隠し事しない
やさしい。
先輩はやさしい。
女性だから、惚れそうだ。
おっとりしている。
癒しがある。
真面目すぎるくらいだ。
何事にも、一生懸命。
隠し事も、していないだろう。
イライラしている姿は、一度も見たことがない。
文句を言わず、世話してくれる。
本当に、優しい先輩だ。
「ごはん、食べてる?」
「だいたいが、カップ麺です」
「野菜も食べてよ」
「面倒なので」
「よし。じゃあ、私が作りに行ってあげる」
先輩が、料理を作ってくれることになった。
食材を買ってきてくれた。
先輩が、強く短い息を吐き、後ろ手に結んだ蝶々結びは、縦型になっていた。
しばらく待った。
テレビを見ていた。
テレビに映る藤の花が、キレイだった。
「焦がした」
そう、キッチンの方から声がした。
駆けつけると、ハンバーグのような形のものが、フライパンにあった。
それは、限りなく黒に近い、茶色だった。
失敗した先輩は、ペロッと舌を出した。
その舌の奥の方に、ベロピアスが覗く。
一気に、首筋に寒気が走った。