第六話『普通のお茶』
「ああ、やっぱりアリスの作ったご飯は最高だな!」
俺は昼食を食べながら言う、献立は子羊のシチューをメインとして、柔らかく作りたてのパン、野菜の入った肉団子スープ、よくわからない赤色の果物のデザート… どれも一級料理人が作ったような味で、庶民が食べられるようなものではないことがわかる。
小さい頃から味にはうるさかった俺が言うのだからそこに狂いはない。実は俺もアリスほどにではないとしても少し料理ができる、また、俺がいた世界の料理も作ってもらいたいなあ。
クレアはスープをスプーンで口に運ぶのを、なにか思いついたかのように止め、俺に話しかけてきた。
「アオト専用の部屋をこの屋敷の何処かに作らなきゃね。今日は申し訳ないけど目覚めた部屋で寝てくれないかしら?」
「んん?あの白の天井の部屋か、俺はあそこが俺の部屋でもいいぐらいだけど。」
俺が起きた部屋はそれほど古いわけではなく、ベッドもついてある。机も確かあったような気がする。
俺のいた世界での自分の部屋より広いぐらいだ。
「いや、あんな狭い部屋、申し訳ないからちゃんと用意させて。私は自分の部屋があれだったら嫌だわ。」
さすがお嬢様と言ったところ、クレアは『狭い部屋』と言い切った。
「そうなのか…じゃあお言葉に甘えて広い部屋をもらうことにしようかな。」
価値観の違いから、少し残念そうに俺が答えたが、クレアはなぜ俺が残念がっているかわからないようで、首を傾げている。
「それはそうと、アリス。このあと話がしたいんだが、どこかで話せないか?」
俺はアリスの方を見て話しかけた。
明日のお出かけに備えて、いろいろとアリスと話し合いたかったのだ。まだどこにあるのかも知らないし、何がどう危険なのかもしらない。
「これからの用事もしばらくありませんので大丈夫です。庭に置いてあるテーブルで話しましょうか。」
食事が終わると、俺とアリスは屋敷の庭に向かった。屋敷の外においてあるテーブルからは、色とりどりの花が見える。噴水からは水がシャワー状に吹き出していて、日本ではなかなか見られなかった光景だ。
「せっかくですし、お茶を淹れてきますね。アオト様はくれぐれもじっとしておいてください!」
アリスはそう行ってお茶を淹れに屋敷の中に入っていく、また客人用のお茶パックを使われるのが嫌なようで、俺がこの場に留まるように強調して言った。
「お待たせしました。こちら『普通の』お茶でございます。」
『普通の』を強調して言った。
「ありがとう。で本題なんだが、明日はフェアリー茶屋に行くってことだが、それってどこにあるんだ?」
「フェアリー茶屋はクレア様も仰られた通り、この都の更に北にある都市にあります。
その都市の名前は『ノーストレーディング』、北の都市の中でも貿易に特化した街で、大陸の南から仕入れられた、貴重な茶葉を売っているのがフェアリー茶屋なわけです。」
「それだけ聞くと、あんまり道中は苦労しなさそうだけど。大都市なんだろ?じゃあ道路とかも整備されてるんじゃないのか?」
「ここからが問題なのです。ノーストレーディングに行くには途中で『死川』を超える必要があります。
その名の通り死の川で、モンスターはもちろん、貴重な貿易品を狙う盗賊なども存在しています。」
「けど、V1フィールドより離れているよな。強い敵はいないんじゃないか?」
「そのはずなのですが、最近グッピネルやその上位種グッピネスなどが目撃されていて、魔王軍の幹部がもしかしたらあの周辺来たのかも、とまで言われています。」
「なんだそれ、怖すぎだろ。今からでもクレアに謝ってなしにしてもらえないのか。」
俺は少し怖気づきながら言った。まあ今頃行かないと言ってもかっこ悪いし冗談交じりだが。
「なっ何を言ってるんですか!?私を守ってくれると言いながら、逃げようとしているのですか!?すごくかっこわるいですよ。」
「冗談だよ、冗談。じゃあ帰りはここにテレポートできるように俺がテレポートを覚えておくよ。
そこにいくまで、何時間ぐらいかかるんだ?」
「いや何時間と言うより丸一日かかります。泊りがけですね。」
「おいちょっと待てよ、とっ泊りがけ!?、俺とアリスが!?」
俺は女の子とお泊りなんか一回もしたことがない、あっちの世界にいたときも、お泊まり会とは無縁の勉強家だった。
けど友達いないわけじゃないから!……たぶん。
「なっなんですか!変な期待しないでくださいね!
