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第21話 真犯人は思ったより強いようでした

 大地が割れた衝撃は余りにも強かった。

 数瞬前まで中庭の地面を構成していた瓦礫とともに天高く打ち上げられた吾輩に向かって――

 

「滅べ!!」


 叫びとともに人狼の爪が振るわれる。

 物理攻撃など吸血鬼特有の回復力で無視すべきだが。


 ふむ、まずいな。内心でぼんやりと思った。


 いかんせんこの男は人狼だった。

 その肉体によってつけられる傷は、すべて銀と同じ効果を発揮する。

 急速回復は働かない。ただの魔族と同じように出血して、滅びに至る。


 回避すべきだった。だが、逃げ場はない。

 何しろ足場にすべき大地が、突如地下から現れた巨竜のせいで弾け飛んでいる。


 やむなく右足を虚空に振り上げる。その反動で回避した。

 足場のない場所での戦闘にも吾輩は慣れている。何百回とやっているからな。


 む?


 いや、無理だった。かすかに裂かれた胸から血が吹き出ていた。

 痛いではないか。避けるのは駄目だったかな。


 勢いのまま一直線に飛んでいった家庭教師は、


「家族の苦しみを!! 味わえ!!!」

 

 重力に逆らって宙に浮かぶ大きな瓦礫を蹴り、直ぐに戻ってきた。

 今度は瓦礫が浮き上がる速度に合わせている。相対速度はゼロ。ちょうど吾輩の目の前で止まったように見えた。


 禍々しい爪が振り上げられる。両手でそれを掴み、受け止めた。

 速い。が、今の吾輩にとってはそれほど問題ではなかった。

 助走をつけての突進が乗っていなければこれしきのこと。


「はて、ここ200年程は人狼を殺していない筈だが……、吾輩に何の関係が?」


 爪を掴んだまま尋ねる。身に覚えがなかった。

 君のご家族には同情申し上げるばかりだが、苦しみを味わいたくはない。


「貴様ァッ!!」


 毛が逆立ち、既に吾輩よりふた回り大きな巨体が更に膨れ上がる。

 人狼の眼には怒りの炎が灯されていた。怒らせてしまったらしい。魔王様の寝室を訪れて以来、吾輩は他人を怒らせどうしだ……。


 彼は爪を掴まれたまま器用に姿勢を変え――


「吸血鬼は滅ぶべきだ!!!」


 その凶暴な足で吾輩を蹴り上げる。衝撃が全身を走り抜けた。

 血を吐き、更に当然の帰結として、天高く吹き飛ばされる。


 ぐぅ、痛い。


 なかなかやるではないか。

 爪による攻撃でこそないものの、肋骨が半分ぐらい折れてしまったかも知れない。

 魔力による治癒は、やはりできない。人狼にもたらされた傷は回復不能。


 嘆いたところで、吾輩に強制された加速度がゼロになった。

 振り向いて眼下を視界に納める。


 王都のすべてがあった。

 地平線まで広がる豊饒な平原と、富をもたらす穏やかで広い海。

 その狭間にある何百万という魔族が住まう街。

 魔界最高の存在である魔王様が治める街。

 そして中心には、天まで届く魔王城。


 すべてが魔王様と同じくらい美しい。


 そうかそうか。


 初めて見たときは、あの魔王城も小さな砦に過ぎなかった。何百年前のことだったかな。血の巡りが良くなった今の脳でもよく思い出せないほど昔であることだけは確かだった。


 いつの間にか、この国はこんなに豊かになっていたのだな。

 思わずため息を漏らしてしまう。


 たまには血を飲むべきなのかもしれない。

 馬鹿のままだと、ただ元気よく驚くことしかできなくなるからな。


「どうすればいいのだろうな……」


 そう呟いた時――


「滅べ!」


 人狼が直ぐ側で叫んだ。

 瓦礫を伝って飛んできたのだった。

 その両手には滅びをもたらす白く鋭い凶器。


 爪を振るう。


「滅べ滅べ!!」


 瓦礫を足場にして、幾度も跳ね返るようにして。

 

「滅べ滅べ滅べ!! 吸血鬼!!!」


 振るう、振るう。


 だが--


「なん……だと……」


 無傷だ。犠牲になるのは吾輩の側に浮かぶ瓦礫ばかり。


 避けるのはやめたのだ。

 少し危ないが、受け流すことにした。


 一度振るわれる度に5つの凶器が襲った。

 吾輩は両手を軽やかに動かし、その軌道をすべてそらしたのだった。


 もちろん小指で。ひとつ間違えたら、二度と生えてこないかもしれないからな。

 

「馬鹿にして……。ならば!!」




 家庭教師は叫び、


「おや、どこへ」


 舞う瓦礫を蹴って消え去る。




 その直後、視界が蒼い光で埋め尽くされた。

 王立大学の中庭を叩き割って出現した巨竜の炎息ブレスが放射されたのだ。


 火の津波が押し寄せて来る。

 宙を舞う煉瓦が蒼い炎に飲み込まれ、どろどろに形を変えるのが見えた。


 煉瓦は溶けるのか。吾輩は新たな知識を得た。

 何度なのかは知らないが、触れたら蒸発してしまうかも知れない。いかにに血を飲んだ吾輩といえど、これほどの高温に触れたことも、気体になったこともなかった。

 

 ふむ。

 避けよう。

 どう見ても、小指で逸らすというわけにはいかんな。


 さて。

 いい足場は……ないな。

 都合の良い瓦礫は家庭教師があらかた粉砕してしまった。

 ぶんぶんと無駄に振るったのはそういう狙いもあったのか。

 頭がいい。


 では。

 影潜り(シャドウラン)で影の世界へ……、と……。

 んん?

 明るすぎる炎のせいで影が消えているな。


 ふむ。ふむふむ。



 これは不味いのでは?



 そう声にする前に、吾輩は蒼い炎に包まれた。







「続きが気になるかも!」



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