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第7話 マキシマム・ベット・モンスターズ

第7話(最終話) マキシマム・ベット・モンスターズ


 ジョージは新たに現れた女性型の巨大エイリアンを見る。

 既に涙は止まっている。スーツの機能で浄化済みであり、視界がぼやけることも無い。


「ふん。エクストラ・ラウンドか。気に食わんな」

「今までよりもヒョロいヨ! 楽勝だネ!」


 くるくる飛び回るティンカーベル。そのお気楽さに、ジョージの心は落ち着きを取り戻す。

 今さらながらこのAIの姿と口調はフジモトの趣味だろうか。帰ったら聞いてみよう。

 ジョージがそんなことを思っていると、女性型エイリアンが地をけり、タイタン・オブ・スティールへと猛然と向かってくるのだった!

 ジョージは目を見張る!


 人間的な正しいスプリントフォーム!! 早い!!


「ナックル・フレイル! ファイア!」


 ジョージは右腕を上げながら叫ぶ!


「ラージャ!」


 ティンカーベルの声と共に発射される右拳!


「……」


 だが、それは少しばかり上半身を傾けた女性型エイリアンによって、いとも簡単に避けられてしまうのだった。


「何!? うお!?」


 しかも避けられたばかりか、伸びきったチェーンを掴まれてしまう! エイリアンは地面を滑るようにブレーキをかけると、体を反転させながら、チェーンを引っ張ろうとする!


「くそっ、ナックル回収!」

「ラージャ!」


 ジョージは叫ぶが、その判断は一瞬遅い! 逆に、ナックル回収巻き上げ機構の反動も手伝い、タイタン・オブ・スティールの体が前へと泳ぐ格好になってしまう!

 その機に合わせ、女性型エイリアンはチェーンを更に引っ張る! タイタン・オブ・スティールは前のめりに倒れてしまうのであった! 無様!


「……」


 女性型エイリアンが……飛んだ!? 巨体とは思えぬ、凄まじいジャンプ!! そして、落下時に膝を立て、タイタン・オブ・スティールの背中へと突き刺す!


 ガッゴォォォォン!!


 揺れる機体! 背中の装甲がへこんでしまっている!


「うおぉぉぉぉ!?」

「損傷率27%! ヒョロいけどテクニシャンだヨー! ウエーン!」

「く、姿勢を!」

「あ、ヤバ! 足取られてル!」

「次から次へと!」


 女性型エイリアンが次に仕掛けた攻撃は……こ、これは!? アンクル・ホールド!!??

 バックを取ったエイリアンによるプロレス式足首固め! ミキミキとタイタン・オブ・スティールの関節が悲鳴を上げる!

 これが人間なら、ここでタップ。試合終了だろう!


「甘い! キャタピラー・チェック!」

「ラージャ!」


 だが、相手は人間ではなく、タイタン・オブ・スティールなのだ! エイリアンが掴んでいたすねのキャタピラーが高速で回転!


「!?」


 女性型エイリアンの皮膚を削り飛ばしながら、その拘束から逃れる!

 思わずたたらを踏み、後ろへと下がるエイリアン! 立ち上がるタイタン・オブ・スティール! 勝負はまだまだこれからだ! 再び相対するジョージと女性型エイリアン!


「……?」


 だが、そこでジョージは違和感を覚える。


 傷が治っていない?


 エイリアンの再生能力は並みではない。生半可な攻撃など、すぐに治ってしまうのだ。だから全ての一撃が必殺のタイタン・オブ・スティールが建造された。

 だが、今の相手はどうだ?

 たかが、キャタピラーによって削り飛ばされただけなのに、悶え苦しみながら、緑の血をだらだらと垂らし続けているではないか。


「……ジ…………ジ」


 エイリアンは悶えながらも、何かをぶつぶつと小さく呟いている。これもおかしい。エイリアンが上げるのは汚らわしい咆哮しか無いはずなのだ。


 その時、ジョージの背筋に、ぞくりと悪寒が走った。


「……ベル。指向性収音マイク。あのエイリアンの言葉を拾え」

「脈拍異常。落ち着いテ!」

「いいからやれ!」

「ラージャ!」


 ティンカーベルに言われなくてもわかっている。心臓が早打つ音が頭の中に響いているのだ。

 あぁ、どうか、どうか、それだけは、どうか。

 ジョージは祈る。

 マイクが拾った音が操縦ルームに流れる。


「……ジョージ……」


 ジョージの目に、女性型エイリアンと、愛する女性の姿が、重なった。



「うわぁぁぁぁっ!!」


 ジョージは叫んだ!! 彼は全てを理解した! してしまった!


「うわぁっうわっうわぁぁぁぁぁっ!!!」


 目の前の女性型エイリアン。それが、それこそが!