もちろん別室で寝させてもらいますよ!」
アリスはこれが嫌であんなに怒ってたのかもしれない。俺もよくわからない女の子といきなり命をかけたお出かけをして、その道中でお泊りしてください
なんて言われたらその原因を作ったやつにめちゃめちゃ怒るだろう。
今回の場合その原因を作ったやつが俺だ。ごめんアリス。マジでごめん。
「わかってるよ。じゃあそのお茶パック代は何円だ?」
「なんえん?何マリアということですか?おそらくアオト様が使われたもので、1セット2500マリア程でしょうか。どうせなら2パックほど買い出しに行きたいですね。」
「お茶ごときに5000マリアか…。この服でさえ魔導石とセットで10000マリアなのに…」
「グズグズ言っても仕方がありませんよ。アオト様が間違えて使ってしまったのですから。」
「ぐうの音も出ないな。わかった。ありがとう。俺は部屋に戻って魔術の勉強でもしてくるよ。」
「わかりました。明日は一日よろしくおねがいします。」
そう互いに言ったあと、お茶をズズズと飲んで解散した。
お茶は客人用のものではないにしろかなり美味しい部類だ、俺はなんていい居候…いや拠点を手にしたんだろう。―――
俺はあの白い天井の部屋に戻り、椅子に座った。
そして魔書を机に置き、魔術の勉強を始めた。あっちの世界でも勉強は得意だったので集中力はある。
どんどん読み進め、魔法を習得していくうちに、あることに気づく。
ここに載っている魔法って、全部同一人物が作ったものではないのか?
根拠は1つだ。 『刻魔』のコードになにか癖のようなものがある。
例えばファイアのコードは『手→マナキューブ→魔力→炎』を意味する術語で書かれているのだが
最終的に出る場所が手なら『マナキューブ→魔力→炎→手』こちらのほうがわかり易くないだろうか?
この実行順番は魔法の発動にはあまり関係がないらしく、ヒールなど、実行順番によってその魔法が真価を発揮するもの以外は、最終的にその魔法がしっかりと働くように自動的に修正されるらしい。
しかしながらわかりやすくするために出るところは最後に書くべきだと普通は考えるはずだ。
この癖はこの本のすべての魔法に見られ、どういった理由でこんな癖のある書き方をしているのかわからない以上は、誰か癖を持った人が一人で作ったようにしか考えられない。
まあそんなことはどうでもいいことで、俺は魔法を一通り習得すると、クレアのもとに向かう。
図書室の前まで歩いていき、今度はノックとそれに加えて、入室の許可を求める声を発する。
また変態呼ばわりはごめんだ。しっかりと声を出した。
「おーいクレア、入っていいか?」
「いいわよ。入って。」
「お邪魔します。」
俺はそう言って図書室の中に入り、クレアの様子を見る。
クレアは今日の朝と同じことを、同じような環境でしており、クレアの座っている椅子周辺の机の上には、大小様々な本が積まれていた。
「なにかようかしら?」
クレアが研究の手止めて、俺の方をみて言った。
「ストレージで、俺の剣を取り出してほしいんだ。あと、ちょっと俺も魔法が作ってみたいから作り方を教えてくれると助かる。」
俺がそういうとクレアはストレージを唱え、魔剣を取り出した。
「はい、どうぞ。」
クレアが俺に魔剣を渡す、この魔剣は軽いのだが、大きくてかさばるので、俺も習得したストレージでそれをしまった。
クレアが続けてこう言った。
「たぶん、アオトなら簡単な魔法なら作れるわ。ちょっと魔書を取り出して。」
そう言われると思って、魔書は部屋から持ってきていた。
「それの最後のページに書いてあることは読んだ?」
「ああ読んだ。」
書いてある内容は簡単で、魔法は誰でも作れるということ、魔力の消費は使う属性とコードの文字の数、そしてコードのレベルによって決定されること。
魔法を作るときは、必ずこの本を使うこと。
これ以外の本を使うと、とんでもない魔力を消費するコードが書けてしまったり、呪いにかかる可能性があるということが書いてあった。
「なら安心ね、魔書の表紙に書いてある、赤い目をすばやく二回つついてみて。」
俺は言われた通りに表紙を二回突く、すると本から赤色の魔法陣が発生し、刻魔に使われていた術語がオレンジ色に着色され空中を舞う。
