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第5話 プレジデント・メイクス・ア・サリー・アット・ドーン

第5話 プレジデント・メイクス・ア・サリー・アット・ドーン


 カツカツと高らかに革靴を鳴らしながら、バッチリとしたスーツ姿のジョージが颯爽と長い廊下を歩いている。廊下は明度の高い白熱灯で照らされ無駄に明るい。

 彼の後ろには、フジモトを始めとした物々しい雰囲気を発する人物が数人付き従っていた。そんな中の一人、軍服姿の恰幅の良い初老の男が口を開く


「大統領。U.S.A.国内の市民の避難率、74%との報告です」

「少ないな。混乱でも起きているのか」

「えぇ。多少の暴徒と、信心深いユダヤ教徒。そして、エイリアン友好派の団体がやはり」

「軍事力を以て強制的に退去させろ。命令だ」

「イエッサー」


 軍服の男は敬礼をすると、列から離れた。

 真っすぐ前を見て歩く大統領。会話をしながらも、その足を止めることはない。


「フジモト。『タイタン・オブ・スティール』の仕上がりはどうだ」

「仰せの通り調整済みです。大統領閣下」

「素晴らしい。感謝する」

「どういたしまして」


 フジモトが頭を軽く下げる。

 ジョージは立ち止まる。扉(ものものしい頑丈そうなスライド式の鉄扉)の前に来たのだ。彼は首元から下がった、特別権限を持つカードキーを脇にあるリーダーに当てた。


 空気の排泄音を立てて、堅牢な扉がスライドし、開く。


 彼は目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。そして、息を吐きながらブラウンの瞳で目の前のモノをしっかりと見据えた。



 時は唐突に巻き戻り、5カ月前である!

 場所はホワイトハウス! オーバルオフィス!


 座り心地のよさそうな椅子にゆったりと座り、執務中のジョージ。

 すると、オフィスの扉がノックされるや、返事の間もなく白衣のフジモトが入ってきた。

 すまし顔で直立するフジモトに、ジョージは呆れたように首を竦める。


「フジモト。確かに私が呼んだのだが、仮にも私は大統領だぞ」

「大統領閣下に余計な労力を使わせまいと思いまして」

「口の回る男だ」


 フジモトは大仰に頭を下げた。


「それで、閣下。どのようなご用件で?」

「あなたを呼ぶ時の用は一つだけだ」

「えぇ、その通り。そして、回答はこうです。無事、完成しました」

「なに!?」


 ジョージが執務机に両手をバンと叩きつけ、勢いよく立ち上がる!

 フジモトは笑みを浮かべると、ジョージの前まで進み出て、分厚いA4用紙の束を机の上に几帳面に置いた。


「これが、完成報告書です」

「そうか! 遂に!」


 ジョージは興奮を隠そうともせず、紙の束を勢いよく掴み、少年のように瞳を爛々と輝かせながらパラパラとめくり始めた。


「UPエンジン、E・P・A・S。ついにモノになったか!」


 だが、興奮するジョージに対して、フジモトの顔つきは険しい。


「アンノウン・パーティクルエンジン……回収されたUFOの技術を流用した動力。欠陥がある上にブラック・ボックスの部分が多すぎる、技術者として言わせていただくなら、とても実戦に投入できる代物ではありません」

「使用可能ならば問題ない」

「えぇ。あの質量とパワーを満たすには、それしかなかった。ですが」


 フジモトは苦々しく顔を歪める。


「大統領閣下。どうしても自身で乗るおつもりですか?」


 ジョージは資料をめくる手を止める。そして、体をフジモトへと向き直し、真剣な眼差しで彼を見据えた。


「あの動力源近くでの長時間活動は生命に危険が及ぶことは知っている。この資料によると、専用パイロットスーツ着用下でも1時間が限度。だが、それがどうした。十分だ。十分すぎる。私はこの1時間のために、20年もの間もがき続けたのだ」

