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オタクをプロデュース。  作者: 五月七日 外
災いのラブレター
3/10

2

 鷲崎彼方をオタクにする。

 そんなよくもわからない彼女の願いを叶えるべく、僕たちは学校近くのファミレスへと場所を移していた。いくら人目につきにくいとは言っても、あのままプール裏で込み入った話をするのはまずいし、誰かに変な噂をされでもすれば互いに困るだろう。主に鷲崎が。

 適当に注文を終え、それぞれ自分の飲み物を準備したところで、僕の方から話を切り出した。


「それで?もう少し詳しく教えてくれないか」


 僕にもわかるように教えてよ。と視線を送ると小さく頷いて鷲崎は話し始める。


「わたしね、好きな人がいるの」

「……ほうほう、いいっすねー」

「なんか適当じゃない?」

「どうせそれ僕のことじゃないんだろうなーって思うとねー……どうでもいいというか、爆ぜなさいって感じだし」

「ふーん……まあ、そんなことよりね。その好きな人がいるんだけど、たぶんわたしってその人にとってタイプじゃないんだよ」

「三位なのにか」

「三位?」


 訝しげに僕を見る鷲崎の反応で思い出した。

 あの投票は女子には極秘だった。男たちのためにもここでばらす訳にはいかないか。


「あ、いやなんでもない。鷲崎さんって学年三位だった気がしただけでさ」

「そう?わたしそこまで頭良くないけど誉められたみたいで嬉しいかも」


 鷲崎がアホでたすかった。

 あまり触れてほしくない話なので内容を元に戻す。


「でだ。それで、なんでオタクになんてなりたいんだよ。個人的な意見だけど、オタクって評判よくないぞ?」

「そんなの龍泉寺に言われなくてもわかるっての」

「だったらなんで」

「わたしが好きな人って、たっつーなの」


 たっつー?だれそれ。

 ポケ○ンですか?……だったらアプリインストールし直すけど?

 すると、僕の疑問が顔に出ていたのだろう、鷲崎は情報を付け足した。


「たっつーて言ったら、赤羽くんのことに決まってるでしょ!」

「いや知らんがな」


 まじ知らん。

 赤羽にそんなあだ名があるなんて全然知らない。……ていうか、鷲崎さん赤羽のことが好きなの?アレは見た目こそいいけど、不良物件だと思うよ……?

 鷲崎はそれを当然僕も知っていると思っていたようで、驚きのあまり開いた口がそのままになっていた。


「え、なんで?」

「なんでって、別に……赤羽とはクラス替えで知り合ったばかりだし、そんなに仲良くないんだけど」


 付け足しておくと、あんまり仲良くしたくないタイプである。

 元中二と現役の中二病患者は基本的に相容れないのだ。

 それでも鷲崎の方はなぜかそれが信じられないようで、事実確認が続いていく。

 

「……あだ名で呼び合う仲なのに?」

「いやー……あれはあいつが一方的に僕のことを変なあだ名で呼んでるだけだからで、僕はふつうに名字で呼んでるし」

「まじかよー」


 ん?

 僕が鷲崎の言葉づかいに疑問を感じる間も彼女の話は続く。


「ていうことはなに、龍泉寺って別にたっつーの親友でもなければ、友達ですらないわけー?」

「ま、まあそうなるな」

「……あぁー、またやっちゃったかぁ」


 何かに気づいた様子の鷲崎はへなへなと力無く机にうつ伏せる。

 ブツブツと何か呟いているが、小さすぎて僕の耳までは届かなかった。

 そんな鷲崎の様子を見て、僕の方も彼女の勘違いに気がついた。

 こうなってくると、互いに情報を整理した方がいいだろう。じゃないと、鷲崎の言うことを聞いてやるにしても苦労がものすごいことになりそうだ。

 おそらく、鷲崎の望みとやらはもっとシンプルなものなのだ。


「なあ鷲崎さん」

「……なによ」


 俯いたまま答える鷲崎。

 どうやら、自分の勘違いやら口走ってしまったことやらのせいで、恥ずかしさと後悔でいっぱいいっぱいのようだ。

 これでは話が先に進まない。

 ……仕方ないか。


「これは友達の話なんだが……」

「……?」

「そいつはある日、下駄箱の中にラブレターが入っていたんだよ。昔っからそういうシチュエーションに憧れてはいたけど、まあ、そういうことは普通ないし諦めてもいたんだけどな。それでもドキドキしながら放課後行ってみたら」

