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第26話 ふたりの吸血鬼は互いに強すぎるようでした

 爪を互いに振るう。

 それは滅びを招く一撃。

 細く脆く見えても、吸血鬼の爪は鋼より固い。


 そして、腕がしなり手首が翻される度、無数の蝙蝠が舞った。

 変化による回避だ。有効打は出ない。血の一滴すら溢れない。


 互いに吸血鬼の頂点と言って良いレベルだが、直撃を避ける必要があった。

 怪我は回復できるが、体力と魔力を消耗する。

 先に尽きた方が滅ぶ。


 十数回目の空振り、その末に――


「埒が飽きませんね」


 留学王女は静かに言った。


「どうするのだね?」


 壁に立っている少女を見上げ、尋ねる。

 彼女は壁を軽く蹴って言った。


血槍スピット


 刹那、足元が捲り上がった。

 血色の隆起が出現する。その数およそ30。

 囲うように、鋭い先端を突き立てんとする。


 留学王女の使った血槍は、吸血鬼の固有能力だ。

 槍の中身は空だ。大抵の生物にそれだけの血は流れていない。

 その力は、魔力を通わせた自らの血を操作した遠隔攻撃だった。

 紙よりも薄い血が槍を象るのだ。

 魔力によって鋼より固く、魔力によって剛弓から放たれる矢よりも速い。


「蝙蝠では避けられんからな」


 吾輩はただ立ったまま攻撃を受け--


 赤で染まった視界が、灰色となって崩れていく。


 固有能力には固有能力で対抗するのが楽だ。吾輩が使ったのは風化エイジ。皮膚に触れた物体を急速に劣化させる力だった。


「では吾輩も、大技を見せてあげよう」


 魔力を右腕に集中させる。留学王女に向けてゆっくりと押し出す。

 掌から、闇よりも暗い黒が雪崩のように現れた。


 滅びの腕(ラスト)


 吾輩の髪が吸い寄せられるように靡いた。


 この力は世界を吸い込む。

 跡には何も残らない。

 文字どおりの滅びをもたらす。

 あらゆる防御は通用しない。

 光すら吸い込む絶対の暗闇。


 こう表現して良いのなら、吾輩の最終奥義である。

 流石にこれは対処できまい。そう思った。

 夜の闇すら吸い込むような黒の奔流を前にして、銀髪の少女は――


「其は闇、其は罪。光を捨て、時を捨て、ただ己が為にある。罪深き者よ。理の反逆者よ」


 冷静に、朗々と呪文を唱えている。


「汝の名は吸血鬼。決して流れを渡れない」


 そして最終節。

 言い終わった瞬間、闇が砕け散った。

 はらんだ魔力が行き場を失って爆発する。


「対血魔法が使えるのか? ありえなくないか?」


 荒れ狂う暴風と奇妙なほど明るい光を浴びながら吾輩は感想を漏らした。

 少々間抜けな響きだったかもしれないが……。


 魔界全土の全吸血鬼が同意してくれるだろうな。


 対血魔法は、強大過ぎる吸血鬼に抗うために作り出されたものだ。吸血鬼の個性を強化因子とする魔法だった。例えば、棺桶で眠るとか、鏡に映らないとか――流れる水を渡れないとか。


 複雑な条件付により他の魔法ではありえないほどの効果を発揮するが……、吸血鬼にしか発動しない。文明の発展により吸血鬼の数が減りゆく現代においては無用の長物だった。


 今の魔法は、吸血鬼による攻撃を全て無効化するものだった。

 反則もいいところだ。


「私は吸血鬼を滅ぼすために来たのですよ。それなりの準備はしています」


 対血魔法を吸血鬼が収めているなど。

 滑稽ですらあった。

 だが、笑えはしない。吾輩は彼女の敵なのだ。


「閣下の力は常軌を逸しています。一生かかってもたどり着ける気がしませんが……」


「が、負ける気もしないと」


「そういうことです」


「ならば?」


分かりやすく(シンプル)でいきましょう」


 互いに視線を交わし、脚に魔力を流し、来るべき死闘に向けて飛び出そうした時――


 人狼が飛び込んできた。


 吸血鬼のそれとは違って、禍々しく力強い爪だった。闇の中に、その白が浮かび上がっている。言葉はなかった。その顔には憎しみだけがあった。


 覚悟に満ちた家庭教師を――


「君の爪は脅威だが、当たらなければな」


 拳を振るい、あっさりと吹き飛ばした。

 君の突進にはもう飽きた。同じことを何度もやられてもな。


 宙に舞っている間に好き勝手させていたのは――

 まあ、敵の実力を測るためと言ったところだな。

 決して、油断していたからではない。


 さておき。

 問題はこの少女だ。

 どうやって倒したものか。


 彼女に視線を戻す。巨竜がいた。彼女がいた棟を押し潰すように存在している。その口には白い炎が含まれている。


「助けにいかんのか?」


「彼は強いですから」


 彼女は炎を湛えたまま言った。

 竜の発声器官は炎袋とは別の経路にあるのだった。


 そうかな。

 そうかもしれないな。

 少なくとも、吾輩と戦って即死していない。







「続きが気になるかも!」



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