「……今からでも遅くは。パイロットは他の者」


 パンパン、と手の甲で資料を叩く大統領。彼はフジモトに微笑んだ。


「フジモト。スペックが並ぶのはいいが、どうもこうイメージがわかないな」


 この話はこれで終わり。ジョージの態度がそう言っていた。説得の無駄を悟り、フジモトはため息をつく。


「と申しますと?」

「フランス。トライアンフォル・アーチ」


 ジョージの言葉に、一瞬あっけにとられるフジモト。少し遅れて、呆れたように笑う。だが、彼のそういう所が、一人の友として、フジモトは大好きだった。

 フジモトは咳払いし、答える。


「一撃ですな」

「ジャパン。タワー・オブ・トーキョー」

「一撃ですな」

「U.S.A.ザ・スタチュー・オブ・リヴァティ」


 おっと。ひっかけ問題。


「ステイツの象徴は決して砕けません」

「グレイト。で、実際は?」

「一撃ですな」

「パーフェクト」


 二人の笑い声が、オーバルオフィスにしばし満ちる。

 それは確かに、優しく穏やかな時間であった。



 時は戻り、現在!!

 厳重なセキュリティに守られた分厚い扉。そこを通り現れたモノとは!


 ジョージは見上げる。

 彼の視線の先、そこにあるのは黄色く輝くデュアルアイが眩しい巨大な頭部。

 全体にほどこされたブルーとレッドのメタリックカラー! ホワイトの胸に光る47の星が形成する巨大な星がU.S.A.の魂を彷彿!!

 あぁ、それは、それこそは!!


 対巨大エイリアン! 人型決戦兵器!!


「タイタン・オブ・スティール。目覚めの時だ」


 ジョージは振り返る。そこにあるのは巨大なデジタル表記の時計。

 いや、時計ではない。表示されている数字が段々と減っているのだ。

 これは、そう……カウントダウン。

 人類への審判までの残された時間。

 その表示が、残り6時間を切った。



 対巨大エイリアン人型決戦兵器『タイタン・オブ・スティール』。

 それこそ、全高が最大60mにもなると言われる巨大エイリアンのため、U.S.A.が総力を結集して造り上げた、最強の兵器である!

 その全高、実に66m!! 総質量は2460トン! 規格外の巨大さだ!

 大きさだけでも目を見張るに値するのだが、特徴は何と言っても『腕』であろう!

 全体のシルエットは足の太いヘビー級のボクサーのごとく、洗練され、かつ安定感があるのだが、人間でいう前腕ぜんわん部分だけが異常にデカい!!

 肘からも大きく飛び出した格好の前腕は、もう何というか、肘先に200Lドラム缶を真ん中からつけてハンマーみたいにした人間のように、いびつ!!

 両腕がそんな状態なのだ。これ歩けるの? と思わず問いただしたくなってしまう。


 しかし、安心したまえ! 問題はない!!!


 心臓部に使用される『UPエンジン』。その出力たるや、同一規格の原子力エンジンに対して、なんと5倍! これだけの大きな物体を長時間かつパワフルに動かしても、余りある出力。そして、息切れを起こすことも、決して無い!!

 正に、これこそ、人類の切り札というにふさわしいだろう!!!



 カウントダウンが、残り3時間を切った。



 星条旗の意匠を取り込んだパイロットスーツに身を包んだジョージが、操縦ルームへと入る。

 タイタン・オブ・スティールの操縦ルームは腹部の辺りにある。何故『操縦席』ではなく、『操縦ルーム』なのかというと、席が存在しないからだ。

 そう、タイタン・オブ・スティールは立って操縦するのである。

 どのように? それを為すのが『E・P・A・S』である。

 ジョージが近未来的なネオン街のような明かりが満ちる操縦ルームの真ん中に立つと、太い金属アームとパイロットスーツがジョイントし、ジョージの腰ががっちりと固定された。


 エレクトリック・パンタグラフ・アシスト・システム。

 今ジョージが着用しているパイロットスーツには全身に配線が通っており、操縦者の動きとタイタン・オブ・スティールの動きを連動させる働きを持っている。

 つまり、ジョージは文字通り、手足のようにこの巨大ロボットを操ることが出来るのだ。


 ジョージは天井からぶら下がったフルフェイスのヘルメットを被る。それもまた、パイロットスーツにしっかりとジョイントした。

 耳の辺りにあるボタンを押すと、ジョージの視界はまるで自分の目で見ているかのような外の景色を映し出した。そして、視界の端から透き通った4枚の羽根を持つ可愛らしい妖精が現れる。


