神様のお気に入り
ーー
いつものように朝の礼拝をしているときだった。
「やっほー、やっほー」
何か聞き覚えのある声が聞こえる。
「おーい、聞こえてるでしょ」
「なんですか、おチビ様」
「おチビ様って!ひどい!もっと敬ってよ、僕神様なのに!」
敬ってはいる。だから『お』と『様』をつけた。
そういえば周りに人がいない。
「もー、失礼だな君は、僕の力で君を異空間に連れてきたんだ」
「じゃあ院内は俺が急に居なくなったって騒ぎになってるんじゃないか?」
「それはだいじょーぶ、君の身代わりを置いてきたから、ほら」
神様が空中にできた水溜まりを覗き込むよう言う。中を見ると俺が礼拝を行っている姿が見えた。
「本当だ」
「どう?すごいでしょ」と言わんばかりのドヤ顔をされた。
「あの、なんで俺の転生先が同じ場所なんですか」
「面白そうだなって」
じとっとした目で見つめる。
「だって!反逆者として大罪人の汚名を着せられた人間がくじ引きで大当たりを引いたから、同じ世界に転生させたら何か面白いことが起きそうだなって思ったんだもん!」
面白い...?ふざけているのか。
「俺が復讐でもしたら良いなとか思ってたんですか?」
思ったよりも低い声が出た。
「うん」
少し怯えたようにこちらを見る。悪気は全くなさそうだ。
はぁ...。これでは怒る気も失せる。見た目は可愛い子供だし。
「生憎ですが、復讐なんてものは微塵も考えておりません」
「えーーー!!」
「残念でした」
「なんでよ!あんなに信じていた人に裏切られて、拷問までされたんだよ?逃げられないように両足まで切られて...」
「さらに、魔法使いだからってことで舌も腕も切られましたね」
「そうだよ!憎くないの?今なら復讐できるんだよ?」
確かに、あのときは働き手をくれた王子様に感謝こそすれ信頼はしていない。
「憎くないと言ったら嘘になりますけど、騙される方が悪いとも言いますから」
「そうなの...?」
「はい」
「分かったよ、君の人生だし好きに生きていいよ」
「ありがとうございます」
「またね!」
戻ったようだ。
またねってことはいつかもっかい来る気だな...。