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友を探して。  作者: 三咲
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#1 旅の始まり。

201X年



カチコチと、秒を刻む音がやけに耳障りだ。カーテンを揺らす風がなびく音すら、ストレスでしかない。

来年は大学受験だ。志望校は決まってないが、備えあれば憂いなし。数時間机とにらめっこしている。

……が、にらめっこしているだけで一切手が動かず、どうも集中できない。

ひとつため息をつきながら窓の外を見ると、月の色は透明で黒い空の色だけがそこには広がっていた。

二人ともいなくなる前日は、こんな月の無い夜だった。

いじめられっ子だったけど、頭が良くて誰にも負けない優しさを秘めてた悠人。

ちょっと調子に乗りすぎる部分もあるけど憎めないやつで、周りを明るく照らしてくれる翔悟。

俺たち三人はずっと一緒に友達でいられると思った。


……二年前、悠人が行方不明になるまでは。

いつものように俺の家のこの自室でゲームして、玄関で「また明日な」と交わしたのが最後だった。

俺たち三人にとっての「明日」は二年経ってもまだ来てない。それどころか一年前に翔吾までもがいなくなった。

この街じゃ年に一回、俺らぐらいの年齢の奴が失踪するってのはちっちゃい頃から知ってたが、どうして?

どうして二人じゃないといけなかったんだ?

はは、もう俺もどこか遠い……ここじゃないどこかに家出しようかなーーなんて。

この精神状態じゃ勉強に身が入らないのは明白だ。ちょっと仮眠でもとろうか。

俺は座ったままつっぷくして睡眠体勢に入った。




ま、まぶしい……。

思わず腕で目を塞ぎ、うつ伏せにゴロンと寝返りをうった。

……寝返り? 俺座ったまま寝てたんじゃーー?

瞳に光が一気に入りすぎないよう、徐々に目を開く。

木、草、生い茂る緑……つまり、森?


「ん、起きた?」

「はわわ……大丈夫でしょうか……!」

「ルクサリッド、ご飯だぞ〜起きろ〜い」

三人ぐらいの声。


立ち上がってノビする。が、何か違和感を感じる。

「あれ、俺こんな背高かったっけーーえっ?」

背だけじゃない。声もなんか違う……!?

慌てて身体を見る。頑丈そうで、ファンタジーもののゲームとか漫画に出てきそうな甲冑をつけて……って何だこの格好!?

振り返るとそこには、短髪でそわそわしてる小柄で青髪の女の子、背が高めで髪を括った金髪ツリ目女子、それに赤い帽子をかぶった陽気そうな男がいた。


「あーっと……」

俺が突然の状況に困惑して言葉を出せないでいると、帽子男が肩をポンとたたいてきた。

「いやービックリしたぜ。急に雷が落ちるなんてツイてないな〜王子サマ」

「は、え? 王子? は?」

更に混乱に陥る。なんだそれ?

「あのあの……蘇生魔法とか初めてなんでその……どこかおかしなところとかってないですか……?」

と、青髪の子。

「おかしなって……全部?」

「ウァッハッハッハ! こりゃ傑作だ! おかしなところ? 全部! ってか! ハッハッハハウ……ゲホゲホッ」

んだこの帽子野郎……笑いどころじゃねーしむせてるし……。


「記憶がないの?」

金髪ツリ目の女の子が真面目なトーンで返してくれた。

「いやまぁそんなもんなのかな……ってかここどこ?」

「ゲホゲホッ、あー。ここぁ森だ」

見りゃわかるわ。

「メイル地方の南にある森。私はカンデラ。妹のソルとアホ一般人のスーリだ」

ふむふむ。金髪カンデラに青髪ソル、帽子はスーリ……って名前なんては訊いてないが。


「えぇーっと、ちょっと待てよ。一回整理させて」

心の中で状況を振り返る。

俺は何していた? 勉強だ。集中できないから一眠りしようとして……気づいたらここ。

体も俺の体じゃない。誰だ? 誰かに乗り移ってるのか?

スーリがさっき俺に向かって王子サマとか言ってきやがったってことは……王子の体を乗っ取ったってことか!?


「えっと、一応訊いとくけど……俺の名前は?」

「ルクサリッド・フォル・デラエスト。フォル王国の王子だ」

淡々とした口調で答えるカンデラ。

うわやっべぇ……俺マジで王子なのかよ。


「で、俺たちなんで森にいるわけ?」

ソルとスーリが答えた。

「魔物を倒す旅に出てるんですが……」

「いきなり雷がドッカァーンってさ! お前に直撃。白目剥いて泡吐いたから、急いで日陰に移ってソルっちの蘇生魔法ってワケ」

「マジかよ……」

なんだかとんでもないことに巻き込まれた気がする。

「蘇生魔法で記憶喪失ってのはよくあるらしーぜ? まー蘇生自体は失敗しなかったんだし半分はセーフ」

もう半分はアウトじゃねーか。その前に蘇生なのに記憶欠落とかよくあっていいのかよ。


「おしゃべるしてるとこ悪いけど、後ろ」

「へ?」

カンデラが顎で俺の後ろを指すと、低いうなり声をあげながらこちらを睨んでいる、大型の狼がそこにはいた。

あら〜! よだれ垂らして歯をカチカチさせちゃって、今にもかぶりついてきそうでヤバそうですねってか確実にヤバい……!

