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第24話 問答と光がありました

「不思議そうに見える」


 半分に崩れた時計台を見上げると、困惑と恐怖がないまぜになった表情が貼り付けたふたりの敵がいた。


 まぁ、気分は分からないでもない。

 巨竜の炎息ブレスは恐ろしい攻撃だった。吾輩も一瞬「遂に滅ぶ日が来たか?」と思った程だ。


「ここで問題だ。炎に焼かれない唯一の存在とは何だろう」


「馬鹿な!!」


「ありえません……」


 んー、素晴らしい反応だ。

 完全に予想どおりという点と、創意工夫のない発言であるという点が特に。


「長い時を生きてきたつもりだったが……、吾輩も初めて知った」


 炎に焼かれないのは――


 そして吾輩は右腕だけを変化させる。


 ――炎だけだ。


 肘から先がゆらめいて、頬をちりちりと焼くような気がした。もっとも、肌にも服にも影響はない。なんといってもこの炎は吾輩自身なのだ。どうして傷つけられようか。


「どの文献にも……、生物以外への変化など……」


 家庭教師が思わずといった風に口にした。

 

 あり得ない。

 その筈だった。

 吾輩もそのつもりだった。

 だが、できた。それだけだ。

 流石は『最強卿』ということだ。


「為せば成るものだな。無機物に……、炎は無機物の範疇か? うむ、物ではなさそうだな。違うかも知れぬ」


「惚けてくれますね……、閣下」


「閣下と呼ぶのをやめてくれ。距離を感じるのだ」


「…………」


 黙ってしまった。

 何故だろうな。ああ、そうか。そうだった。


 吾輩たちは殺し合いをしているのだったな。

 かといって、そのまま続ける必要はない。


「さて、どうだろう。降伏しないか? 君らが殺されることに違いはないが、少なくとも吾輩の苦労は減る」


 親切そのものの申し出を、彼らは蹴るつもりのようだった。

 言い終わった瞬間――


 時計台が更に砕け散る。


 家庭教師が吾輩めがけて突進した、その反動だった。

 不意打ちを狙っているのだろう、少女の姿はどこにもない。影に潜ったらしい。


 ふむ。実にやる気に満ちている。神速で振りかぶられる人狼の爪をうんざりと眺めながら吾輩は思う。面倒なことこの上ないが、


「運動は素敵だ」


 止まった心臓が、再び動いているような気分になるからね。


 そして吾輩は、凶悪な爪を5本の指でしっかりと掴み、その勢いを利用してそのまま地面に叩きつける。巨竜のせいで半分崩壊した中庭が更に砕けた。


 彼は血を吐いた。

 思い切り衝撃を与えれば全員こうなるのだ。呆気ない。

 まあ、まだ戦えるだろうが……、このまま殺してしまえば問題ない。


 脳が揺れたのか動く様子のない家庭教師を見下ろして爪を伸ばし、とどめをさそうとしたところで-、


「閣下」


 と、直ぐ背後から留学王女の声がする。

 吾輩はそのままの姿勢で腕を背後に振った。肉を貫く手応えがあって、血が手の甲を濡らしたのが分かった。


 だが軽い。

 違和感を覚えて腕を前に戻すと、爪には一匹の蝙蝠が刺さっている。

 囮か。


『はじめて私はあるべき世界を見た。その軌跡はどこまでも続くようだった。例えば産声、例えば麦の織りなす大地の果て、例えば天空を征く渡り鳥、例えば断罪する処刑台の刃』


 留学王女の詠唱が轟いた。


 直後、吾輩の頭上に巨大な魔法陣が出現する。

 眩しい。直視しなくても。強く光り輝いていて、影の生じる空間がない。

 影走り(シャドウラン)では逃げられない。


 留学王女の仕業だ。見上げるまでもなく分かった。

 第百階梯広域攻撃魔法を対個人に応用したことも理解した。


 余りに莫大な魔力量だからな。

 血を飲んだ吸血鬼は当然魔力も増強される。

 通常、何百人もの魔術師が時間を掛ける筈の魔法も瞬時に発動できるというわけだ。

 戦争大臣の奴め、仕事が甘い。


「〈素晴らしきもの(ホープフル・ワン)〉」


 詠唱が終わった。

 魔法陣から丸太程に収束された一筋の光が降ってくる。


 吾輩はかろうじて避けた。


 万の軍勢を、難攻不落の堅城を焼き尽くすために開発された対軍魔法を、吾輩を滅ぼす為だけに改造したらしい。そして、それはありえないことだった。


 魔法には才がいる。

 捜査中に出会った人物――魔王様、戦争大臣、次席執事、騎士団長とその仲間たち、家庭教師、留学王女――の中で、魔法に適正があるのは魔王様と次席執事だけの筈。ちなみに吾輩も無理だが……。


 んん? こうしてみると結構いる気がするな。

 だが、使えるものはごくごく少ない。少なくとも吾輩が知る限りはそうだ。

 まぁ、吸血鬼よりは多いだろうが、常備50万を数える魔王軍でも千人いるかどうか……。


 魔族は、魔力を自分の膂力の強化や固有能力を発揮するために使う。大抵の場合はそれで事足りる。魔法で出来ることは種族の特徴の範囲内に収まる。それが常識だ。


 だからこそ、常識の範囲内に収まらない高位魔術師は重宝される。転移魔法を使いこなす次席執事はその好例だ。高位魔術師は吸血鬼以上に手がつけられない。それがこの魔界の常識だ。


「むぅ……」


 複雑な軌跡を辿って降り注ぐ光線を全力で避けながら吾輩は唸る。

 服が焦げてしまった。先程と同じように、炎に変化すれば問題ないかも知れないが――


 追尾する光のせいで、地面に白く複雑な太い線が描かれた。

 大地は一瞬で断ち切れている。巨竜の炎息よりも高温ということだ。

 吾輩の存在ごと焼き潰される可能性は捨てきれない。


 三十階梯以上の魔法を使える魔術師は国家によって管理される筈だった。魔界全国家――国土の維持すらままならない破綻国家や小国はともかく――ではそれが常識だ。そして、他国の抱える高位魔術師の情報を収集するのは当然の義務でもあった。


 通りの反対側にある商売敵の品揃えを調べようとしない商店がいたならば、ただの馬鹿と評価して良いのと同じ理屈である。


 だが、戦争大臣から渡された資料に「留学王女は魔術師である」などという文面はなかった。仕事が甘いとはそういう意味だ。


 血を飲むだけで莫大な魔力を得る吸血鬼が魔術の使い手など。

 しかも、魔法を改変する力を持つだけの力を持つだと?

 悪夢も良いところだ。


 滑稽な踊りのように思える回避行動を重ねる吾輩の頭上が一層輝き、更に5本の光の束が吾輩を襲う。







「続きが気になるかも!」



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