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第七話『スライムはいやらしい奴だ』

俺は今、アリスと共にノアの中を歩いている。

この街はクレアの言っていた通り、巨大な都市なようで、建物が絶えない。

あたり一面がレンガで舗装されており、街灯が立ち並んでいる。


アリスは重たそうなリュックをせっせと運んでいる。

初めは、自分で通って良いレンガの色を決めて、遊びながら歩いていたのだが、早くも疲れてしまったようだ。


「はあ、はあ、ノアから抜けるのも、一苦労ですね。」


アリスは息を切らしながら言う。


「そりゃそんな重い荷物運んでたらな。俺がストレージしてやるから、本当に必要なものだけその中から取ったらどうだ?」


突然、アリスが足を止め、その手があったのかと言うような顔をし、嬉々としてリュックから財布と、短剣を取り出す。どうやらリュックの中に入っているものは緊急時の食料と水、服類らしい。

俺も服類は持ってきたが、すでにストレージ済みだ。


「悪いですが、このリュックはストレージしてください。ちょっと持ってきすぎました。」


てへっと言いながら、俺にストレージを求める。それにしても、ストレージしたものはどこに行くんだろうか。


「わかった。まだまだ歩き初めだし、しりとりでもしようか」


「しりとり?それはなんですか?」


「しりとりっていうのはだな、適当な単語を始め言って、その単語の最後の文字で始まる言葉をつなげていくんだ。 例えば しりとり りんご みたいな。でも、パンとか、やかんとか『ん』で終わる単語を言ってしまってはいけない。言ったほうが負けになるっていうゲームだ。」


「なるほど、なかなか面白そうな遊びですね。やりましょう!」


「じゃあいくぞ、しりとり…」


「りんご」


「ゴリラ」…



――――


俺達はしりとりをしながらノアを北に進んでいく。この遊びをしながら移動するのは中学生の修学旅行以来かもしれない、高校の修学旅行は行く前にこの世界に来てしまい、やる機会がなかった。

まあ、行っていたとしたら、確実にやっていただろう。今はスマホゲーもあるが、こういうみんなできるゲームは面白いものなのだ。



「アヒル」

今俺はアリスにル攻めをしている。


「まっまたルですか!うーん、思いつかない…」


「どうだ、参ったか。しりとりでは俺のほうが一枚上手のようだな。」


「そうだ!ルーミアン…あっ…」


「はい、今『ん』で終わる単語言ったよな。俺の勝ちだ。」


結構な長期戦で、今やっとアリスがミスをしてくれた、はじめてのしりとりでここまで長く続くということは、アリスは頭の回転が速いのだろう。


「くうう…悔しいです。もうあと一歩だったのに。」


アリスが本気の悔しみを見せる。かわいい。


「だいたい、ルーミアンってなんなんだ?」


「ルーミアンを知らない人にゲームで負けたのですか。凄くショックです。」


「俺は何も知らないんだってば!そんな悲しいこと言わないでくれよ。」


「私もはじめからルを攻めればよかった…今度はクレア様とお手合わせ願いたいです。まあけどクレア様ならルで攻めても勝ちそうですね…」


そういえばクレアは研究をしているほど頭が良いのだった。アリス以上の賢さとなれば、日本で生まれてたら人生イージーモードだっただろう。アリスは学校に通っていたのだろうか。


「アリスは結構強敵だった。賢いんだな。学校とか通ってたのか?」


「いえいえ、私のような身分には学校なんて不釣り合いです。こうやってまともに生活できているだけで大満足です。」


アリスは満面の笑みで満足そうに俺に言った。この世界は賢い人材がいても、それを育成するだけの設備が整っていないようだ。


「そうか…ところでアリスは魔法は覚えているか?」


「魔法は諸事情で禁止されているのです。いろいろな魔法を覚えたのですが、非攻撃魔法か、一部の初級攻撃魔法ぐらいしか許可されていません。ストレージとか、テレポートぐらいなら使ってもいいはずなんですが、もしもの時を考えて使わないようにしています。」


どういう事情なのかは語らなかったが、メイドらしくないとかそういう理由だろう。

ノリスさんはアリスには厳しいみたいだしありえることだ。


「そういえば、私がこんな遠出するのも初めてですね。泊りがけなんて、ちょっとワクワクしちゃいます。アオト様じゃなくて、クレア様がついてこられるなら、もっとよかったんですが。」


「もうやめてくれ、とても悲しくなる。」


俺は悲壮な顔を浮かべてそう言った。お泊りはたしかに俺も久しぶりでテンションがあがるがどうせアリスとは別室だから、もしものこともないだろう。実質道中が少し長いおつかいだ。


