十五夜、お月様、僕と彼。
にゃんたですにゃฅ^•ω•^ฅ
月を見て思いついた即興小説につき、誤字などあるかもですが、大目に見てやってください(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)
「…おい、大丈夫か?」
肩を揺すられて声をかけられた僕は、はっと我に返る。
目の前には、心配そうにこちらを伺う幼馴染み兼友人の圭ちゃん。ちょっと口は悪いけど、明るくて優しいクラスの人気者だ。
「あ、圭ちゃん。僕、今何してた?」
「さっきから俺が何回も声掛けてるのに、ぼうっとしてたな。窓の外見て呆けてたぜ?なんか気になるもんでもあったのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…うーん、なんでもないよ。」
「なんだよ、変な奴だな。そんなことより、もうHR終わったぜ?部活行かねぇの?」
「行くよ。圭ちゃんこそ、陸上部行かないの?」
「俺んとこは休みだ。生憎の天気だしな。」
空はどんよりと曇っており、さらさらと砂が落ちるように細かな雨が降っていた。
圭ちゃんの所属する陸上部は外で練習があるため、もちろん休み。それとは逆に、僕の放送部は屋内で活動するので、もちろん今日も活動があるのだった。
「圭ちゃん、今日のお昼の放送聴いてた?」
僕ら放送部は、行事の司会進行やお昼の時間に皆が楽しめるような放送をするのが部の活動だった。
お昼の放送は、学年で持ち回りで、今週は僕ら2年生が担当だったのだ。そして今日は2年生の中でも、僕が考えた内容の放送だった。
今日は、中秋の名月が見られる。つまり所謂「十五夜」だった。だから、放送も十五夜に因んだ内容にしたのだが、「皆が楽しめるような」というコンセプトとは少し違ったかもしれない。
「あぁ、聴いてたけど。今日は十五夜なんだろ?雨で残念だったな。」
優しい彼らしく、僕が作った放送だと知って真面目に聴いていてくれたみたいだった。
僕は、天文学が好きだ。
空や星を眺めるのも好き。
家の部屋には、いつも望遠鏡があるし、流星群なんかのイベントがある日を毎日チェックしてる。
そんな訳で僕の趣味は、天体観測なわけだけど、月だって例外じゃなく僕の興味の対象だ。
今夜の中秋の名月も、ずっと楽しみにしてた。
お団子も買ってあるし、外で夜に天体観測をするための親の説得だって済んでいる。
問題があるとすれば、天気だけだった。
ふと、1人で月を眺めるよりも圭くんと見た方が綺麗に見えるかな、と思った。
ほら、良く言うじゃない?美味しいものは誰かと食べたらもっと美味しいって。だったら同じかなと思ったんだよね。
「そうだね。でも、天気予報では夜には晴れる予定だよ。ねぇ、圭ちゃん。夜、月を見に行こうよ。」
「別にいいけど…どこに?」
「学校の裏の丘だよ!だって家じゃ、つまらないでしょう?僕達の家近すぎだし。ね?いいでしょ?僕んちの親は、夜の天体観測もう了承済みだから!」
「わーったよ。ほんとお前は言い出したら聞かねぇな。何時に来るんだ?」
「ほんと?いいの?やった、楽しみっ!今日は放送部行かなくていいや。えーと、このまま一緒に帰って用意して一緒に来ようよ!」
かくして、僕は圭ちゃんを誘って、一緒に十五夜お月様を拝むことになったのだった。
僕と圭ちゃんは、隣同士並んだそれぞれの家に一緒に帰った。僕はお弁当箱にお団子を詰めて、タレも色々用意した。
そして、夜。
7時頃、唯一懸念していた雲は晴れていた。
僕は窓を開け、隣の家の手を伸ばせば届く位置にある窓に声をかけた。
「圭ちゃーん。もう準備できたぁ?そろそろ行こー?」
声をかけてから10秒くらい経った時、がたがたっと音がした後、窓が開いて、圭ちゃんが顔を出した。
「わ、わ、っと。よ、雪。そろそろか?声掛けてくれてただろ?お前が持ってく望遠鏡とかの重い物持ってやれって、母さんが。とりあえず、こっち来いよ。一緒に行くんだろ?」
窓から窓に移って圭ちゃんの部屋に入ると、少し散らかっていて、クローゼットの中が何かを探したあとみたいになっていた。
圭ちゃんは、少し大きめのバッグを用意してくれていた。それが僕の望遠鏡を運ぶためだと聞いて、天体観測がより楽しみになった。
「圭ちゃん、それじゃ行こっか?」
学校につくと、門は閉まっていたが施錠されていないことはわかっていたので、そのまま門を開けて中に入った。
そのまま裏手の丘に行く。
丘の上にレジャーシートを敷いて、そこに寝転がって望遠鏡とかも使いつつ空を見上げる。
月。
銀色に輝くまんまるに近い月。
ぽわんと雲に霞む月。
今年の十五夜に、月は満月にはならない。
元々、中秋の名月というのは、「中秋」つまり旧暦で秋とされる7〜9月の真ん中で8月15日の月のことだ?しかし、太陽暦の1年と地球の公転周期のズレや、月の公転の周期などの要因を理由に、十五夜に月が満月なる、という現象は稀にしか起こらないのである。
