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第34話 事件解決のあとには後悔だけが残りました

 どうせ聞く耳を持ってくれないだろうなと思ったが、吾輩は親愛なる魔王様の忠実なる下僕しもべなのだ。反論すべきだろう。


「……魔王様を見くびり過ぎているよ、お前は。あの方は本当に頭が良いから、将来のこともちゃんと考えているに決まっている」


「その言い草。貴様、何を知っている」


「確信はない。だが、そうに決まっている。魔王様は最高なのだ」


「何故そう思える? 陛下のお考えを知っているのか?」


「魔王様が最高であることに理由はいらないが……、直近で具体的に言うならば、吾輩にこの事件を任せたからだな。確かに、吾輩以外に適任はいない」


 血を飲むのを嫌がったせいで少々--少々だとも--遠回りしたが、結局は真犯人を追い詰めている。『吸血鬼連続殺人事件』を知ってからまだ2日も経っていない。スピード解決そのものではないか。


「つまり吾輩は有能で、有能な吾輩に解決を任せた魔王様は最高。そういうことだ」


「ハハッ! さっぱりわからない!! 貴様の言うことは理解不能だ!!!」


 彼は笑った。ふむ、何故笑うのだろうか。

 真面目に言っているのだぞ。

 あの留学王女を倒せる存在がこの魔界にどれだけいると思っている。


「君こそ理解不能だ。魔王様を裏切る気持ちがわからぬ。部下が滅んで喜ぶわけがない。ただ、魔王様のために一生懸命働けばよかったのだ」


「思考を放棄した犬だ、貴様は」


 人の感情に疎い吾輩でも悪口だと分かった。

 まあいいさ、彼はこれから死ぬのだ。


「……確かに犬歯は長いがね。犬に近いのは君の方ではないか?」


 そして吾輩達は笑った。吸血鬼と人狼の殺し合いが起きた時、似たような会話が繰り広げられているのではないかと、ふたりとも思ったのだった。


 短い笑いと短い静寂の後、彼はぽつりと言う。

 

「完全な夜になった」


「……そろそろ、日付が変わる頃だろうな」


「夜が更けると人狼は強くなる。そして今宵は『満月の日』の前日だ。理性はなくさない。今の私が、一番強い」


「つまり」


 彼は吠える。高く、重く、遠く。

 耳が破れそうな程の轟音。


 そして家庭教師は外套を脱ぎ捨てる。

 彼は人狼形態へと姿を変えていた。牙が口からはみ出ている。手の爪は禍々しく巨大だった。見覚えのある姿。


 だが、彼の黄色い目は、長身の吾輩よりも遥か上にあった。

 王立大学での戦闘よりひと回り身体が大きい。


 彼は吾輩めがけて突進する。

 足元の板材が弾け飛んだ。

 大きく開いた口に並ぶ白い牙が迫って――


「覚悟は十分、そういうことだな?」


 吾輩は小指を立てて爪を伸ばす。

 その先には人狼の胸、心臓、そして背中と潮風。

 彼は何も出来なかった。


「ただ……、陛下のためを思って……」


 留学王女を手駒にし、魔王軍の要たる吸血鬼官僚・吸血軍人を滅ぼし尽くす寸前にまで手をかけた人狼は、最期にそう言い残して息絶えた。


 吸血鬼を滅ぼしたいという私情が大分入った計画だったように思えたが……。


 とは言わなかった。死に際の言葉がそれなのだから、茶々を入れられようはずもない。裏切った理屈は全然理解できなかったが、本心からの言葉だと思えた。


 後味が悪いにも程があった。

 何が魔王様のため、だ。


「いやはや……」


 魔王様の役に立ちたいなら、吸血鬼への復讐など忘れるべきだった。君は、大学で政治学を極める傍ら教え子たちを導いていればよかった。


 吾輩のように、為すべきことを為していればよかった。



 『最強卿』とも『最狂卿』とも呼ばれる吾輩が為したこと。


 出会った全員に嫌がられたり、場を引っ掻き回したり、言いたくもない嫌味を思わず口にしてしまったり、気分のままに暴れまわったり、最後には自分より遥かに弱い男を殺したり……


 ふむ。



 今のは忘れてくれ、迷惑な家庭教師よ。

 吾輩は、血を飲んでいてもいなくても、他人とうまくコミュニケーションが出来ないのだ。よく思い知らされた。


 まぁ、なんだ。


 今回起きた一連の出来事について、吾輩なりの結論を出すとすれば。


「やはり、血を飲むべきではなかったな」


 ということになる。


 馬鹿でいるほうがましだ。

 少なくとも殺しをしないで済むし、陽気でもいられる。

 それ以上の何かを望むべきではなかった。


 全部忘れて眠りたい。吾輩はため息をついた。


 竜に変化して王都に帰るとしよう。が、出来なかった。膨れ上がった筈の魔力が尽きたらしい。毛むくじゃらの死体が抱える血を飲めばどうにでもなるが……。


 そんな気分にはなれない。

 しょうがない。泳いで帰ることにしよう。何時間かかるだろうか。

 魔王城に報告に上がる頃には絶対に朝になっているだろうな。憂鬱にも程がある。







「続きが気になるかも!」



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