そんなことを考えていると、目の前には結界の壁が見え始めていた。


「あっ!あれは結界ですね。あれを通り抜けてからは、命の保証はありませんよ。」


アリスは怯えることもなくそう言った。泣き虫アリスはどこに行ったのだろうか。おそらくこのお出かけで相当テンションが上っているのだろう。声のトーンもいつもより高い気がする。


「そうだな。ここからは気をつけていこう。」


結界の前につくと、覚悟を決めたように俺とアリスはコクっと互いを見ながらうなづいた。

そして結界を通り抜けていく。結界は青色で、外から中が見えないようになっている。

人間には無害なのだが、魔物がこれに触れれば、骨も残らず蒸発するらしい。

魔物の中にあるマナキューブから発せられる魔力に反応するようで、死んだモンスターなら持ち帰っても大丈夫なようだ。


「んん。結界を越えても、遠くの方に街が見えるし、やっぱりそんな危険じゃないんじゃないか?」


「いや、危険な場所はここからですよ。あの街についたら少し休憩しましょうか。」


その後少しテクテク歩いていると、スライムを見つけた。あの時とは違うことを確認したかったので、剣を抜く。


「アリス、見ておいてくれ。スライムをまとめてゼリーにしてやる。」


「アオト様、無駄な体力は使わないほうがいいのでは?」


「またどうぜ、あの街で休むんだしな、お金もほしいし。頼む。」


「…わかりました。私は遠くから見ていますね。」


アリスはその場から離れ、じっと俺を見つめている。

スライムは目の前だ。


俺は剣を構え、一気にスライムに振り下ろした。


スライムは真っ二つに割れ、赤色に変色する。

その瞬間どこからともなく、無数の赤色に変色したスライムたちが現れ、俺を囲んだ。


それらは一つにまとまり、巨大な赤色スライムが目の前に現れる。


「あの時のようにはいかないぜ。」


俺はそう告げると、手を真っ直ぐに突き出しこう言い放った。


『ライトボム!』


俺の手から高速な小さな光った玉が一つだけ放出され、スライムの中にえぐりこむ。


「こんな簡単な魔法でもお前をバラバラにできるんだぞ。」


俺がそれを言い終わった途端、その玉が数本の光の筋となってスライムから閃光の如く飛び出し、大きな音を立て爆発した。

スライムはバラバラにされて、小さくなる。今の今まで赤色だったその体色は緑色に変わり、俺から逃げようとしているようだ。


「なんで逃がすと思った。」


俺は魔剣にファイアを付与する、この剣は本当に魔法が付与しやすく、効果も持続する。


そして風魔法を唱えた。


『ウィンド!』


風が発生し、それに合わせて剣を横に振った。風に載せられた炎がスライムを焼き尽くす。

スライムは一匹残らず俺に倒され、俺のレベルが1だけ上がった。


「ハーハッハッハ!スライムを焼いてやった!レベルも6になったぞ!、フッハッハッハ!!」


俺はレベルアップのせいで変にテンションが上り、いつもとキャラが変わってしまっていた。

まあこんな日があってもいい。日本にいたころもテスト後とか、部活の試合後とかはキャラが変わっていた。


「アオト様、ちょっと様子がおかしいですよ!落ち着いてください。」


アリスの言葉で我に返り、昔のトラウマを思い出したかのように恥ずかしくなる。


「ごめん。ちょっとテンションが壊れてた。」


「レベルアップすると気分はたしかに良くなりますが、アオト様はちょっと頭がおかしい方向に高揚していますよ。」


「はい…次からは気をつけるよ…」


俺は恥ずかしくて下を向いて言った、顔をあげるとアリスは笑って俺を見ながらこう言った。


「ほんとうに、アオト様はおもしろいんですね。」


ニコニコしながらそう言ってきたので、バカにしているわけではないのだろう。

クレアにも言われたし、アリスに言われるとは思っていなかった。


「で、アリスは俺が焼いたネバネバなスライムの上を歩いているわけなんだが」


「えっ?ええぇええええ!」


アリスは俺の言葉を聞いて足を上げようとする。しかし靴は地面にへばりつき、全く離れない。


「こっこれ!本当に足が上がらないんですけど」


この世界のスライムはどこまでもいやらしい性質を持っているようだ。こんなことは図鑑にも書いていないだろう。逆に接着剤として売れるのではないか?