「ハーイ。ワタシは『ティンカーベル』。サポートAIよ。よろしくネ!」


 心地の良い声で妖精はそう言うと、光の帯を残しながら円を描くように飛ぶのであった。



 ………………

 …………

 ……


 ピッピッピッ。


 ゴーン。ゴーン。ゴーン。


 重低音が施設内に響き渡る。

 カウントダウンが『00Y000D00H00M00S』を表示したのだ。



 フロリダ州。マイアミビーチ。

 まだ地平線から太陽が顔を出していないくらいの明け方。

 破れたタブロイド紙が宙を舞い、人気のない道路を転がっていく。

 オープンテラスの喫茶店のテーブルに残された、飲みかけのグラスの前をそのタブロイド紙が横切っていった。


 カタカタカタ……


 グラスが揺れる。地震だろうか?


 カタカタガタ、ガタン! ガタタン! パキーン!!


 揺れは加速度的に大きくなっていき、遂にグラスは倒れ、地面へと転がり落ち、砕ける!


 ザパパーン!!


 おぉ! 数多くの観光客を魅了してきたビーチを見よ! 大きな津波が押し寄せ、一瞬にして波がその美しき光景を破壊してしまった!

 だが、見るべきはそこではない。

 津波と共にマイアミへと上陸した者がいる。

 冒涜的な顔。強靭な二股の尾。巨大な体躯。


 それは、40mは超えるだろう、巨大なエイリアン……達。


 そう。それは一匹や二匹ではない。その数、なんと六体!


「「ギィヤオォォォォォ!!!」」


 悪魔の咆哮。


 定刻通りに地獄が溢れた。



 同時刻! ワシントンD.C.ペンシルベニア通り1600番地!

 そう! ホワイトハウスである!!


 ダッダババ ダッダババ ダババ! ダッダババ ダッダババ ダババ!


 無人の庭に勇壮な音楽が鳴り響く!


 どこからだろうか。元を辿っていくとそれはメインハウスから流れて……

 な、なんということだ!! 見たまえ!!


 ホワイトハウスが! 真っ二つに割れ! 左右へスライドしていく!


 そして、その下から雄々しくリフト・アップするは、巨人『タイタン・オブ・スティール』!!!


 そう! タイタン・オブ・スティールが格納されていた施設は何と、ホワイトハウスの地下だったのだ!!

 U.S.A.の象徴とも言える施設にこのような悪魔じみた改造を施してしまうとは。

 神をも恐れぬ所業とはこのことか!!


 操縦ルームのジョージへと通信が入る。フジモトからだ。


「大統領閣下。巨大エイリアンはマイアミへと現れたようです」

「どれくらいで着ける?」

「1時間20分で到着させてみせます」


 フジモトの力強い言葉。ワシントンD.C.とマイアミ間の距離は約1500km。これを80分で運ぶとなると実に音速近い速度が必要である。この巨大な代物をどうやって……見ろ! 完全にリフト・アップしたタイタン・オブ・スティールを!! 背中と両腕に巨大なロケットが装備されているではないか! ま、まさかこれで!?

 フジモトは笑う。


「ただし、目的地への片道切符です。ご覚悟はよろしいですか」


 ジョージも笑った。


「とんだエアフォースワンだ。サービス・ドリンクはあるのか」

「出発前に自動販売機で買っておいて下さい」

「もう遅いじゃないか」


 ジョージは片眉を吊り上げる。


「ハッハァ!! なら、さっさと終わらせて買いに行くとするか!」

「えぇ。そうして下さい。……大統領閣下。ご武運を」


 通信が切れる。そして、ジョージのバイザーにカウントダウンが映し出された。


 スリー。ツー。ワン。ファイア。


 両腕のロケットが点火し、大量の白煙を吐く!!!

 巨体がまずはゆっくりと浮き上がり……そして、一気に上空へと舞い上がった!


 巨大なロボットが飛ぶ! 大空を!!

 乗るはU.S.A.のトップオブトップ! 第47代大統領『ジョージ・バリトン』!!


 空が朝焼けに染まり、タイタン・オブ・スティールを赤く照らした。


【プレジデント・メイクス・ア・サリー・アット・ドーン 終わり】

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