#2 ロボと氷と食事と。
「あっつーー」
ひとまず、最寄りの「ルオネ」という街に寄ることになった。森を出て平原を歩いているが、日が少し傾いてるのに関わらず、気温は高くうんざりする。
……と、自然に対して悪態をついていると。
「ピー! テキ ハッケン。ケンカ カイシスル ゴザル」
な、なんだ? ロボット?
頑丈そうな鉄で構成された、縦長な長方形でできた胴体に正方形の頭。いかにも絵に描いたようなロボット〜、って感じのロボットだ。
いやでも、なんでこんな草原の中で……?
「ロネアの手先か!?」
カンデラの言葉にハッとし、みんなが臨戦態勢をとる。
ケンカ得意ロボットが行く手をふさいできやがった!
相手は機械だ。どう攻めれば……と考えてると、ケンカ得意ロボットは録音された音声を出力した!
「泣かすぞ!」
音質が酷く、なんとか聞き取れるくらいだったが、まあ迫力を感じない。心なしかメンチ切られてる……ような気がするが、相手はロボットだ。気のせいだろう。うん。
ケンカ得意ロボットは録音された音声を出力し続けた。
「やんのかコラ!」「きめーんだよ!」「殴るぞ!」
いずれもやっぱり音割れが激しく、てか殴るぞ言われましても腕も何もついてないじゃん……。録音音声流してるだけで、むしろ無害な気がする。
「アホらし、おらっ」
胴体のド真ん中にキックすると、いとも簡単にへこんで倒れた!
「アアアア コワレチャッター」
「へっ、力じゃ負けねーよ」
ポンコツになったそれに、捨て台詞を吐いて去ろうとすると。
「アタシのロボちゃんが……」
「……はい?」
俺を覆う影。
それは、人間を遥かに超えた巨体。一つ目で、手に握られているのはトゲトゲがついた金棒。その体格からして恐らく男の……サイクロプス。
「へ、へへ。どうも」
笑ってごまかす作戦を試みた。
しかし、あちらさんは見るからにヤバそうな金棒を振り上げ……。
「アナタね……タダで済むと思うんじゃないわよっ! おしっこちびっちゃいそうなくらいのイターイ思い……アナタにあ・げ・るッ!」
仲間の3人が危ないっ! と叫ぶと同時に一瞬で振り下ろしてきた! ズゴオオォォォン!
ああああ危ねぇ! な、何とか、辛うじて横に避けたものの、地面から伝わる体感したことのない衝撃で確信した! これ、一発もらったらオシマイだ! おしっこちびるどころじゃねぇ!
「チョコマカとすばしっこい人間達ね! どうやらアタシの究極奥義が欲しいようね……」
「なななんだなんだ!?」
「警戒しろ!」
スーリの一言からも、とても緊張感が伝わる。この3人は俺よりよっぽどこの世界の、コイツら魔物にも詳しいんだろう。なら言うことを聞いて無理に突撃せず、素直に様子をうかがう方が吉だ。
「アタシをただの脳筋オカマサイクロプスだと思ってナメてるでしょ! とっておきの氷結魔法を見せてあげるわ! くらいなさい! クオオォォォッーー!」
「みなさん、息を止めてくださいっ!」
「えっ? なんて!?」
サイクロプスの変な声のせいでソルが何か言ったが聞き取れなかった!
すると、まるで大量のドライアイスに一気に水をぶちまけたような白い霧が、辺りを一瞬で包み込んだ!
さ、30cm先すら前が見えないっ……! そんでもって微妙にヒンヤリしてる……でも、これが究極奥義? とっておきの氷結魔法? たしかに前は見えないが……。
そうこうしていると、やがて視界が晴れ元通りになった。なんだったんだ、今の。大したことないじゃないか。
「アタシの魔力だったらアナタ達を凍らせることも、氷塊を作ることもできないわ。せいぜいちょっと冷やすぐらい。それを応用した今の氷結魔法はねぇ……霧を吸った人の体温低下を感じたら、その人が更に冷える潜在タイプの魔法なのよ!」
ど、どういうことだ……?
