ミシェルの苦悩
ーー
「は〜い、またいらっしゃい」
宿泊客を見送ったあと従業員に部屋の手入れをしてもらう。
ジリリリリ……ジリリ、ガチャ
「ミシェルさん!すみませんけど部屋1つ空いてますか?」
「ちょうど今空いたところよ〜」
「じゃああのキープお願いします!今、冒険者になったばかりの方が宿を探してまして!」
「それは別に良いけど、なんで私のとこなの?ギルドの近くなら他にもたくさん宿屋はあるわよ?」
「…そうなんですけど、その、他のお店だとちょっと危ないと思うんですよね」
「あぁ、美少女なのね?」
「…尋常じゃないくらいの美青年なんですよ、見た目だけ見れば確かに美少女ですし」
「あ〜、そういう子って冒険者に狙われやすいのよね、冒険者って男多いから同じ男ってことで美青年に容赦ないし」
「一応フード被ってはいるんですけど何人かには見られたみたいで、今もチラチラ見てるんですよ」
「おっけい、任せなさい」
「あと!子供を連れてます!その子もフード被ってはいるけどチラッと見えたときに美形だったので!」
「分かったわ」
電話を切って数分後、その子はやってきた。
「あらぁ、さっき言ってた子かしら?」
なるほど、赤く長い髪黄緑の瞳、子供の方は黒髪に…寝てるから瞳の色は分からないわね。電話で言っていた通りとんでもない美形ね。
「えっ...と」
「アタシはミシェルよ、子供を連れたポニーテールの美青年...うん、アナタのことね、うさぎちゃんに空いてる宿屋はないか聞いたでしょう?」
「はい」
その後はここに宿泊するように促した。案の定泊まってくれるみたいで鍵を渡した。
あんな子、今まで有名になってない方が珍しいわ。にしてもあれほどの美形、そして珍しい赤毛。フードを被っていても目立つでしょう。
何より!本人が全く自覚していないことが危ないわね。この先大丈夫かしら…。
しばらくしてその青年が2階から降りてきた。
あら、今度は起きてるのね……って金色の瞳?!王族でしか聞いたことないわよ?!さらに王族でも数人しかいないと言われているわ。この子達、目立つ要素ありまくりじゃない…!
心配なので信用できる店を教えてあげた。ちなみにアタシの名前も。実は元冒険者でここら辺ではそこそこ有名なのよ?とりあえずこれで悪さをされる心配はない。
「おい!ミシェル!何ださっきの子連れの美人は!知り合いか?」
ドア側に座っていた男が話しかけてきた。
「そうよ、だから手を出したら許さないわよ」
「お近づきになるくらいなら…」
「だめ、話しかけようものなら腕をおるわよ、他のヤツらもね、アナタたちのことよ」
部屋の隅でヒソヒソしているヤツらに向かって言う。
「怖ぇよ、『剛鉄のマイケル』に言われちゃ手ぇ出せねぇな…」
「そのだっさい名前は捨てたわ、それで呼ぶのやめて」
冒険者をしているときに敵の攻撃からチームを守るために身体を張った。矢が降っても毒をかけられてもチームを守り通したが故に『剛鉄のマイケル』なんて異名がつけられた。
私は可愛くて美しいものが好きなのよ、剛鉄なんてまったく可愛くないわ。
ため息をついて男は席に戻っていく。
冒険者はどんだけ女に飢えてるのかしら…。油断ならないわ。せめて宿にいる間は守ってあげないと。