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消えてしまった「北斗星」

 2014年ごろでしょうか、多くの人々から惜しまれつつも定期運行を終えた寝台列車があります。その名を「北斗星」といいます。


 「北斗星」は札幌ー上野間を17時間くらいかけて走っていた、北海道に初登場した寝台特急です。「北斗星」には食堂車やシャワー室がついたロビーカーなど魅力的な設備が多くあり、鉄道ファンのみならず多くの人を虜にした列車でした。


 僕が「北斗星」を知ったのは幼稚園の年長組の頃だったかと思います。当時はまだVHSが存在していた時代で、「北斗星」の紹介映像のVHSを見てすぐに「北斗星」を気に入りました。「いつか乗ってみたい」と子供ながらに思っていましたが、東京に行く用事もなく、園児の時に乗ることはありませんでした。


 そうして「北斗星」に乗るのを夢見て6,7年が経過したある日、「関東旅行に行こう」と両親が突然提案しました。おそらく子供に一つでも多く思い出を作ろうという考えからだと思います。僕はもちろん賛成しました。なぜなら「北斗星」に乗車できる可能性があったからです。当時の僕は絶対に「北斗星」に乗車したいと思っていました。なので関東に行く交通手段を決める話し合いでは「北斗星」を提案しました。一方両親は鉄道ではなく、交通手段は飛行機が良いと言いました。移動時間も短いし、料金も安いという理由です。ただ僕は「北斗星」を主張しました。「乗りたい、乗りたい、乗りたい…」。子供の必殺技、「わがまま」です。こんな感じで周りの反対も聞かず、ずっと一点張りでした。最終的には強行採決で僕の案を可決にさせました。こうして僕は「北斗星」に乗車するチャンスを無理やりつかんだのです。


 とうとう念願の「北斗星」に乗車する日がきました。いざ「北斗星」を眼前にすると、いつも見ている通勤電車とは格が違って見えました。全身青色の車両、輝かしいエンブレム、どこを見てもかっこいいと思いました。ただずっと外観を見ていると肝心の乗車を忘れてしまうので、さっさと乗車することにしました。何分か経って北斗星のドアが閉まり楽しい旅が始まりました。

 

 僕は始発の札幌駅から乗ったので、「北斗星」を全区間楽しむことができました。札幌から函館までの区間ではまだ日が出ているということもあり、北海道の景色を隅々までゆったりと楽しむことができました。時間をかけて景色を眺めることができるのが寝台特急のよいところです。またワゴンでの車内販売も旅の醍醐味の1つです。僕は親に限定のヘッドマークや電気機関車の模型を買ってもらいました。今となっては良い思い出です。


 さてそんな感じで楽しんでいると、あたりはすっかり暗くなり函館に到着しました。函館駅では客車を引っ張る機関車を交換するため少し停車します。その後進行方向を変え、青函トンネルへと向かいました。そのころもう深夜に近づいていたこともあり、青函トンネルに入る前に僕以外の全員は寝てしまいました。起きていたのは僕だけでした。青函トンネル内を示すライトを見てみたかったのです。「北斗星」が青函トンネルに入り、ベッドで横になりながら外を眺めていると、車内からライトを見ることができました。「今自分は青函トンネルの中にいるんだ」と子供ながらに感動していました。青函トンネルは海の下にあるので、海の下にいるという不思議な体験をしたのが感動の理由だと思っています。感動しているうちに、すっかり「北斗星」好き少年は眠ってしまいました。


 気づいて目を覚ますとすっかり朝になり、「北斗星」は郡山あたりを走っていました。ベッドに横になりながらずっと鉄道車内にいたこともなかったため、なんだか不思議な感じがしました。起きて時間がたってくると腹が減ってきたので、かねてからの希望であった食堂車で朝食をとりました。車内で朝食をとるというのもなかなかリッチな気分が味わえてよいものでした。


 そうして2時間くらいが経過して、無事に「北斗星」は上野に到着しました。17時間かけての長旅は自分としてはとても楽しいものでした。

 

 2022年現在、日本を走る寝台列車はごくごく限られたものとなりました。僕が生まれたころは数多くの寝台列車が存在しましたが、現代の高速化の流れもあり、多くの寝台列車は消えて行ってしまいました。「北斗星」もまた消えて行ってしまったのです。ただ「北斗星」が消えてしまったとしても自分の中にある「北斗星」の楽しい思い出、これだけは残っています。この楽しい思い出を胸に、現在、日々たとえつらいことがあったとしても乗り越えていきたいと、そう切に願う日々です。

 

 


 

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