悪役令嬢はチャラ令息とヤンデレ弟に溺愛される
頭を空っぽにして読んでください。
ストーリーも中身も何もないお話。
息抜き作品です。
青い空、白い雲。
目の前に広がる光景。
それはまるで幻のようだった。
悪い意味で。
我が国の皇太子殿下の婚約者候補たちが揃って白目をむいている。
令嬢以前に女として如何なのかと問いたくなる。
だが、これは仕方のないことなのかもしれなかった。
私と彼女達の眼前には、氷結の皇子と呼ばれるルートヴィヒ殿下が、平民の女にデレデレとアホ面を晒しているという信じがたい光景が広がっているのだから。
なお、彼女はこのお茶会に招待されていない言わば侵入者であると言っても過言ではない。
……帰りたい。
私はバレないように小さくため息をついた。
そもそも、何故こんなことになったのか説明する必要があるだろう。
皇太子殿下が7歳の誕生日を迎えられた次の日、貴族の子女たちが集められ、婚約者候補の選定が行われることが知らされた。
早速派閥が出来始め、大きく3つに分かれた。
カーディナル公爵令嬢、アンジェリカ・カーディナルの赤薔薇派。
クロマテラ辺境伯令嬢、リリアナ・クロマテラの牡丹派。
そして、私カサブランカ公爵令嬢、フィーリア・カサブランカの白百合派。
私は婚約者候補の中でも力を持ってしまったのである。
そのことを知った家族及び友人は激怒した。
私は別に興味もなかったしどうでもよかったのだが、周りは皇太子殿下のことを「フィーの可愛さに気づかない能無し」と言った。
不敬罪って知ってる?
そんな私の言葉を気にもとめずに彼らは口を揃えて私に言い聞かせた。
能無しの婚約者はやめておけ、と。
その言葉に私はとても面倒くさがった。
関わりたくもなかったが、辞退するのも目立つのだ。
結局15歳の今になるまで噂や皇太子殿下でさえ避けるという婚約者候補として有り得ない行動を取り続けた。
何でそんなことしたんだろうか。
私はかつてないほど後悔していた。
さっさと辞退していればこれに関わらずに済んだのに。
そろそろ婚礼期を逃しそう。
とりあえず、この場は皇后陛下に押しつけよう。
正気を取り戻したご令嬢たちとアイコンタクトを交わし、小さくうなずく。
ひどく混沌とした庭園から私たちがいなくなっても、気づく者は誰一人としていなかった。
お茶会を抜け出したのはいいが迎えが来るまで時間が余ってしまった。
どうしようかと考えていると、赤薔薇派のご令嬢たちが騎士団の訓練場の方へ歩いて行くのが見えた。
牡丹派のご令嬢たちは城下で時間を潰すらしい。
私は少し考えてから、騎士団の友人のところへ行くことにした。
道中、友人にこの状況をなんと説明しようかと考える。
だが、どうせ赤薔薇派が騒ぎ立てるだろうと気づき、面倒だし説明するのはやめた。
今回の件で婚約者候補から両親が外してくれるだろうし、騎士団で有望株でも見てみるか。
訓練場の中に入った私の耳に、つんざくような悲鳴が飛び込んだ。
赤薔薇派のご令嬢たちだ。
視線の先にはキラキラとした笑顔で手を振る軟派そうな男。
男はこちらに気づくと訓練用の剣をほっぽりだして走ってきた。
「リアちゃん!来てくれたんだね……って、お茶会は?他のお嬢さんまでいるし。」
「そのうちわかるわよ。」
「へー。まあいいや。リアちゃんが来てくれたなら。」
遠くできゃあきゃあと黄色い声が聞こえる。
ご令嬢たちにウインクを飛ばす彼。
ユーリハルト・レイノルドは公爵令息である。
私より3歳ほど年上なのに婚約者の一人も作らずに遊び歩いているいわゆるチャラ令息(命名は弟)なのだ。
本人は「運命の人がいるから」と言っているんだけど、そんな人聞いたことないし。
誰なんだろ。
もしかして平民?
独り言でそうつぶやいたら父に可哀想なものを見る目で見られた事がある。
とても失礼だと思う。
気づいたらハルは訓練に戻っていた。
私がしばらくそれを眺めていると、腰に衝撃がはしった。
「姉様ぁ!僕寂しかった……。」
弟のギルバート・カサブランカだ。
うるうると目に涙を溜めて庇護欲をそそる。
ちなみにこの涙が嘘であることは知っている。
こう見えて、弟はしたたかなのだ。
ただ、ここで冷めた対応をしたら面倒なことになるので、
「姉様も寂しかったわ。」
と返す。
弟は上機嫌なまま私の手を引いた。
馬車の中で今日のことを話すと、案の定ギルは激怒した。
「姉様を無視して平民女を城の茶会に呼ぶとか有り得ない!!婚約者候補はお父様とお母様に頼んで辞退しよう?」
「そうね。お願いできるかしら?」
「姉様のためならもちろんだよ!」
弟はシスコンである。
それはもう過保護で私にひどく甘い。
婚約者も居らずハルには「ヤンデレ弟」と呼ばれている。
お互いによくわからないあだ名をつけるあたり二人は似たもの同士だと思うのだが、一度そう言ったとき二人に怒られたので言わないようにしている。
私は頭の中でくだらないことを考えつつ、弟の話を聞き流した。
数日後、婚約者候補の話は白紙となり、ルートヴィヒ殿下は平民と結婚、実質的に皇族から追い出された。
新しい皇太子は弟のリヒテンシュト殿下になったそうだ。
アンジェリカ様は幼馴染みで宰相の息子のアレクシス様と婚約したらしい。
リリアナ様は隣国の王太子に見初められたと聞く。
ちなみに私はというと……。
「リアちゃん、俺と婚約しよ?」
「姉様は渡さない!!ずっと僕が養ってあげるんだもん!!」
何故かハルとギルに迫られている。
「いい加減にしてちょうだい。ハル、貴方はただでさえ勘違いされやすいのだから、変なこと言っちゃ駄目よ。ギルも、将来公爵夫人となるご令嬢に失礼でしょう?」
私がそう言うと二人は顔を見合わせた。
「まさか、リアちゃんは俺が本気じゃないと思ってるの?君は俺の運命なんだ。俺が一生をかけて幸せにしたい唯一なんだよ。」
「姉様、僕を捨てるの?……やっぱり姉様は僕が嫌いなんだ!!ずっと一緒って言ったのに!!僕は生まれてこなきゃよかったんでしょ?!」
見たこともないような優しい目で私を見つめるハル。
目から光を失い、叫ぶギル。
私は一言つぶやいて、天を仰いだ。
「如何してこうなった!!」
鈍感、勘違いされる系悪役令嬢。
チャラい遊び人なロマンティストヒーロー。
シスコンこじらせたあざとい腹黒弟。
ドリル装備の典型的悪役令嬢。
転生悪役令嬢のような完璧令嬢。
行き過ぎたマザコンの無表情標準装備な皇太子(二つ名のソースはお酒)。
図々しい平民ヒロイン。
で、お送りいたしました。