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第2話 任された面倒事の説明を聞くために再び魔王城を訪れました

 翌日のこと。吾輩は再び魔王城を訪れていた。


「いやはや、肩がこりそうだ」


 魔王城を見上げて吾輩は呟いた。信じがたいほど高い塔みたいな建造物だから、天辺は雲に遮られて見えない。


 なお、昨夜お邪魔した魔王様の寝室はごくごく常識的な階にある。もっとも、この王都で一番天に近い寝室であることは間違いないけれど。


 おっと。今度は忍び込んだのではない。

 正門から堂々と入ったとも。


「やあやあ御機嫌よう! 門番の諸君! 今日も魔王様のためにご苦労!! ハッハ!」


 大声で門番達に言った。挨拶は元気なほど良いのだ。仲の良さはまず挨拶から始まる!

 プレゼントはないが許してくれたまえ!! 吾輩が贈り物をするのは魔王様だけなのさ!


 もっとも、門番達は何も言わなかった。彼らは険しい表情を浮かべていた。何故かいつもそのような態度を取られるのだ。吾輩は仲良くしたいのに。


「あの黒髪、馬鹿みたいに真っ黒な服。そして長身痩躯に不吉そうな顔つき……」


「しっ、静かにしろ。間違いなく残念卿だ。関わるとろくな事にならない」


 何も言わなかった、というのは嘘だ。陰口が正門の詰め所から聞こえてきた。吸血鬼は耳が良いのだ。悲しいけど、気にしない。吾輩は公的には結構偉いから、残念なことにやっかみは日常茶飯事なのだ。

 

 ともかく、今日は命令でここに来たのだ。

 昨晩魔王様の寝室を叩き出される前に、


「明日も城を訪ねろ。幽霊探しの手掛かりを部下から聞け」


 と言われたのだった。吾輩は迷路みたいな--いや、構造を知らなければ実際に迷路だろう--作りの魔王城を歩き回る。


「やあやあ! 八の丸西櫓の五階に行きたいのだがどうすればよいかね!? 吾輩が以前正門から入った時には五の丸までしかなくてね!!!」


 至るところにいる首なし甲冑達に話しかけた。鎧魔物デュラハンと呼ばれる、いわゆる警備用の魔物だ。


 すれ違ったデュラハンすべてに無視された。吾輩悲しい!


 まあ無理もない。デュラハンは話せない。なにせ頭がないからね。彼らは首から下だけの鎧で出来ている。頭があっても、中身がなければ声を出せようはずもないがね。


 しかし、全身で空気の振動を感じることで聞くことだけはできるはずなのだが…… 

 でなければ仕事を任せられない。もしや吾輩、鎧魔物にも嫌われてるの!!? 脳がないのに!?


 その後も吾輩はめげずにデュラハンに声を掛け続け、何千体目かでやっとその鎧は斜め上を指差してくれた。


 やっぱり聞こえてたんじゃん……


 で、正門を潜ってから二時間経ってやっと、吾輩は目的地にたどり着いたのだった。魔王様の寵臣筆頭である、戦争大臣の執務室に。


 大きな扉を勢いよく開ける。堂々と歩きながら、奥で書類仕事をしている女に声を掛けた。


「久しぶり! 君が戦争大臣ちゃんだね!?」


「何故、陛下は貴様なんぞにこの件を……」


 この部屋の主たる作り物のように整った顔の若い女は、苦虫を噛み潰したような表情でそう返事した。幼女と言っていい年齢に見えた。魔王様に統治されるこの国の軍事面ほぼすべてに関与するとされる人物にしては若すぎる。


 が、捻れた角はなかなかに大きいように思えた。吾輩より大きいのは確かだ。角だけで実力はわからないけれど、なかなか強いに違いない。そうつまり! 怒らせるのは得策ではないということ!!


「まあまあ落ち着いて戦争大臣ちゃん! 始めまして!」


「ちゃんをつけるな気持ち悪い。そういうところだぞ。貴様が嫌われる理由は。あと、会うのは初めてじゃない。相変わらず不吉な顔をしおって」


 どうやら怒らせてしまったらしい!

 うーん、コミュニケーションは難しいな!!


「覚えてなくてごめんね!」


「構わない。久しぶりなのは確かだ」


「よかった…… って! え? 吾輩嫌われてるの!? 気持ち悪いって言った!??」


「反応が遅い、うるさい、だまらっしゃい。私はそうだ。他の連中もきっとそうだ。そうに決まってる」


 この娘、酷い性格してる!!


 吾輩の反応を無視して戦争大臣ちゃんは赤い液体の入ったガラス瓶をあおった。グビグビという効果音が聞こえてくるくらいの勢いだった。香ばしい匂いがした。


「えぇ……? 朝から飲んでるのかい? 魔王様に言ってクビにしてもらったほうがいいかもね!!」


「貴様と会話するにはこれくらいで丁度いい。それに私は飲むと力がみなぎってくる質でね。ならば飲むべきだ。異論はあるまい?」


「へー。ま、人それぞれだからね」


 吾輩が言い終わるかどうかのタイミングで、田舎戦争大臣ちゃんは吾輩を睨みつけて言う。


「おい、そこで止まれ。それ以上近づくな」


「お? なにこれ!?」


 戦争大臣ちゃんの広い執務室の真ん中には、チョークか何かで白い線が引かれていた。何だこれは!


「私に近づいて良いのは、安全が保証された者だけだ。そこから先には進むなよ」


「吾輩安全だけど」


「そうだろうな、この馬鹿め。だが、規則だ。万が一にも私は滅ぶわけにはいかん。滅べば魔王軍が瓦解する。魔王軍が瓦解すれば国が滅ぶ。この国は戦争に勝つことで栄えてきた国だからな。敗北は許されん」


「へー」


「貴様、会話のしがいがないな…… 挑発しても通用しない……」


「会話といえば、戦争大臣ちゃんに聞かなきゃいけないことがあるらしいんだけどさ」


「そんな話題転換があるものか…… まあいい。不本意ながら、私にも話すべきことがある。いいか。叡智留まることを知らない魔王様の命令がなければこのような」


「魔王様の言うことはすべて正しいからね! 従うべきだね!!」


「それはそうだが…… まあいい。ことの始まりはひと月ほど前。魔王陛下の誕生祝いが済んで数日してからだ」

 

 ひと月前? 誕生日? 済んで? あれ?


「魔王様の誕生日って昨日じゃなかったっけ!?」


「一ヶ月前を『昨日』に含めるならそうなる。貴様、遂にボケたか」


「そうかもね! ボケたのかもね!! ハッハ!!」


 魔王様の態度が変だったのはそれが理由か! 

 うーむ。どうにも月日を覚えるのは苦手なんだ。


「話を戻そう」


「そうして!」


「ともかく、魔王様の誕生日以降のことだ。魔王城は深刻な状況にある。貴様も気づいているだろう」


「深刻な状況……? いや、やっぱりなし。聞きたくないな」


 戦争大臣ちゃんは、吾輩が魔王様から頼まれた仕事の中身を詳細に説明してくれた。


 非常に興味深かったとも。

 出来れば聞きたくない内容だったけれどね!!

 ポンコツな吾輩には向いてない仕事を任されたのだ!!

 昨夜魔王様が言った「幽霊」とやらはまったく関係なかった!!







「続きが気になるかも!」



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