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オタクをプロデュース。  作者: 五月七日 外
ライバルは強し
7/10

3

「うそでしょ?」


 放課後、ファミレスにて。

 僕からの報告を聞いた鷲崎は、この世の終わりといった様子でそう聞いてきた。


「まじのマジ。ちゃんとこの耳で聞いたんだから間違いないって」

「あー……四条さんはダメだよ……勝てへんよぉ」


 鷲崎はそう言ってへなへなと力なく机にうつ伏せる。

 ショックの大きさからか最後は方言になる始末だ。……君関西出身でもないのに、なぜに?

 かなりの諦めムードが充満しているが、まだ終わりと決まったわけではない。

 一応、フォローをいれておく。


「まあ、今のところは大丈夫じゃないか?」


 僕の言葉にむくれたままの鷲崎が少しだけ顔をあげる。

 その目の意味するところは、つまるところ「ほうほう?そげなこと言う~てことは、根拠があるんやろなぁ?言うてみぃ?」てところだろう。……だから、なぜに関西弁?いや、これ何弁だよ。

 鷲崎の真意はわからないが、僕の言葉に興味はもってくれたようだ。

 顔があがっているうちに言葉を続ける。


「確かに四条は最強だ。あいつがその気になれば誰も勝てないだろうからな。……けど、赤羽は本気で四条を好きなわけじゃない。今はせいぜい気になる女の子くらいの認識だ。それに、あの四条が人間を好きになるとは思えない……だろ?」

「それはあるわね。えーと……四条さんて今は何が好きなんだっけ?」

「確か、今は本じゃなかったかな。それもただの本じゃなくて文字が楽しめるやつらしい」

「文字が楽しめる?」


 なにそれ?

 と、鷲崎の目は語っているが、僕の方こそそれを聞きたい。

 おそらくその意味するところを理解しているのは四条のみだろう。

 僕もそこまで詳しくはないが、うわさによると「〈静謐の歌姫〉は文字に魅せられていて、旧図書館に籠っている」なんだそうだ。全くもって意味がわからない。

 

「さあ?」

「さあ?って」

「仕方ないだろ。あんな天上人の考えてることなんて凡夫な僕には分からないよ」

「それもそうよね。あの子とんでもない外見なのに、かなりの変わり者なんだもん。……おかげで言い寄る男は意外と少ないって聞いたことあるし」


 鷲崎の言葉を聞きながら数ある四条のうわさを思い出す。

 金髪碧眼の、絵本から飛び出してきたかのような女の子。

 自己紹介ではただの人間に興味なんてないと豪語したこと。

 好きなものにはとことんで、今は文字にハマっていること。

 静謐の歌姫は、誰もいない旧図書館から彼女の文字を読む声が漏れ聞こえることからつけられたあだ名とか。

 ケンカがめちゃくちゃ強いこと。

 ……ん?最後のは絶対違うよね。

 

「まあ、そんな四条だから流石の赤羽も好きにはならんでしょ。なったとしても四条は墜ちない。だから……」


 ……大丈夫だ。

 そう言うつもりだったのだが、それを鷲崎に遮られてしまった。


「でも万が一があるよね?」


 鷲崎の顔には不適な笑みが浮かびあがっていた。

 この顔には見覚えがある。

 ……おいおい、もしかしなくても。僕に確認してこいって言うんじゃないだろうな?

 そんな考えが僕の顔に出ていたのだろう。

 鷲崎はいつぞやみた笑顔のまま小さく頷く。

 

「えーと……一応聞くけどそれって今?」

「うん」

「しかも僕が?」

「もちろん」

「はぁ……分かったよ。鷲崎はどうすんの?」

「え?わたし?わたしはもちろん、今からたっつーの嫁を調べるのよ」

「嫁ねー。それって鷲崎で大丈夫なの?」

「なにが?」


 鷲崎はキョトンと首を傾げている。

 全くもって僕の言いたいことを理解していないようだ。

 どうせ、画像でも調べればそれでいいと思っているのだろう。それでは赤羽の嫁たちを知ることなどできない。真正のオタクを舐めている。

 これは先にアドバイスをした方がいいみたいだ。


「そうだな。例えばだけど、鷲崎ってツインテールって聞いてどんなイメージをもつ?」

「うーん……子供っぽい?」

 

 そうなのか。

 一般的な女子にとってツインテールは子供っぽいのか。

 どうりでツインテールを学校で見ないわけだ。……べ、別にリアル女子のツインテールなんて見たくないんだからね!

