プロローグ
「わからないわ!」
何が?
「なにもかも、よ。
あの子も、あいつも、大人も、先生も、普通も、
当たり前も、私のことも。
この世界の全てが、わからないのよ。」
分からないのは嫌?
「当たり前でしょう?」
そっか、でも、分からない方が
「分からない方が人生楽しい。なんて言うんでしょう?」
君はそう、思わないの?
「分からない、は
確かに私を前に進めてくれるかもしれないわ。」
だよね、だから…
「でも、」
「それでも、
恐怖、後悔、嫉妬、憂鬱、破壊、憎悪、虚無。
分からない、と、たくさん、たくさん、傷つくの。」
そっか、そうだね。
君は…
たくさん、傷ついてるんだね。
「え?」
だから、泣いてるんでしょ?
「……よ」
……
「…そうよ!私は傷ついてるのよ!
なのに…!
なんでみんな心配してくれないの!?
あの子には少しのことで『大丈夫?』って言うのに!
大人はなんで普通を押し付けるの?
普通じゃないとだめなの?
普通ってなに?当たり前ってなに?
私は何がしたいの?どうなりたいの?
分からない……分からないよ…っ!?」
……はぁ。
じゃあさ、
『知りたい?』
「…なにを?」
この世の全てを
「そんなの、もちろん……」
君は、分からないと傷つくと言った。
確かにその通りだよ。
分からないと傷つく。知らないのは怖いことだ。
でもさ、知る=傷つかない ではないんだよ。
知っても負う傷はあるし、
知っても癒えない傷はある。
さらに傷ついてしまうことも沢山あるとおもう。
それでも、『知りたい』?
「……っええ、
ええ、知りたいわ!」
そっか。
じゃあ今から君はある少女のところへ行きなさい。
「…?」
君とは別の世界を生きて、
君と同じように「わからない」少女の元へ。
そして、
貰って、与えて、信じて、裏切られ、傷つき、失い、共感し、喧嘩し、教えて、教わって。
成長しなさい。
多くのことを知りなさい。
「え?ちょっと、なんの話?どういうこと?」
その世界にいる間は
君の記憶を少しばかり消させてもらうけれど、
「えっ?どういう……っ!頭が!いっ…!」
君は二つだけ覚えていればいい。
『その少女と君は同じであること』と、
『わからない』と『知りたい』
それだけでいい。
「……」
もう聞こえてないかな?
じゃあ、頑張ってね。
行ってらっしゃい。
「……」
この物語は後に
ある二人の少女が
人間らしく
儚く、醜く、美しく
もがきつづけた証となる。