エスカレーター迎撃戦
トンネルの内壁という、代わり映えのしない景色を眺めがら上へと昇っていた。彼女はまだこの状況に混乱している御様子。男女二人だと聞くとイチャイチャシーンに突入!と考える人もいるだろう。が、見て下さい。これが現実なのだ。
さて、これはどういう状況なのだろう? 既に何かが起こることは間違いない。何かの試練なのか? 前振りもなし、エデンルームも経由していない・・・引っかかる。はじめの助けは無いと見た方がいいのか? バックルームとかいう異空間みたいなところなのか?
「あ~、このようなことになった原因に心当たりは無いですか?」
「あたしはただ散歩してただけなの。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
永遠の沈黙が続くかに思えたのだが、何か聞こえてきた。
うめき声?
振り返ると、大量のゾンビらしき人型生物がエスカレーター下方から迫ってきていた。
「雑なホラー映画じゃねーか! ホラー見たことないけど。」
彼女は顔面蒼白。
急いでエスカレーターを駆け上がり、距離をとる。大和田も懸命に逃げて・・・・? 足遅い方だったか。胸が邪魔そうだな。
ところで、エスカレーターは人が動く想定で製作されている訳ではない。走るなどもってのほかだ。案の定、階段の角に足が引っかかり、盛大にやってしまった。
「___痛っったっ!」
脛が青くなっている。大和田はすぐには立ち上がれないだろう。エスカレーターがどこまで続いているか分からない以上、彼女をおぶって行くのは愚策になる可能性がある。仕方ない。やれることは一つ、迎撃だ。
幸い、武器ははじめから貰った二振りの刀がある。普段から持ち歩けないので、はじめに頼んでおいた。彼は財布にストラップ風の指紋認証機械を取り付けてくれた。本人確認ができると刀が腰に出現する仕掛けだ。
普通に攻撃してくるが、一方向からしかゾンビは来ていないので、何とか捌けてはいる。
・・・段々と疲れてきた。まずいな。階段の上から下の敵を攻撃するのは比較的簡単だ。だが、手すりが邪魔で横方向に刀を振ることもできないし、自分の足元を守らなくてはいけない。刀とエスカレーターは相性が悪いのだ。ボーリングのようにゾンビを落としても、すぐ迫ってくる。彼女は、足をなるべく使わないようにして一段一段上を目指している。
厳しいという表情を浮かべていると、大和田は
「あたしお荷物だよね? 見捨てていっていいわよ。あなた一人でも生きて。」
といってきた。
あの皇女の時と同じ轍を踏む訳にはいかない。荒い息の中「却下だ」と言うので精いっぱいだ。
沢山の傷を負いながらもバーサーカーのように戦った。気付くと、エスカレーターの終点に辿り着いていた。そこは長方形の部屋。床がつるつるだ。真正面には光・・・いや、見知った交差点が見える。人がいる!
彼女を担ぐほどの力が腕に湧いてこない。どうすれば二人で移動できる?・・・転がるしかない。
彼女は全力で転がってみせる。だが努力虚しく、行く手を塞ぐかのようにゾンビが降ってきた。あっという間に挟み撃ち。詰んだ。
これだけ抗ったのに、こんな理不尽な最後は嫌だと心から思った。