
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