「くそっくそっ! 貴様らぁぁぁぁぁっ!!!」


 20年以上も前にUFOによってアブダクションされた悲劇の女性!


「このクサレエイリアン共がぁぁぁっ!!! 殺してやるぅぅッッ!!!」


 そして、ジョージの最愛の人、『キャサリン・エリーチカ』、その成れの果てであるということに!!!


 女性型エイリアン……いや、キャサリンは地を蹴り、再びジョージへと迫るのであった。



 ガッコォォン……


 キャサリンの拳が、ジョージの顔面を捉える。


 ガッコォォン……


 キャサリンのローキックが、ジョージの左脛を捉える。


 だが、ジョージは半狂乱でわめいた後は、まるで魂が抜かれてしまったかのように、項垂れたまま何もしなくなってしまった。

 そんな彼の視界の周りをティンカーベルが心配そうに飛び回る。


「反撃しテ! このままじゃやられちゃうヨ!」

「俺には、俺には出来ないよ……キャシー」


 揺れる機体。操縦ルームの明かりが赤く染まる。機体の限界が近づいてきたのだ。

 ティンカーベルがジョージの顔の前に張り付く。


「馬鹿! バカバカ! あなたは何なノ! ここでやられるためにパイロットになったノ!?」

「俺はただのジョーさ、チンケで、意気地なしの、ただのジョー……」

「違う! そんな人を、ここに立たせようとする人なんて、誰もいない! もう一回聞く! あなたは何なの!!」

「俺は……」


 自分の幸せを捨ててまで協力してくれた、メアリー。

 何年もの間、才気の全てを費やしエイリアンの生態を調べ、U.S.A.のために働き続けた、アメリア。

 タイタン・オブ・スティールの建造に全人生を賭けてくれた、友のフジモト。

 若きライバルのマイケル。それにここまで自分へと惜しみない協力をしてくれた人物達の顔が浮かんでは消えていく。

 その人達の思いを受け、今ここにいるのは、誰だ? ただのジョーなのか?


 そうだ。


「そうだ」


 俺は。


「私は!」


 ジョージは叫ぶ!!


「U.S.A.のトップオブトップ!! 第47代大統領の『ジョージ・バリトン』だ!!!」


 ジョージのブラウンの瞳が輝きを取り戻す!

 そして、タイタン・オブ・スティールのデュアル・アイも強い輝きを放つのであった!


「ブースト・ナックル!」

「ラージャ!」


 力を取り戻したタイタン・オブ・スティールがロケット加速のついた左腕をぶん回す!!

 女性型エイリアンは大きく飛びのき、それを回避した! なんという反応速度!


「キャシー……私は、私は! 君を倒す!!」


 ジョージ! 復讐鬼としての仮面を捨て、今は! 大統領として! ここに立つ!!!!



「フラット・パイル・インパクト、セット!」

「ラージャ!」


 叫ぶジョージ! タイタン・オブ・スティールの右腕に注目だ! 前腕が肘を中心に回転しはじめ、肘先を前、手を後ろに完全に反転させたところで止まった!


 ガッコォォン!!


 そして、右前腕が勢いよく後ろへと伸びる!


 フラット・パイル・インパクト。

 巨大前腕は実はそれ自体が巨大なパイル・ドライバー機構になっている。


「ジョージィィィィィッッ!!」


 叫びながら迫るキャサリン!!

 キャサリンに向け、ジョージは空洞になった右前腕肘先を突き付ける!!


 腕の中に仕込まれた389トンにもなる巨大なパイルを電磁力によって超加速!

 丸ごと打ち出し敵を叩き潰す!


「ファイア!!!」

「ラージャ!」


 正に、タイタン・オブ・スティールの必殺中の必殺の一撃!!!


 ジョージの頬に熱い涙がしたたり落ちる。


 ドッゴォォォォォォォォォォォン!!!!!


