new world
「夢見る少女じゃいられない」
限界突破していく人生を思い描いて生きたいの。誰かのために生きる? 何かのために頑張る?
そんなことで自分の人生うまくいくわけないでしょ! 自分のために生きるのよ!
夢を抱いた少女は、目を輝かせて魔法都市の門をくぐった。
空を見上げれば人、人、人。こんな世界見たことない。なんて素敵なの! 少女は胸を躍らせた。
「私の世界、これからきっと素敵なことが起こるに違いないわ!」
胸を躍らせ心を躍らせ、少女の体は宙に舞うがごとく、綺麗に輝いた。
彼女の所属はA棟3階。少し見た目は悪いけれど、これが「味」なのだと理解した。
重い扉をギィッと開けて、少し埃っぽい玄関を通り抜けてから、真ん中にある小さな受付でベルを鳴らした。
「誰かいらっしゃる? 私、今日からこちらでお世話になるのだけど」
声をかけると扉が開き、年老いた白髪の女が顔を覗かせた。
「……今日だったかな」
「今日よ。連絡は届いているはずだわ。確認して頂戴」
白髪の女は帳簿を開き、唇に指を当ててページをめくった。
「ああ、確かに。私が忘れてたわ。ごめんなさい。今日からの方ね、はい、こんにちは」
「こんにちは、マダム。今日からよろしく」
「はいはいはい」
鍵を渡され階段をあがり、一番奥の部屋の前へ着いた。大きく息を吸い、ここから自分の素敵な世界が広がるんだとわくわくしながら、さあ、最初が肝心と鍵穴に鍵を指し込み、ゆっくり扉を開いた。
「こんにちは」
「……こ、こんにちは?」
誰もいないはずの部屋に、誰かがいた。というか、何かがいた。
「今日から来たの? とっても久しぶり」
「そ、そうだけど、あなた、ここの部屋の人、なの? ここの鍵を渡されたのだけど……」
「合ってるよ。ここが君の部屋だよ」
人ではない。妖精と言った方が正しいだろうか。いや、妖精、でもなさそうで。
人型ではなくて、どちらかと言えば何かの花に近い。しかし四肢はあって、羽もある。虫とは違う。鳥とも違う。全体的にチューリップのようだが、色が薄い緑で、花なのか草なのか。なにはともあれ、よくわからない生体であった。
「先住の方? ごめんなさい。私、挨拶もせずに開けちゃって」
「いいんだよ。みんなそうさ」
子どもの声。頬が少し膨らんでいて、表情も可愛らしい。害があるようには見えなかった。
「お友達、第一号だわ」
少女はそう思った。きっと、魔法都市においてこの存在はおそらく普通なのだと思った。だって、私は来たばかりで何も知らないんだもの。きっと、そういうものなんだわ、と思うようにした。
「お名前は? 私、メアリー」
手を差し出してみた。相手は、目をまんまるに見開いて手を出した。
「リーって、呼ばれてたんだ」
「リー? じゃあ、リーって呼ぶわ。私のことは、メアリーでもなんでもお好きに呼んで」
リーは地上に初めて降りた光でも見るように、少女の目を見つめて頷いた。
「じゃあ、メアリーって呼ぶよ。今日から、よろしくね、メアリー」
メアリーはリーの手を握った。「握手」と呼ばれるものだ。
「なんだか、不思議な感じ」
「何が?」
「手を握り合うと、何かが繋がる感じがする」
宙に浮いたリーはメアリーの手を両の手で包み込み、優しく笑った。
可愛らしいお友達。私の世界、本当に素敵になりそうな予感!
少女は新しい都市で、新しい友達と、新しい自分を探すことにした。