どうでも良かった。
満月か、欠けているかなんて。
僕らは仄暗い夜の学校の敷地内、二人並んで寝転がって空を見上げている。僕と圭ちゃんと2人で。
「綺麗…圭ちゃん、お月様、綺麗だねぇ…」
「…月が綺麗ですね、か。」
圭ちゃんが呟いた言葉は、僕の耳には届かなかった。
僕らは飽くことなく月を見上げ、お団子に舌鼓を打った。お団子を食べ終わった後も、僕はなんだか月から目が離せなかった。
圭ちゃんが横で、僕が持ってきた物や望遠鏡を仕舞い始めているのは、気配で分かっている。
それでも目が離せない。
一瞬でも目を離したら、あの美しくも儚い月がどこかへ消えてしまいそうで。
僕の目から雫が零れ落ちた。
銀色に光った月の欠片だった。
僕は、元々、スポーツが大の得意だった。
圭ちゃんは陸上部だけど、僕はずっとサッカー部でレギュラーだったんだ。
しかも、この高校にもスポーツ推薦で来たくらいだ。
サッカーが大好きだったし、陸上部で頑張っている圭ちゃんを見る度に僕も頑張ろうって、思った。
実は圭ちゃんは僕よりも、1歳年下なんだ。
圭「ちゃん」と呼んでいるのも、小さい頃に年下の圭ちゃんを可愛がっていた名残。
僕が今圭ちゃんと一緒に高校2年生をしてるのは、高校1年生の時に交通事故に遭ったから。
当時受験生だった圭ちゃんが、高校を見学に来ていて、部活動をしていた僕を待って一緒に帰っていた時だった。
圭ちゃんは、僕と同じ高校に陸上の推薦で入れるかもってはしゃいでいた。
夏の、暑い日だった。
青い蒼い空に、白く、燃え尽きた灰のような月が、ぽつんと浮かんで。
圭ちゃんが僕の方を見て、『やっぱり、雪兄はかっこいい!脚だけであんな風にボールが自由自在に動かせるなんて!』なんて、僕のサッカーを褒めた。
後ろを向いて話しながら歩いていた圭ちゃんは、交差点に差し掛かっていることに気付いていなかった。
その時の僕はと言えば、褒められたのが照れ臭くて、俯き気味に歩いていた。
だから、気付くのが遅れてしまったんだ。
圭ちゃんが知らず入ってしまった交差点に、速度の速い車が向かってきていることに。
その車が圭ちゃんを、今にも、撥ねてしまいそうになっていることに。
僕の頭の中は真っ白だった。
圭ちゃんの手を引く。
圭ちゃんは驚いて声をあげるけど、その音は聞こえない。
圭ちゃんの手を引いた勢いのまま、僕には反動で動いてしまう身体を止めることは出来なかった。
何が起きたか分からなかった。
本当に無我夢中だったから。
守らなきゃ、って。ほんとにそれだけで。
たぶん、キキィーっていう、甲高くって耳障りな音がしたんだと思う。
圭ちゃんが愕然とした表情で、こっちを見てる顔が見えた。
視界は空。
白い灰みたいな月が、僕を冷たく突き放した。
圭ちゃんを撥ねそうだった車は、僕が倒れ込んだ時にはタイミングが少しズレて、僕の脚を巻き込んで、身体を数十メートル引き摺ったらしい。
後に病院で聞いた話だ。
圭ちゃんは酷い顔色だった。
ずっと気に病んでいたらしい。
僕の脚は。
僕の、脚は、サッカーボールを蹴り上げる脚は、使い物にならなくなっていた。
歩くだけならリハビリ次第で可能かもしれない、そんなレベルだ、と。
そう、お医者さんが言った時、僕は白いあの月を思い出していた。
燃え尽きた灰のような月。
何を惹き付けることもなく、光を浴びていながらに輝くことなく死んでいるような、そんな月を。
僕は、辛いリハビリを乗り越えた。
それは単に圭ちゃんが陸上を頑張っているのを見たからだ。
あんなに悲壮な顔をしていた圭ちゃんは、高校に入ってからずっと、鬼のように勉強にも運動にも打ち込んでいるのだと聞いて。
この時思ったことは、たぶん事故に遭った時とすごく似ていた。
圭ちゃんが無理をしているのは目に見えていたから、僕は安心させてあげなきゃ、って思ったんだ。
リハビリを終えて、圭ちゃんと同じ学年で復学してからも、圭ちゃんは殆ど僕に付きっきりだった。
僕は元気いっぱいに動き回るタイプだったのが、脚のせいで一見物静かなタイプに変わってしまっていたため、圭ちゃんに憧れる人から妬まれた。
相当虐められもしたし、同情や憐れみを込めた視線を向けられることも、変な噂を流されることもあった。
でも、圭ちゃんがいてくれた。
だから、まだ僕は、生きて高校の2年生をやっている。
圭ちゃんに申し訳ないと思うことはある。
こんな僕に振り回されているんだから。
でも、これからも傍にいてね。
「月が綺麗だね」って言ったのは本気だよ。
夏目漱石だっけ?「月が綺麗ですね」を「アイ・ラブ・ユー」の意味で使ったのは。
たぶん僕の愛はちょっと違う。
家族のような愛だ。
傍にいて欲しい、それだけ。
十五夜の銀色の光に満ちた月が、僕をどうしようもなく惹き付ける。
まるで僕を圭ちゃんの元から引き離したいとでも言うかのように。
呼んでいただきありがとうございますにゃฅ^•ω•^ฅ
暗い話、ではないです(作者の中では。)