「よっしゃ戦闘だぁー! 王子の剣さばき見せてチョ!」

スーリがやたらとハイテンションになって片手剣を渡してきたけど……重っ! やっぱ本物の剣ってのは重みが……じゃない、早く殺らないと殺られるッ!


「くそっ……おらっ!」

片手剣なのに両手で持ち、ぎこちな〜い動きで縦に斬りかかると、いとも簡単にヒットし倒れて動かなくなった。

「さすがルクサリッド様……!」

「俺だったら3発は喰らわせないと倒せねーよ……どうやったら強くなるんだ!? 魔法もすげえしよぉ……」

いや俺が知るかよ……。とりあえずこの身体、なかなかの力と魔力を持ってるらしい。

でも割と強そうな狼一撃で倒せたし? これだけ強かったら、戦闘は問題ないだろう。うん。


「油断しないで! まだいる!」

と安心しているとカンデラが急に叫び、振り向くと……今度は3匹!?

「こういう時は魔法で一掃してください!」

ソルにアドバイスをもらうが、魔法ってどうやって……?

「ええーっと……ファイア!」

……し〜ん。

「燃えろ! 炎よ!」

どどどどうすればいいんだよ! くそ、魔力高かったって肝心な魔法の使い方わかんないから意味ねぇっ!


「おいおいどうしたルクス! いつもみたいに炎の魔法でやってやれ! 俺はおうえんしてるぞ!」

「アホか! ただの高校生が魔法の唱え方なんて知ってるわけねーだろ! って、うお!?」

そんなこと言ってたら1匹が噛みつこうと突進してきやがった! 奇跡的に避けられたけど、確実に殺しにきてるコイツら!

こんの……! こうなったらもう魔法なんて知らねぇ! 物理こそ至高! 脳筋最高!

「ぶった斬ってやらああぁぁッッ!」

雄叫びをあげながら剣を振り上げ、自分の力と重力に任せて振り下ろして斬りかかった!

慣れず不器用な戦い方だが、まず1匹仕留めた……が。

その隙をつくようにして残りの2匹が飛びかかってきた!

「うおおおタンマ!? ぎゃあああああぁ!」

思わず目を瞑った。もうダメだ……! こんなわけわかんない場所で死ぬのはごめんだ……! もうやだ! 帰りたい! うあああぁぁ!


…………。

痛くない……? それどころか衝撃すらない。

目を開けると……スーリが槍で1匹を貫き、もう1匹は黒焦げになっている……。

「ったくあっぶねーな。しっかりしろよ、オ・ウ・ジ・サ・マ」

「薄々感じてたけど……明らかに何か様子が変。口調も変わって、戦い方も素人のそれだ。ただの記憶喪失じゃなさそうだけど」

スーリとカンデラに責められてる……けどお前ら俺が危なくなるまで傍観してたろ。


「本当の事を教えて。あなた、本当にルクス?」

腰が抜けて座り込んでる俺の顔にずずいと近寄って、カンデラ。

「ちょ、顔近っ……あ、い、いやあのな。俺だってその……よくわかんねーんだ」

「どういうこと?」

「どっから説明したもんかな……」


三人に今に至るまでの経緯を、自分のわかる範囲内で説明した。

こことは全然違う場所にいたこと。戦いも魔法も知らないただの高校生だったこと。

街の行方不明事件で悠斗と翔吾をなくし、ボンヤリした日々を送ってたこと。

どこか別の場所に逃げたいと思ったら、ここで目覚めたこと。


「じゃあ、あなたはルクサリッド様じゃなくて……アカノさんってことですか?」

不安げな声で、ソル。その顔から、心から心配していることがうかがえる。

「まー中身はな。身体はルクサリッドってやつのモンみたいだけどな」

「じゃあ俺達の知ってるルクスはどこいったんだ? まさかアカノの身体を乗っ取って!?」

スーリも状況を理解して焦りを感じはじめたみたいだった。

「わからないな。だが、あたしたちはロネアを倒せないといけない」

淡々とした口調でカンデラは言うが、後半部分に疑問が生まれる。


「ロネアってなに?」

「この世界の人々を苦しめる魔物です。多くの人が誘拐されてて、他にもいろんな悪い噂があるんですよ」

「何人か討伐しに行ったきり帰ってきてねーしな。どこにいるかわかんねーぐらい謎に包まれてるけど、話によると王族の力が必要だとか」

ソルとスーリによる解説を聞いて、改めて知る。

明らかに面倒すぎることに巻き込まれた。

「……俺の家までの帰り道、知ってる?」


「気持ちはわかるけど、今のあなたはルクサリッド・フォル・デラエスト。あなたには使命があるの。絶対に逃げちゃいけない」

カンデラに諭されるも、向ける先のない怒りと悲しみが混ざった感情が湧き出てくる。

「勘弁してくれ! いくらこの身体が強くても命の危険があるのはごめんだ!」

「まーまー落ち着けって。お前、友達いなくなったんだろ? 今お前がここにいるみたいに、どっかにいるかもしれないぜ」

言われてみれば……その線は否定できない。肯定もできないが、あれだけ探して見つからなかったんだ。こっちの世界なら、探せばいるかもしれない。

「……わかった」


こうして、俺の長いようで短いような、奇妙な旅が始まった。

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