3年後
ーー
とある街。
あれから3年が経った。
俺はSランク冒険者になった。なぜならドラゴンを1人で倒してしまったからだ。
俺は前世の記憶があったし、以前より強くなっていたから簡単な戦いではなかったけど倒せるのは必然だった。
傷だらけで帰るとライに泣いて怒られたのを覚えている。
そのおかげで莫大な報酬と数少ないSランク冒険者になり、国王でもそう易々と手を出せない地位を確立することが出来た。これでいざと言うときにライを国から守ることが出来る。その代わり有名になってしまったが外出時は仮面を付けるようにしたため素顔はバレていない。
そしてライは火、水、風、土の魔法は完璧に使いこなせるようになった。特に得意なのは攻撃に特化した火魔法だった。さらにまだ安定はしていないが複合魔法と無属性魔法もできるようになった。
あれだけ才能があるライのことだ、俺と同じで光魔法と闇魔法も使えるかも知れない。
そしてもう1つ、今日はライの9歳の誕生日。
「だったんだけど…」
ここ数ヶ月、ライはあまり会話をしてくれなくなった。無視はしないけれど「………うん」の一言だけ帰ってくるのがほとんどだ。他に喋るとすれば「俺のことはほっといていいから」と言われる。
そうそう、一人称も気づいたら『俺』になっていた。
それは置いといて、今日は誕生日だからと街でケーキを買ってきたら「いらない、食べていいよ」と言われてしまった。
街の人が言うにはそれは順調に成長している証拠で、気持ちを尊重してあげることが大切だと言われた。
そしてライの気持ちを尊重した結果、もうすぐ暗くなるというのにライが帰ってこない。
探しに行くべきか、帰ってくるまで待つか…。
「どうしたものかなぁ…」
ライは強いし、一応保護魔法をかけてあるからな。発動したら行くことにしよう。
何時間たったのだろう、もう夜中だ。
「遅い」
いくらなんでも遅すぎる。
「さすがに探しに行くか...」
ガチャ...
そう呟いていたら扉が開いた。
ライが忍びやかに扉を閉めている。俺がもう寝たと思っているのだろう。
「おかえり、帰るのが遅いよ」
「!!」
驚いたように固まっている。それもそのはず、真っ暗な部屋の中から突然声がしたんだ、普通は驚く。
「何かあったらどうするんだ」
つい口調強めに言ってしまったが9歳の子供がこんな遅くまで外をほっつき歩くのは如何なものか。
「ライはまだ子供なんだ、こんな遅くまで外に出るのは危ないよ」
「...子供じゃない」
「え」
子供だろう、どっからどう見ても。
「魔法だって前より使えるようになったし強くなった」
「確かにそうだけど、まだライは俺に守られる立場だよ、一応俺は保護者だからね」
「...」
「門限を決めようか、日が落ちる前までに帰ること、いいね?」
「...」
「ライ、返事くらいしなさ___」
「っ子供扱いしないで!」
バンッ
扉を開けて出ていってしまった。追いかけたが、すぐに移動魔法を使ってどこかに行ったようだ。
首飾りを使いながら移動したのか...。これでは痕跡を辿れない。
急に不安が押し寄せてくる。
「落ち着け」
移動魔法は訪れたことのある場所にしか使えない...。と言っても多すぎる。もし逃げるなら森か...?それか街に紛れ込むという手もあるな。
...いや、ドンピシャで見つける必要もないか。索敵魔法の範囲を広げればいい。
ライにかけた保護魔法の発動から位置を割り出して行くという手もあるけど、もし発動した場所が俺の行ったことがないところであればすぐに助けに行くことが出来ない。
索敵魔法を発動する。そして魔力を薄く伸ばして広げる。
直径1kmほど広げたがなかなか見つからない。
ちょっと情報量の多さできついけどまぁ大丈夫か。
さらに広げる。
「あ」
ぽたりと水が垂れた。赤い。
鼻血だ。
このぐらいはなんてことない。
「いた」
見つけたが、正確な位置が分からない。
分かったことはここからかなり離れていることと、おそらく街にはいないということ。
索敵魔法はあくまで魔力を感知するものだからその場の景色などは全く分からない。生き物ならば魔法が使えなくとも少量の魔力を帯びている。だがライの周りには魔力を感知しなかった。
地図を広げる。
ライのいるところより前に街がいくつかあったな、それと近くに村...
「となると、...この辺りだな」
そういえば、あの辺りにゴブリンの巣があったな、懐かしい。
あとは移動魔法を使ってから索敵魔法で探すか。
何か気に触ることでもしてしまったのだろうか...。