「その飛んでる文字を辞書で翻訳しながら、地道につなげていくのよ。魔法作りといっても、地味なものよね。実は今私がしてる研究も地味で味気のないものなのよ。魔法は根気勝負だと思うわ。」
クレアは少し残念そうに言った。
確かにこんな魔法陣が出ても、することが文字並べなら拍子抜けだ。
「どんな世界も結局、地道な努力が一番大切なんだよなあ。」
俺はあちらの世界での生活を思い出す。部活や勉強、あれらは全て努力によって成せるものだった。
この世界も例外ではなく、努力こそ一番の成功の近道なのだろう。
それから俺はずっと魔法を作り続けた。
しかしながら自分のレベルに合っていない術語は触れると電撃のようなものが走り、俺がそれをつかむことを阻止する。
これがこの本の安全装置なんだろうか。もっと優しく警告してくれよ。
十分魔法を作ったところで、俺はクレアに礼を言い、図書室から出ようとする。
すっかり夜になってしまったが、クレアはまだ研究を続けるようだ。
途中から眼鏡をかけ始め、本を真剣に読んでいるクレアを見つめる。
ライトで透き通った肌が照らされている。白い髪がその肌を飾り付けている。
気づくと俺は、クレアの顔を凝視してしまっていた。
本当に美人さんだから仕方ないよね。目の保養だから、減るもんじゃあるまいし見るぐらいいいよね。
自分に言い訳をしていると。
「……私の顔に何かついてるかしら?」
「アッ!エッ、ななななんでもないよ!じゃあ俺は寝るから、クレアも早く寝ろよ。おっおやすみ!!」
すごく動揺しながら、早口で言って逃げるように図書室を後にした。
自分の部屋に戻り、ライトを消して就寝しようとする。
今日1日でいろいろなことがあった。明日はいよいよ今日身につけた知識を使う1日になるだろう。
高度な魔法を使うためにも、道中でレベルを上げていきたいな。
そんなことを考えていると、いつの間にか寝てしまっていた。
「ババッババッババッババッババッババッババッババッ」
朝早くに俺の自作魔法が炸裂する。
この魔法は、『タイムメジャー 』というものだ。実行して任意の時間が経った後に、氷属性と火属性の魔法で空気に温度差を生じさせ、音を発生させる。
まあ、目覚まし時計代わりの魔法だ。スヌーズなんて便利な機能はないが、これ売れるんじゃないだろうか。
少し音が大きすぎるのが欠点といえば欠点だが。
「なっ何事ですかっ!」
朝早くからすでにメイド服に着替えていたアリスが俺の部屋に入ってくる。
「アリスぅ…おはよう。」
「なっなんなのですか?あの音は。」
俺はアリスにこの魔法の素晴らしさを説明した。
アリスは終始呆れた顔で俺を見ていた。
「アオト様…何を言われているのですか。自力で起きる努力をしてください。爆発でもおきたのかと思いましたよ。」
「アリスの物言いもわかる、けど俺はこの爆音がないとおきられない生活を続けてきたんだよ。」
「どっどんな生活をされてきたんですか…心臓がいくつあっても足りませんよ。」
「わかったわかった、次はもう少し音が小さくなるよう改良しとくから…」
そのあと少しだけアリスと会話して、朝食を食べた後、アリスと最後の準備の確認をする。
アリスはメイド服には不似合いな大きなリュックサックにあれでもかこれでもかというほどものを詰め込んでいる。
一方俺は、魔剣と魔書、クレアからもらった回復ポーションをポケットの中に入れただけで準備完了だ。
玄関前に俺たちは移動し、靴を履く。
「それでは、行って参ります。」
アリスはクレアとノリスさんにお辞儀をしながらそう言う。
「じゃあ行ってくる。アリスは俺が守るから安心してくれ。」
その言葉にアリスがビクッと反応を見せた気がしたが俺は気にしない。
「じゃあ、ここで待ってるからね。気をつけて。」
「行ってらっしゃいませ。アオト様、アリスを頼みます。」
俺はクレアとノリスさんのその言葉に笑顔で返事をして、アリスと共に扉を開け外に出た。
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今日は用事があって投稿が遅れましたが、基本的に夜十時を目安にして投稿していきます。
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