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そこらじゅうにいる人間の多くは──もちろん僕も含めての話だが、大きく分ければ、三枚の食パンほどの種類しかいない。もそもそとして食べにくいが、とりあえず平穏無事に口から胃袋へと向かうことのできる一枚目の食パン。ちょっとしたハプニングや自分の失敗や抗いようのない災難で、無理矢理、口の中に押し込まれ、咀嚼もされずに嚥下される二枚目の食パン(それでも胃袋へは行ける)。膝の上から床に落ちて、落とし主ばかりか無関係の人々にまで踏みつけられる三枚目の食パン。そんなものだろう。
もっとも、一生のうちに変わることもあるかもしれない。一枚目だった人生が二枚目、三枚目と転落することもあれば、三枚目から二枚目、一枚目と運良く復権を果たす人生もあるだろう。それでも結局は、誰かの口に突っ込まれて胃の中でドロドロになるか、膝から転げ落ちて床の上でドロドロになるか、その程度の差に過ぎない。甘いジャムやこくのあるピーナツバターや新鮮なレタスや程良い塩味のハムなどが添えられた失楽園を妄想したければ、各々が勝手にやればいい。あるいは、床に落ちてさんざん踏みつけられながら、相手の上等な靴底にマーガリンを擦り付けてやっているのだ、などと、意味のない復讐の遂行に意味のない満足をするのも勝手だ。
そういうのは何と言うのだったか──人それぞれ。そうだ。人それぞれ。
もう少し丁寧に言うなら、〈上履き〉で踏もうが〈土足〉で踏もうが三枚目の食パンは誰にも食べてもらえないことに変わりはなく、それ以上はもうどうしようもないということだ。