俺はすぐポジティブに物を考えはじめたが、アリスは違った。


「うぅぅ…これからどうしましょう。替えの靴はないし、靴下で歩くのは草がチクチクして痛いし。

石なんて踏んだら、気絶しちゃうかも…」


アリスはもう目から涙がこぼれそうだ。俺はすぐさまそのポジティブシンキングで頭を働かせる。


「そっそうだ!俺がアリスをあの街まで運ぶ、それで俺が責任をとって靴を買ってやる。それでいいだろ?」


「でもどうやって運ぶのですか。あっ封印魔法を使えたりするんですか!」


「いやそんなものは使えないけど。」


一瞬アリスの顔から笑顔が戻ったと思ったら、またこの返答で一瞬でまた泣き顔に戻る。


「じゃあどうするんですか!私にばらばらになってストレージするとでも言い出すのですか!」


「俺がアリスをお姫様抱っこしてやるよ。」


俺が初めて積極的なセクハr…、言動を見せる。


「!?、『はい、わかりました。』とでも言うと思うのですか?やっぱりアオト様は変態じゃないですか!」


「じゃあ痛いのを我慢して一人で歩くか?」


「ううう…」


アリスはしばらく黙っていたが、やがて口を開けた。


「――――します…」


「なんて?」


「――します…」


「え?」


「お願いしますっていってるんですよ!アオト様は意地悪です!」


「わかった、わかったごめん悪かったよ。」


俺はアリスを抱きかかえ、ヨイショと持ちあげる。

アリスの体温が俺の手から伝わってくる。いざ持ち上げてみると彼女は軽く、髪の毛からいい匂いがする。ショートヘアで隠れた顔は赤くなっていてこっちまで恥ずかしくなる。

女の子を抱いて歩くなんて初めてだから、無意識に緊張してしまっている。


そんな俺にアリスが話しかける。


「準備できたなら、早く歩いてください!恥ずかしくてどうにかなってしまいそうです!」


そう言われたので、俺は歩き始める。


「アリス…」

「なっなんですか。」


「アリスって女の子なんだな。」


「なッ!?、何を言ってるんですか!今度変なこと言ったら、クレア様に言いつけますからね!」


「ごっごめん!ただアリスを抱いてるとなんか心地が良いと言うか、本当に女の子なんだなって思っただけだよ。許して。」


「……本当ですか?髪の毛を間近で臭っていい匂いがするとか、思ったより軽いんだなとか思ってないですか?」


「なっ何を言ってるんだ、そんな変態なこと考えてないよ!」


ごめんアリス、俺は実はロリコンで変態なのかもしれない。

こんな事クレアに言われたら、今度は魔王城におつかいに行かされてしまうかもしれない。


しばらく経って、俺が女の子を抱いているという事実になれ始めた頃、俺達は街の中に入った。

幸い街には人があまりいなく、俺とアリスがこんな状態で歩いていることは今のところ見られていない。


街に入ってすぐのところに服屋さんを見つけた。おそらく靴もセットで売ってあるだろう。

俺はそう思ってアリスを抱えたまま入店する。


「すみません。靴とか売ってないですか?」


俺は男の店員さんに話しかける。


「お客さん!?珍しいこともあるもんだ。靴なら売ってありますよ。その抱いてる嬢さん向けのものですか?」


どうやらこの男の人はアリスを俺の子供か何かと勘違いしてるらしく。怪しさもなしに話しかけてくる。


「そうです、そうです。」


俺がそう言うと、店員さんは女の子向けの靴を見に行く。安い店だといいのだが。


「あのアオト様、もう店内だし、下ろしてもらってもいいですか?」


店員さんが見ていない間に、アリスが小声で俺に告げた。


「そっそうだな、はい!」


俺はそう言われるとアリスを地面におろす。なぜか少し残念がっている俺がいたが、

俺はロリコンでは(ry


「こんなのはどうですか?値段は2000マリアです。」


2000マリアということはさっき倒したスライム分と同じぐらいのお金だ。結局プラマイゼロになってしまた。


「それでいいです、ハイお金はこれ。」


俺は店員さんにお金を渡し、アリスに新しい靴を渡す。アリスは何故か目をキラキラさせてそれを見つめている。その後、店を出て初めてアリスが靴を履いた。


「アオト様、ありがとうござます!」

アリスは先程と同様、目をキラキラさせて俺に礼を言った。


「いや、俺怒られるようなことしかしてないけど」


「あの靴はもう小さい頃からずっと履いていたんですよ。新しい靴なんてなかなか買ってもらえませんから。」


アリスと俺とクレアの間には大きな価値観の差があるようだ。クレアはお金持ち思考。俺は普通。アリスは貧乏思想だと思う。


「喜んでもらえてよかった。お前の抱き心地もまあまあよかったぞ。」


「……今の発言は聞かなったことにしておきます。けど本当に嬉しいですよ。」



アリスは微笑んで俺の方を見て顔を少し傾けた。夕日が彼女に差し込み、その笑顔を明るく照らしていた。

ブックマーク登録、評価共にありがとうございます。

次の回からはだいたい1000字ほど文字数を減らします。理由としては、自分で読み返した時にすごく長いなと思ってしまったことと、オチが書きにくいことがあります。

1000字分の時間は誤字チェックにつぎ込もうと思います。

よろしくお願いいたします。

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