「……ん、それって?」

「そいつがラブレターだと思っていたのは見当違いで……しかも弱味も握られて、これから変なお願いを叶えないといけない状態なんだよなー」


 と、僕が最後まで言い切るまでに鷲崎はうつ伏せのままプルプル体を震わしていた。

 しばらく様子を見ていると、ひょこっと覗かせる鷲崎と目があった。


「それって、友達じゃなくて自分の話じゃん」

「それがそうなんだよなー!超恥ずかしいわ!」

「ぷっ……わたしも大概だけど、あんたも大概ね。今の時代ラブレター書く女子なんているわけないじゃん」

「男子の純情をなめんな!じゃないと、あんなノート作るまでこじらせないわ

「あれは龍泉寺だけでしょ」

「ま、まあ……鷲崎さんにはそれもバレてるし、今さらこれくらいどうってことないね……たぶん」

「そ……じゃあ、わたしも……これは友達の話なんだけどね……」


 その切り出し方はどう考えても鷲崎の話だろう。

 僕はグラスに手を伸ばしながら先を促した。


「その子はね、幼馴染みの男の子がすきなんだけど、勇気が出なくってね。それで好きな人のタイプになれば告白する勇気が出るかなーって思ったんだよ。でも、好きな人のタイプって良く分からなくて……それで、弱味を握った親友らしき人にお願いしようと思ったら……」

「友達かどうかも怪しいやつだったと」


 鷲崎の言葉を遮るようにそう言う。

 それに鷲崎は小さく頷いた。

 なんてことはない。

 互いに勘違いしていたのだ。

 片方はラブレターを貰ったと思ってウキウキと。

 もう片方は好きな人の親友を利用して恋路を叶えようと。

 けど、それは違かった。

 だったら、僕たちのとる行動は一つしかない。


「と、いうわけで。今回の件はお互いの勘違いなんだし……」

「うん、そうだね」

「「無しってことで!(改めてよろしくね!)」」


 いやなんで?

 僕の疑問は鷲崎にスルーされてしまう。


「勘違いだし、無しでよくない?」

「うーん、それも思ったけどせっかく龍泉寺の弱味を握ってるんだし、これを利用しない手はないでしょ」

「えー……」

「わたしだってすでに恥ずかしい思いしてるし、わたしの好きな人龍泉寺にバレてるし。どうせなら最後まで道連れにしようかなと」

「さいですか……」

「というわけで、わたしをオタクにしてね!」

「へいへい」

「やる気ないなぁー」

「そりゃあ、僕になんのメリットも無いわけだしさー」

「メリットがあればいいんでしょ?」


 だったらさ……と、一言おいて。

 何かを閃いた様子の鷲崎は切り出した。


「わたしをオタクにしてくれたら、龍泉寺の恋を手伝ってあげる」


 いい案でしょ?

 と、鷲崎の目は語っているが、はてその案はどうなのだろう。

 今のところ僕に好きな人はいないけど、別に鷲崎に手伝ってもらわないといけないほど困る気もしない。中二病のころならまだしも、もうそんなものを卒業しモテ術を実践している僕からしてみれば……

 と、なぜか鷲崎はニマニマと笑みを浮かべながら僕の方をみていた。


「ははぁ~ん……さては、龍泉寺、自分がモテると勘違いしているなー」

「え!?ちがうの?……ではなくて、モテるまでいかなくても普通の男子くらいのポジションにはいるだろ」

「ないない。気づいてなさそうだから、少しだけ教えてあげると……例えばほら!いっつも休み時間廊下にでて、遠くの方見たりしてるでしょ?」

「まあしてるな。黄昏れているな」

「いやーアレめっちゃキモいもん。アレはないよー」

「まじ?」

「マジマジ」


 ニシシィっと笑う鷲崎の顔を見るに本当のようだ。

 おかしい。黄昏がれる男は格好いいとアニメでやっていたというのに、なぜあれが気持ち悪いんだ。中二病を卒業してからというもの言動に気をつけて『やる気ない系』『やれやれ系』を演じていたというのに。もしや、完全に演じきれていなかったというのか……。


「くそ……やはり時代は省エネか!」

「省エネ?省エネはいいけど龍泉寺のアレとは関係ないでしょ!それに色々とキモいのあるし」

「色々あるのか」

「うん」

「例えばどんなのだよ」

「それは、ほら……わたしをオタクにしてくれたら教えるってことで」

「……なるほど」


 悔しいが、意外と鷲崎にも使いどころはあるみたいだった。

 それに女子の意見を聞くことができることも大きい。

 とりあえず、最近敢えてしていた演技やモテ術はしない方が良さそう……ということが分かったのは鷲崎のおかげだ。


「分かったよ。僕は鷲崎さんをオタクにする。鷲崎は僕をモテモテにするってことだな」

「うん、まあ……そんな感じ」

「しょうがない……協力するよ」


 そう言って僕は右手を前に差し出す。

 こういうときは、きっと確認の意味も込めて握手をするものだ。アニメで習ったしちょっと憧れたシチュエーションでもある。

 鷲崎の方も僕の意図に気づいたようで、右手を前に出してくる。

 そして、僕たちの手は交わされる……ことなく交差した。


「えー……」

「え、なに?どしたの?龍泉寺もおかわりがほしいんでしょ?」

「ま、まあ」


 じゃあとってくるねー。そう言って鷲崎はパタパタとドリンクコーナーへと向かっていった。右手に僕のグラスを持って。

 その間も中途半端なまま僕の右手は上がったままだった。


「……やっぱ合わないなー」


 鷲崎の後ろ姿を眺めながらそう呟いた。




 


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