帰郷9
電車に揺られて僕は実家を目指す。
綾坂との思い出がフラッシュバックする。その1つ1つを潰していく。
綺麗な思い出なんて綺麗事では僕は立ち上がれない。
あの時のドキドキや感情を無かった事にする作業。
正直。辛い。
駅に着くと田舎のヤンキーがいた。、、、山下と静香だ。
山下「?、、!真一!真一じゃん!い、今、来たのか?来る時言えよ!、、、あれ、一人か?綾坂さんは?」
真「ああ、今帰った、綾坂とはもう、、、」
クッ、キツイなぁ、、、いきなり綾坂か。
山下「、、、ごめんな!でも、あんな美人がお前と吊り合う訳が無いし、しょうがないぞ!、、、
真一!夜、海行こうぜ!バイクの後ろ乗っけてやるからさ!、、、後で迎えに行くからな!」
静香「、、、仲、今フリーなのか?」
山下「アー何浮気しょうとしてんだよ!静香!」
静香「浮気じゃないよ!本気だ!」
山下「て、てめぇ静香!、、、あ、待てコラ!、、、真一!じゃあ後でな!」
真「フフフッ、上手くいってるな。」
駅から側道の川沿いを歩く。
手作りアクセサリの店、綾坂に四つ葉のネックレスをプレゼントした店。
オヤジ「、、、お、真一!また帰って来たか!あの後また、作ったんだよ!四つ葉のクローバーのネックレス。少し改良してもちっとシンプルにしたんだ!悠子ちゃんにあげてくれよ!」
真「じ、じつは、、、いや、ありがとうおじさん!でも貰ってばかりじゃあいけないからお金払うよ!僕の気持ちが悪いから。」
オヤジ「、、、何か無理矢理買わせてるみたいだな!、、、まぁ真一の気持ちがわるいなら、、、500円!」
真「え、そんなに安くていいの!これ、手間かかってるよ!」
オヤジ「いいの、いいの!悠子ちゃんに宜しくな!」
真「、、、ありがとう。」
暫く歩くと米婆さんの店が見えた。
真「ばあちゃん、こんちは、、、」
米婆さん「、、、真一かぁ、よく来たな!、、、あの綺麗な娘さんはどうした?」
真「、、、う、うん。」
米婆さん「、、、言わんでいい!言わんでいいんじゃ!、、、まっとれ団子焼いてやるからな!」
米婆さんの所で団子を食べるとバスに乗り実家へ向う。
僕の中で一つ一つ綾坂への想いを消して行く。
決して無理やり閉じ込めるのではなくて、ちゃんと向きあって消して行く、、、
少しづつ消して行く、消えて行く。
病院
悠子「、、、ねぇママ、な、仲君ってどんな人?」
綾坂母「、、、そうね、優しくて、可愛い子ね、そして、天才かな。」
悠子「、、、」
綾坂母「、、、良かったらコレ見てみたら?」
綾坂母は真一のスケッチブックを渡す。
「じゃあ、ママは行くね。明日また、来るからね。」
悠子はスケッチブックを開く。
悠子「わぁー凄い上手!、、、これ私?」
悠子は一枚一枚スケッチブックをめくる。
ポタ、ポタ、、、涙が落ちる。
悠子「れ、あれ、何だろう涙が涙が止まらない。」
その絵は40枚に渡り描かれていた。その表情はまるで生きている様で描き手の愛情が感じられる。悠子は真一が自分をどれだけ想っていたかを感じる事が出来た。最後のページには3人の親子が手を繋いで夕日に向かって歩いている絵で背中から描かれていて誰かはわからないが悠子の涙は止まらない。
悠子「わ、私は何か大切な事をとても大切な事を忘れている、、、でも思い出せない、、、」
爺ちゃん「、、、真一、真一かぁ!来る時は連絡せんかい!」
真「ごめんよ。暫く居てもいい?」
婆ちゃん「真一!よく来たな!悠子さんは一緒じゃないのか?」
真「あ、ああ!振られちゃったよ!」
爺ちゃん「なんちゅう事じゃ!あんな美人を手放すとはバカじゃのう!」
婆ちゃん「コレ!爺さん!そんな事言わんでいいんじゃ!、、、それより涼子さん退院出来るらしいの結菜が言っておったわ!」
真「うん!友永先生っていう凄い先生が助けてくれたんだ!」
婆ちゃん「そりゃあ良かったわ!またこっち帰ったらええ!」
真「爺ちゃん、アトリエの鍵はやっぱり、、」
爺ちゃん「ああ、かけとらん」
真「、、、」
僕はアトリエで佇む。あの時見た綾坂の姿を写し出し、、、消して行く。
真「うん、大丈夫、もう泣かない。」