 ツインテールの真実に少々ショックを隠せないが、僕にはまだ最後の砦、ポニーテールが残っているので、話を先に進める。

 

「残念ながらそれは違うな。赤羽にとってそれはツンデレを意味している。まあ、いわゆるキャラ付けみたいな感じだな。眼鏡をかけていたら委員長キャラみたいな」

「それってただの妄想でしょー?わたし委員長とか全然キャラじゃないけど、家じゃあ眼鏡だし」

「まじでっ!?」

「へ?」

「いやなんでもない。とにかくオタクたちの中では属性のイメージとか色々あるんだよ」


 危ない危ない。

 元眼鏡属性だった名残なのだろうか。

 ふいに浮かびあがった鷲崎の眼鏡姿に興奮を隠しきれないところだった。

 やっぱり、家でつけてるていうところあたりから考えるに、黒ぶち眼鏡だとありがたい。ちょいとダサイくらいの眼鏡だとなおよし!……って、全然名残りが抜けてなかった。なんなら前よりも鮮明にイメージをできるようになっている気さえする。

 悲しいかな。一度染み付いた属性(弱点)とやらはそうそう治らないらしい。

 と、僕の頭の中ではパジャマ姿やら眼鏡をかけていたりやら妄想の種にされているとも知らず、鷲崎の方は先の説明に納得したようだ。


「ふーん……そうなると、全部調べるのはちょっと大変ね」

「そ、そうだな」

「しょうがないから今日は一つだけ調べてみる」

「ふーん……ちなみになにを?」

「ツンデレはなんとなく知ってるからヤンデレ?ていうのを調べてみる」


 赤羽の好きなタイプとやらを記したメモを見ながら鷲崎はそう言う。

 正直、初心者がいきなりヤンデレを調べるのは危険な気もするが、修正するのも面倒なので流しておいた。

 

「あっ!そう言えば、弁当ありがとう。ごちそうさまでした」


 と、突然思い出したかのようにそう言うと、鷲崎は鞄の中から空になった弁当を取り出して渡してきた。

 

「お、おう。お粗末様でした。んで、どうだった?」

「どうって?」

「えーわかんないかなー。ふつうこの流れだったら味の感想ってわかるだろうに」


 当然のことを言っただけなのだが、なぜか鷲崎は頬を赤く染めていた。


「……かった」

「はい?」


 次第に顔を赤くしていく鷲崎からの言葉は小さすぎて聞こえなかった。

 聞き直すと、体をぷるぷる震わせながら鷲崎はもう一度口を開いていく。

 その様子を見ながら僕の脳裏に嫌な予感が過っていた。

 もしかしなくてもこれは怒っているのでは?

 顔を赤くするなんて、恥ずかしがるときか怒りを抑えているときかのどちらかだろう。

 ここで恥ずかしがる理由なんて鷲崎にはない。

 怒る理由なら一つだけ考えられる。

 考えたくはないけど、可能性はある。

 それは僕の弁当がめちゃくちゃ不味かった場合だ。

 そうなると、敢えて気を利かして味の感想を言わなかったのに、無理に聞き出そうとする僕に怒っても仕方ないかもしれない。

 でも待てよ。今日の弁当はそれなりに凝っていたはずだ。昨日、少し余ったひき肉と玉ねぎを使ったハンバーグも入れてるし、卵焼きの出汁だってちょうどよかったはずだ。めんつゆの素晴らしさに感動するレベルだったのに……いや、ポテサラか?鷲崎はポテサラにリンゴを入れる家系なのか?それなら怒る理由も……それとも間違って先にかけてしまった卵ふりかけか!?それならあり得る。先にふりかけてしまうと湿気でべちゃっとしてしまうんだ。くそ!「べちゃっとしてもそれはそれで乙だよね!」なんて呑気に言っていた朝の自分を呪ってやりたい!やっぱりいつも通り食べる前にかけるべきだったのか!?……いや、それとも……。

 

「悔しいけど、美味しかった……DDの弁当」

「はい?」

「だからー!美味しかったって言ってるでしょ!」

「まじかー!!よかったー!」

「いや……そんなに喜ばなくても」


 鷲崎が若干引いているが関係ない。

 僕の弁当が不味くなかったというだけで、僕は満足だ。


「いやーよかった!」

「そ、そう……よかったわね」

「おう」

「その、何個も頼んでて申しわけないんだけど、もしよかったらなんだけど……」


 あまりにも嬉しかったからだろうか。

 僕は鷲崎が顔を赤く染めていた理由やその後に続く言葉をあまり深く考えることもなく続く言葉に返事をしていた。

 

「……今度わたしに料理教えてくれない?」

「苦しゅうない。かまへんかまへん」

「それ何弁よ」


 そんなやり取りを最後に僕はファミレスを後にした。


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