「人の体温が急激に下がるのは睡眠時。つ・ま・り! 今の冷気を吸ったが最後! 今夜は確実に寝冷えするのよッ! 覚悟なさい!」
やべぇ、思いっきり吸っちまったよ! 死ぬより全然マシだけど地味に嫌な魔法だな!
「さぁて、ネビエールを使ったことだし、最後のしあ……げ……に……っ!?」
途端に、動きが鈍くなった! な、なんなんだ!?
「本物の氷結魔法ってのはこうだ!」
見ると、カンデラがサイクロプスの体を徐々に凍らせてるみたいだ!
「よっしゃ畳み掛けんぞっ!」
「行きましょう! ルクサリッド様!」
「えっ? お、おう!」
ヤツの体が氷に包まれたところを俺は剣、スーリは槍、ソルは杖で3人同時に叩き込む!
「ギアアアァァァッ!」
サイクロプスは、一撃で粉々に砕けた!
「はぁ、はぁ……」
疲労。達成感とか安心感じゃなくて、まず出てきたのは疲れだった。
「大丈夫か? かなり消耗してるみたいだが」
スーリが心配の声をかけてくれた。
「いやまーな……戦うってこんなしんどかったんだな……」
ゲームの主人公や登場人物、ホント尊敬するわ……。
「日も落ちてきましたし、今日はもうここで休みましょうか」
「そうだね。料理は任せて」
「よしきた! ほらボサっとしてないでテント作るぞルクス」
ソルの提案に乗るスーリとカンデラ。ここでテントってことは野宿……!?
「俺、人生初キャンプだわ……!」
慣れないことだが、子供の時からやってみたかったので少し感動を覚える。
〜〜〜〜〜
前言撤回。今すぐ帰りたい。だって……。
「ビロ虫のピリ辛炒めだ」
テントを組み立てながら、カンデラは料理ができるとスーリから聞かされてたが……。
「キッモ……つーかキモ! あー見ない見ない……」
ストレートな感想が思わず口に出た。悪寒がする。もうなんつーか、完全にカサカサ動いて黒光りするアレそのままが……今にも動き出しそうなそれが、うじゃうじゃ皿に乗ってて……うえぇ……絶対食いたくねぇ……。
「あ、あはは……俺ぁいいかな。うん。スーリにやるよ」
「マジで!? よっしゃぁ!!」
うわぁ本気かコイツ。
「コラコラ。ちゃんと食べないと体が持たないよ? ここのビロ虫は極寒の地から熱帯まで広く分布してて、寒暖差に強い。雑食で、様々なものを食べてるからタンパク質、ビタミン、アミノ酸など多くの栄養を一度に取れる食材と言っていい」
「カンデラさん説明どうも、つまり何食ってるかわかんねーってことじゃねーか」
「衛生面なら問題ありませんよ。よく加熱してますし、食用として育てられたものなので、ちゃんとした餌を食べてるはずです」
「ソルも、そーゆー問題じゃねっつの! どっちかってとビジュアルだよ! ゴ……じゃない、ビロ虫なんて食えるかっ!」
「あなた今夜寝冷えするでしょ? だから少し辛くしてしっかり体が温まるようにしたのよ」
カンデラぁ〜……善意って恐ろしい。てかなんだよ昆虫食って。一体どこの誰が最初に虫なんて食おうと思ったんだ。
「ああぁ〜、俺実はお腹いっぱいなんだよね〜。悪いなぁ。ほら、スーリ食えよ」
無理矢理スーリに皿を押しつける。
「うっひょひょ〜い! モグモグ! うんめぇ〜!」
うえぇぇえ……嘘だろ正気か!? なんのためらいもなく普通に食いやがった! 女子達も普通に食ってる!
「あー、俺もう疲れてるし寝るわ。おやすみ!」
ショッキングなお食事シーンに耐えきれず、逃げるように男子用テントに潜り込む。
この先が本当に思いやられる。降りかかる命の危険、野蛮な食事、知り合いも誰もいない……。
さっさと悠人と翔吾を見つけださないと。
明日には街に着くらしいし、そこで情報収集するかな……そう考えながら瞼を閉じ、眠りに落ちた。
もちろん、ちゃんと布団を何枚もかけて。
お恥ずかしながら前回まで段落付けしてませんでした。
また、これからはどこか間抜けで憎めない敵が多くなりそうです。