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第32話 血まみれになりました

「……いいだろう。乗ってやるさ」


 騎士団長は顔をしかめて続けた。


「何でも聞け。だが、一言でも間違えてみろ。俺たちには後がない。何をするかわからんぞ?」


「……では早速。吾輩達が大学で大暴れしていた時、君たちがタイミングよく第三者の介入を妨害できた理由は――」


「当然、魔王城に部下を――」


「潜入させていて、吾輩と戦争大臣の少々荒っぽい交流の一部始終を見ていたということ。なぁ、そこの副官も魔王城に潜入していたのではないかな? 脛当てが歪んでいる。ああ、修理代の請求書は――」


「戦争大臣に出すから安心しろ。勘違いするな。取り立てやすいのが奴だと言うだけの話だ。あの不毛な喧嘩の責任はすべてあんたにある。何が少々だ。で、デュラハン首なし問題についてだが――」


「デュラハンは全員大男の甲冑サイズだから、小柄な隊員なら綺麗に入り込める。まんまと騙されたよ。嘘ばっかりだ。次席執事のことなど――」


「そうだ。まったく気にしていない。我々は陛下に忠誠を尽くすこと以外に興味はない。休暇命令は連隊全力を挙げて無視している。すべては陛下に裏切り者の首を捧げるため――」


「そんなに意気込んでいるのに、今君たちは郊外で無為に過ごしている。不思議だな。何故だろうか」


「俺たちは無為に過ごしているだけなのに、今あんたはここにいる。不思議だな。何故だ?」


「簡単なことだよ」


 茶番が好きだな、この男。吾輩はそう思いながら答えた。

 だが、嫌いではない。 


「何故なら、君たちが陛下の剣にして盾だからだ。『近衛の存在意義は魔王様に尽くすことにある』、そう言ったのは君ではなかったかな?」


「あんた、頭がよかったんだなぁ……」


「そうとも、吾輩は頭が良いのだ」


 たまにな。血を飲んだときだけな。

 そして騎士団長は酒盃に更に葡萄酒を注ぎ、一気に飲み干した。

 ぐはぁ、と臭い息を吐き出して、こう叫ぶ。


「お前ら剣をしまえ!!」


「よろしいのですか? あの吸血鬼、手を固く握りしめて戦意十分だったようですが……」


 副官が口を挟んだ。納得していない表情だ。

 安心してくれたまえ。固く握っていたのは緊張していたからだ。もし彼らとのお話に失敗して、近衛師団第2連隊大虐殺事件を起こしたら魔王様に怒られてしまうからな。既に王立大学でやらかしているのに……。


「吾輩の質問に答えてくれるということで、よろしいな?」


 もちろん、吾輩は大虐殺事件を起こしに来たわけではない。


 文字どおりの意味で、お話をしに来ただけだとも。近衛のみなさんが吸血鬼連続殺人事件に関与していたなどと、吾輩は思ってはいないのだ。


 魔王城に忍び込んでいたのだから、近衛の皆さんが事件の進展を把握することは容易かっただろう。だが、王立大学で吾輩の前に現れたのは彼らではなかった。戦争大臣を滅ぼしたいなら、あの瞬間に総員で仕掛けて来るべきだった。


 よって、彼らは無関係。


「馬鹿野郎、よろしいわけがあるかよ! しょうがねぇってだけさ!!」


「悪いね」


「悪いなどと思ってない癖に。くそっ、本当に腹の立つ男だ」


「吾輩は悪くない。最初から素直に話さない君たちが悪い」


「わかったわかった!! 売国奴の脱出ルートを教えてやる。我々は陸軍なのだ。命令違反中に他所の手を借りるわけにもいかん。もうどうにもならんのだ!! 貴様らも納得しろ!!」


 そして騎士団長は、家庭教師は海から逃げたに違いないと言ったのだった。陸の逃走ルートはすべて近衛で固めているから、他にはありえないと。海は広いし、だいぶ時間が経ったから、おおよその方角しか分からないが、と。


「大変だな」


「……問題なかろう。吸血鬼は流れる水を渡れないというのが通説だが、あんたはどうも常識外れようだから」


「面白い。吾輩は君を気に入ったよ」


「光栄です、と答えるべきなんだろうな。最強卿」


 吾輩は笑った。『大変』と言ったのは、騎士団長のことだ。彼は、隊員の暴発を避けるために一芝居打ってみせたのだ。


 すべては演技だった。自らの手で事件を解決すると意気込んでいた近衛師団第2連隊の皆さんに諦めさせるための演技。


 もう無理だと分かっていたのに、認められなかった部下たちのため。彼らは、自らが守護すべき魔王城で起きてしまった暗殺事件に怒り心頭で、更には事件から外されたことに怒髪天だった。


 そんな状況で、間抜け面を貼り付けた吾輩が事件をかっさらっていったら更に怒るだろう。これまで作り出されて来た言語すべてで表現できない程に。


 感情の機微に疎い吾輩でも、流石に分かる。


 で、騎士団長は気を回したのだ。

 部下が殺気立ったら率先して吾輩を挑発し、部下の暴発を思いとどまらせた。得体の知れない吸血鬼に反感を持つ部下たちを納得させるために、解説する時間を設けたのだった。


 そして最後には大人しく情報を渡した。

 誰も怪我をしなかった。


 吾輩の肌がすこしばかりつつかれて、服が血まみれになったくらいだ。


 実に演技がうまい。『仕事中は酒を飲まん』と言っていた癖に今飲んでいるのは、吾輩へのメッセージというわけだ。もう仕事中ではないというわけだ。


「ほら、飲んでけ。もうひと踏ん張り必要だろ?」


 そう言って騎士団長は小さな酒瓶を投げてよこした。あまりに乱暴だったので吾輩は取り落とし、宙を舞った。


 中身が吾輩に降り注ぐ。血だった。この匂いからするに、騎士団長のものらしい。本当に準備が良い。ますます好ましい。吾輩は頭の良い奴が好きだった。


 かくして吾輩は竜と化して海上を飛び、家庭教師が乗る船を見つけたのだった。

 血塗れになった経緯はこのようなものだ。

 近衛を皆殺しになどしていない。


 家庭教師は勘違いしているようだがね。

 まぁ、修正してやる義理はない。







「続きが気になるかも!」



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