 大気が揺れるほどの凄まじい衝撃。そして、静寂が訪れた。



 ジョージはヘルメットを脱ぎ、外へのハッチを開けた。

 ジョージは梯子を伝い降りてゆく。そして、荒れ果てた大地へと立ち、上を見上げる。


 そこには機能を停止した、タイタン・オブ・スティール。それに、極太のパイルに胸を貫かれ動かなくなった、キャサリン。

 ジョージは微笑んだ。


「キャシー。見ろよ。この晴れ渡る青空」


 キャサリンは答えない。


「こんな晴れた日が続けばトウモロコシが旨くなるんだ。晴ればっかじゃ駄目だけどな。今年は運がいい」


 キャサリンは答えない。


 ジョージはパイロットスーツを緩めると、胸元からネックレスを取り出した。


「晴れの日も雨の日も曇りの日も、君とずっと一緒に過ごせていけたら、と思う。君となら上手くいかない時だって乗り越えられるって思うんだ」


 そのネックレスには指輪がついていた。あの時渡せなかった、婚約指輪。


「キャシー。俺と、結婚してくれ」


 キャサリンは答えなかった。



*ENDING*


『小さな願い』

作詞:熱湯ピエロ


『僕は君にぞっこんなのさ

 きっと君が産まれる前から君を愛する運命だった

 僕の命の全ては君ってことだよ』


 ジョージ・バリトン…本作悲劇の主人公。あばれはっちゃくの大統領。

 キャサリン・エリーチカ…本作悲劇のヒロイン。彼女の魂よ、安らかに。


『だから君が些細なきっかけで

 僕の手の届かない所に行ってしまったら

 僕はどうすればいいかわからなくなった』


 メアリー・エリーチカ…キャサリンの妹。ジョージの元妻であり、理解者。


『毎日薔薇を飾ることにしたよ

 君が好きだった真っ赤な薔薇さ』


 アメリア・ベックマン…エイリアン生態研究の第一人者。クールな女性。


『君が戻ってくれるなら

 僕の全てと引き換えにしても構わない』


 ヴィクトル・藤本…タイタン・オブ・スティール建造のCE。お茶目な老紳士。


『そして、この薔薇を見て

 僕のことを1秒だけでも思い出してくれたら

 それで十分なのさ』


 マイケル・デイビス…将来有望な若き軍人。イケメンである。

 ジグとダンカン……マイケルの部下。そして、友人。


『小さな願いだろ?

 きっとこれなら神様も叶えてくれる』


 タイタン・オブ・スティール…巨大人型兵器。絶対強い。

 ティンカーベル…タイタン・オブ・スティールのサポートAI。可愛い。


『戻ってきておくれ愛しい人

 薔薇の前で僕は願い続ける』


 各国首脳陣…友情出演


『いつまでも いつまでも』


 クソッタレなエイリアン共…本作の敵。大きさは様々。


『いつまでも』



マキシマム・ベット・モンスターズ・ゼロ THE END ……?



 ………………

 …………

 ……


 マイアミ。戦闘後の更地となった街。

 涙を流し、佇むジョージの上空で、ふいにノイズが走る。

 そして……空が真四角に切り出され、巨大なビジョンが映し出された。



 不思議に思った方も多いだろう。

 人類はエイリアンの襲撃時間を正確に把握していた。何故か?

 人類は巨大エイリアンが襲撃に現れると分かっていた。何故か?

 人類は宇宙への退避を選ばず、地球上のシェルターへの避難を選んだ。何故か?

 答えは簡単だ。


 『知らされていた』から。


 襲撃時間も、巨大エイリアンの侵攻も、逃げ場など宇宙のどこにも無いことも、全て。

 誰から?

 愚問ぐもんである。それらを知り得るのは、当のエイリアンをおいて他にはいない。

 目的は?

 これは始めから……ただのゲームだったのだ。

 人類の生き残りがかかっているだけの、ただのゲーム。


 そして……



「合格、合格、ごう、かぁぁぁーく!」


 上空のビジョンから響き渡る耳ざわりな声! 宇宙空間をバックに三本の角、三つの目、四本の腕を持つエイリアンの姿がデカデカと映し出される! そいつは三つ目全てにかかる特異にとがったサングラスをキラリと光らせた!

 茫然とするジョージの元へ、混乱気味な通信が次々と入ってくる!

 この映像はU.S.A.上空だけに映し出されているわけではない。なんと世界各国に現れているというのだ!

 エイリアンは三つ指を拳銃のように立てて、四本の腕全てで正面を指した。


「君たち地球人は見事『マキシマム・ベット・モンスターズ』の参加者となりましたぁ! はい、拍手ぅ!」


 間抜けな効果音と神経を逆立てる笑い声!


 あぁ、全ての悲劇など、奴等にとっては小指の先ほども興味が無いのだ。

 ジョージは歯を食いしばり口元から血を流す!

 ビジョンは語る。今までのことは全て、地球人類に『見世物』となるまでの力をつけさせるための、ただのお膳立て(プレパレイション)だと。


 これは始めから……ただのゲームだったのだ。

 人類の生き残りがかかっているだけの、ただのゲーム。

 そして、ゲームの本番は、今! 正に! これから!!


 ジョージは喉も張り裂けんばかりに叫ぶ! 憎しみに顔を歪め、口からは血反吐を吐き!


「いいだろう! 気が済むまでお前達の手のひらで踊ってやろう! だが、お前達は思い知る! 手の上で踊っているのは致死の毒を持つ、蠍だと!!」


 聞こえているはずのない叫び。だが、それでも叫ばずにはいられなかった。


「待っていろ、宇宙のゴミ共!! 例えこの身が滅ぼうと、最後に笑うのは私だ!!!」


【マキシマム・ベット・モンスターズ 終わり】


【マキシマム・ベット・モンスターズ・ゼロ 完】


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